- ミステリー賞を総なめにしたミステリー
顔を失った身元不明遺体の謎を追う物語。刑事たちの地道な聞き込みと捜査によって真相へ迫る、重厚な警察ミステリー。 - 「人は何をもってその人なのか」を問う作品である
タイトルの「貌(かお)」が示す通り、本作は単なる犯人探しではない。顔、記憶、家族、他者から見た人物像などを通じて、人間のアイデンティティや本質に迫る。人間ドラマとしても読ませる。 - 終盤の伏線回収が圧巻
序盤から中盤にかけては丁寧に謎が積み上げられ、終盤でそれまで散りばめられていた伏線や疑問が一気につながる。ミステリーならではの伏線回収の快感・満足感が味わえる。
★★★★☆ Audible聴き放題対象本
『失われた貌』ってどんな本?

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山中で、遺体は顔を潰され、歯を抜かれ、さらに手首から先が切り落とされた遺体が見つかった。
櫻田智也さんの『失われた貌』は、『このミステリーがすごい!2026』国内編第1位をはじめ、主要ミステリーランキングで高い評価を獲得した話題作です。
近年のミステリーには、新しさを狙い、意表を突いた設定のミステリーが少なくありません。
しかし本作は、しかし本作は、警察による地道な捜査と人間ドラマを軸に、緻密な伏線と鮮やかな真相で読ませる王道のミステリーです。
事件の謎を追う面白さと、人間とは何かを問いかけるテーマ性が見事に融合した、奥行きのある作品です。
タイトルに使われている「貌」という字は、普段あまり目にしない漢字ですが、次のような意味を持っています
- 顔つきや容姿
- 人に与える印象や雰囲気
- その人らしさ
- 本当の姿や正体
本作は、まさにこの「貌」という言葉そのものが大きな鍵になっています。
タイトルに込められた意味も含めて楽しんでほしい作品です。
『失われた貌』あらすじ
山中で見つかった遺体は、顔を潰され、歯を抜かれ、さらに手首から先が切り落とされていた。
身元を特定するための手がかりが徹底的に奪われた異様な死体に、捜査は難航する。
そんな中、一人の少年が警察を訪れる——「その遺体は、失踪した父親かもしれない」
少年の証言によって事件は新たな局面を迎えるも、
捜査を進めるほどに関係者たちの証言は食い違い、過去の失踪事件や別の出来事までもが複雑に絡み合っていく。
なぜ遺体はそこまで損壊されていたのか。
なぜその人物は姿を消したのか。
そして『失われた貌』というタイトルが意味するものとは何なのか。
物語は終盤に一気に加速。複数の謎が一気につながっていきます。
『失われた貌』感想

王道の捜査ミステリー ― エリ沢泉シリーズとは異なる面白さ
櫻田智也作品といえば、虫オタク探偵「エリ沢泉シリーズ」を思い浮かべる読者も多いでしょう。
エリ沢泉シリーズは、主人公・エリ沢泉の独特なキャラクターと、やさしさに満ちた推理が魅力の人気シリーズ。
私自身も大好きな作品です。
その印象が強いと、『失われた貌』を読み始めたときは少し戸惑うかもしれません。
本作の主人公は地方警察の刑事たち。
地道な聞き込みと捜査を重ねながら、複雑に絡み合った事件の真相へ近づいていく、王道の捜査ミステリーです。
序盤から中盤にかけて、少しずつ明らかになる過去の失踪、家族関係、人間関係。
新たな事実が判明するたびに別の疑問が生まれ、なかなか全体像が見えてこない。
そのため、エリ沢泉シリーズのようなテンポの良い謎解きを期待していると、「少しスローな展開だな」と感じるかもしれません。
しかし、それこそが本作の魅力です。
丁寧に積み上げられた伏線が終盤で一気につながり、それまで見えていなかった全体像が浮かび上がります!
深いタイトル —— 人は何をもってその人なのか
本作を読んで最も印象に残ったのは、「人は何をもってその人なのか」という問いでした。
顔を失った遺体から始まる事件は、
やがて記憶や家族関係、他者から見た人物像へと広がっていきますが、それが見事にバラバラ。
しかしです。
- 自分が思う自分
- 家族が知る自分
- 社会が見ている自分
それらは本当に一致するものなのか?
人は誰しも、他人には見せていない一面を持っています。
家族であっても、その人のすべてを知ることはできません。
裏表のない人であっても、家族ですら「本当の顏は誰も知らない」ものなのかもしれません。
そんなアイデンティティの揺らぎが、ミステリーの骨格と結びつき、
「誰がどうやって殺したか」よりも、被害者の“貌”を取り戻すことにつながっていきます。
そこに本作ならではの深みがあります。
『このミステリーがすごい!2026』第1位という評価も、トリックの巧妙さだけではなく、この人間描写の豊かさがあってこそのものだと感じました。
まとめ
『失われた貌』は、王道の捜査ミステリーでありながら、人間の本質やアイデンティティにまで踏み込んだ作品です。
顔を失った遺体から始まる謎。
緻密に張り巡らされた伏線。
少しずつ明らかになる真実。
そして読後に残る、人間とは何かという問い。
ミステリーとしての面白さはもちろん、心理小説や文学的な作品が好きな人にもおすすめできる一冊です。
「このミステリーがすごい!」大賞受賞作を、是非、味わってみてください。
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