- 幸せは人類が生きるために発明した“モチベーション”
人は死を意識できる唯一の生物。その不安を和らげるために「幸せ」という概念を作り出した。他の動物に幸福願望がないのに、ヒトだけが「幸せになりたい」と思うのは、生きる理由を必要とする進化の結果。 - 比較・嫉妬・正義感はすべて“生存戦略”だった
他人と比べ、評価を気にし、不正に怒る感情は、集団で生き残るために遺伝子に刻まれた本能。社会道徳でもなければ、性格でもない。 - なぜヒトだけが幸せになれないのか
遺伝子は狩猟採集時代のままなのに、社会とテクノロジーだけが急激に進化。このミスマッチこそが不幸の正体。しかし、それでも「環境と行動」を調整することで「幸せ」に近づけると本書は説く。
★★★★☆ Audible聴き放題対象本
『なぜヒトだけが幸せになれないのか』ってどんな本?
📌【1/8まで】Kindle版 50%還元 講談社現代新書フェア
家族の健康、仕事の充実、穏やかな毎日。
時代や文化が変わっても、人が願うものの核心はいつもひとつ——「幸せでありたい」という切実な欲求です。
しかし、ふと立ち止まって考えると不思議です。
これほど文明が発達し、物質的に豊かになったにもかかわらず、私たちはなぜ「幸せ」を切に願うのでしょうか。
ストレス、不安、嫉妬、孤独──文明が進めば進むほど、心の問題は、むしろ深刻さを増しているようにも見えます。
講談社現代新書『なぜヒトだけが幸せになれないのか』(小林武彦・東京大学教授)は、
この問いに脳科学でも心理学でもなく、「進化生物学」から答える一冊です。
読後に残るのは、「なるほど」という深い納得。
本書は、幸福論であると同時に、「生・死とは何か」「ヒトとは何か」を問い直します。
深い学びが詰まった1冊です。
「幸せ」の正体
本書でまず突きつけられるのは、私たちが無批判に使っている「幸せ」という言葉そのものへの問いです。
幸せとは、人類が生き延びるために発明した“モチベーション”である
他の生物は、「生存本能」はあっても、「幸せになりたい」とは考えません。
ただ今を生き、子孫を残し、生態系の一部として機能するだけ。
誰かの親だったり、何かの餌だったり、生態系の中で他者のために生きています。
しかしヒトは違う。
頭脳を発達させた結果、死を理解し、老いを知り、未来を想像できてしまう。
その結果、「なぜ自分は生きるのか」という問いに苦しむことに。
その不安と恐怖を和らげるために、ヒトは「生きる理由」としての“幸せ”を作り出したと小林さんはいいます。
仕事、家族、恋愛、成功、安心。それらはすべて、「自分の人生には意味がある」と感じるための装置。
「幸せ」とは、ヒトが生き延びるために自ら作り出した“モチベーション”であると同時に、多様な価値観や事柄に使える実に「都合がいい言葉」なのです。
生物学が暴く「幸せ」の正体
では、曖昧な「幸せ」を、進化の視点で定義し直すと何になるのか。
小林さんは、驚くほどシンプルな言葉で言い切ります。
幸せとは、「死からの距離が保てている状態」である。
- 健康でいたい。
- 安定した収入が欲しい。
- 社会に居場所が欲しい。
- 他人に認められたい。
これらはすべて、「死から遠ざかりたい」=「生き延びたい」という本能の別の顔にすぎません。
そして、ここで本書は核心に踏み込みます。
私たちを苦しめているのは、社会でも性格でもなく、「進化の過程で組み込まれた遺伝子」そのものだというのです。
幸福・不幸のヒントは「人類の進化史」に
人類は、単独では生きられない弱い生物でした。だからこそ、「集団で生きる」という戦略を選びました。
狩猟採集時代—この生活では、小さな集団で行動する方が安全で効率的です。
コミュニケーション能力を発達させ、感情を読む力/共感力/提案力/行動力 が進化させました。
そして、自然災害、飢餓、疫病、争いなど過酷な環境を生き抜く中で、「生きることへの執着」 が強い集団ほど生き残りました。
その生存戦略の中心が「結束力」と「コミュニティ」です。
なぜ私たちは、比べ、焦り、嫉妬してしまうのか
狩猟採集時代、仲間に必要とされる個体ほど、生き残る確率が高かった。
その結果、ヒトは次の性質を獲得します。
- 他人より努力する(評価されるため)
- 自分の強みで役割を得る(必要な存在になるため)
- 他者と比較し、優位を保とうとする
ただし、❸でズル・不正で人を出し抜こうとする輩は集団を弱体化させます。
そのために、「正義感・不正への怒り」を持つようになりました。
また、嫉妬も元来は「自分も努力しよう」という行動を促すためのものです。
羨ましい → 自分も頑張ろう。この流れが集団全体の成長を促し、生存率を高めました。
つまり、競争心も、承認欲求も、嫉妬も、正義感も、すべてはは生き残るために組み込まれた「進化のプログラム」。
SNSで他人の成功を見ると落ち込み、不公平を見ると怒り、誰かに置いていかれると不安になる。
これも、心が弱いからではなく、遺伝子レベルで、そう感じるように設計されているからなのです。
私たちは「原始時代仕様の心」で現代を生きている
本書で最も重要な視点は、ここです。
- 遺伝子が変わるのに:数万年
- 社会が変わるのに:数百年
- テクノロジーが変わるのに:数年~数十年
つまり私たちは、私たちの脳と感情は、狩猟採集時代のまま、スマホと資本主義の世界に放り込まれているのです。
本書のタイトルで謳われた問い—— なぜヒトだけが幸せになれないのか
心がざらつく原因— 比較してしまう自分も、嫉妬してしまう自分も、不正に怒ってしまう自分も、
すべては生き残るために獲得した性質であり、弱さではありません。進化の結果なのです。
それでも、幸せに近づくことはできる
本書の後半では、ボルネオ島の狩猟採集民・プナン族の暮らしが紹介されます。
彼らには、格差も、所有も、働き過ぎもありません。
小さなコミュニティで助け合い、自然の恵みを必要な分だけ利用する。
そこに、人類本来の「幸福の形」が残っているといいます。
だから著者はこう示します。
- 助け合いが可能な小さなコミュニティを大切にする
- 比較を暴走させない
- 意味のある行動を積み重ねる
これが、現代における進化的に正しい幸せな生き方だと。
ひたすらお金・裕福を求めるような生き方では、「本当の幸せ」は得られないのです。
最後に――生き方の方向性が見つかる良書
『なぜヒトだけが幸せになれないのか』は、私にとって、大きな気づきとなる一冊になりました。
ヒトが幸せを感じるプログラムは、すでに遺伝子に刻まれています。
問題は、それが現代社会と噛み合っていないこと。
読了で幸福を約束する本ではありません。
その代わりに、「なぜあなたは今つらいのか」を、驚くほどクリアに説明してくれます。
また、これからの生き方のヒントを得たい人にとっても、方向性を示してくれるはずです。おすすめです。
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