- やっと手にした理想の生活だったのに……。タイトル・表紙でホラー小説を想像するも、起・承・転・結とストーリーが進んでいく中で事態が二転三転。大どんでん返しサスペンスミステリーにいい意味で、裏切られる作品
- 主人公は、壮絶な過去を持つ女性・鈴倉茉菜。暴力夫を5年前に崖から落として殺害。人知れず上京し、都内でアパレルメーカーに勤めていたが…
- 人生はドラマ。小説では様々な事件が起こる故、特別感を持って読んでしまうが、普通の人の人生もドラマ。偶然の産物の上に「人生」がある
★★★★★
Audible聴き放題対象本
『殺した夫が帰ってきました』ってどんな本?
恐ろしいタイトルが気になり手に取った桜井美奈さんのミステリー小説『殺した夫が帰ってきました』。
主人公は都内のアパレルメーカーに勤める鈴倉茉菜(すずくらまな)。取引先の男につきまとわれ、自宅前で待ち伏せされる、強引に家の中に入り込まれようとされるも、その窮地を救ったのは茉菜の夫の和希(かづき)。
しかし、その夫は…. 茉菜が5年前に崖から突き落として死んだはずでした… なぜ、殺した夫がココにー
こんなスタートで始まるの本作。表紙といい、出だしはホラーミステリー感満載です。
しかしです。起・承・転・結とストーリーが進んでいく中で、新たな事実で事態は大きく転換。ストーリーは、読み出しには想像すらできなかった、思わぬラストで幕を閉じます。
明らかになる壮絶な過去、友の死、そして、人・家族のつながりー。
大どんでん返しサスペンスミステリーにいい意味で、裏切られます。
- ミステリー小説が好きな方
- 人間ドラマが好きな方
『殺した夫が帰ってきました』 :あらすじ
帰ってきた暴力夫は、まるで別人
5年前、殺した夫が生きていたー。
そもそも、暴力夫は死んでいなかったのか?それとも、夫に扮した誰かなのか?それとも…
暴力夫・和希の出現に恐れながらも、茉菜が「いままでどうしていたのか」尋ねると、和希はケガの後遺症で記憶の一部がないことを明かします。5年の月日が経過した理由も、記憶がないばかりか、体も重傷であったというのです。
和希は、今も茉菜との記憶が思い出せず、自分を知るためにも、茉菜とやり直したいと懇願。放り出すうまい理由も思い当たらず、生活を共にし始めます。茉菜はかつての暴力を恐れるも、現在の和希はまるで別人。優しい態度に、幸せすら感じるようになります。しかし、そんな中、茉菜にかつての犯行をほのめかす、2通の手紙が舞い込むのです。
それと同時期に宮城県警察から、和希と思われる白骨自体が見つかったとの連絡。警察官に茉菜が捜索願すら出さなかったことを疑われます。しかし、確たる証拠もなく、事故死として処理されることになります。
明らかになる過去
益々わからなくなったのが、「夫を名乗る男の正体」。男は、自分は和田佑馬(わだゆうま)という別人であり。2通の手紙を送ったのも自分であったことを明かします。また、佑馬は元々は警察官であったことも明かにしたうえで、茉菜が悲惨な過去を生きてきたこと知っていると明かした上で、一人の老女に引き合わせます。
この事態に、茉菜も、これ以上、自分の秘密を伏せておくことはできないと考え、自分の正体は上坂愛(かみさかあい)であると明かします。
実は、愛はネグレクトの母親のせいで、小学校にも通わせてもらえず、戸籍すらありませんでした。そんな愛を哀れみ、勉強を教えてくれたのが先の老女だったのです。そして、母元を飛び出し、偶然出会ったのが、同じく複雑な家庭環境で育った鈴倉茉菜であったことを明かします。
『殺した夫が帰ってきました』 :感想
さて、前節で述べたあらすじは途中までです。ここで登場人物と人間相関を整理してみます。
登場人物と人間相関関係
ここまでの重要な登場人物を整理すると以下の通り。
- 鈴倉茉菜:妻
- 鈴倉和希:元暴力夫。妻が暴力に耐えかね、また、自分の身を守るために殺害(死亡確定)
- 上坂愛 :鈴倉茉菜に成りすます女性。ネグレクトで戸籍も持たない過去を持つ
- 和田佑馬:鈴倉和希に成りすます、優しいやさしい男性。元警官
浮かぶ謎
ここまでの顛末と人間関係から、以下の疑問が残ります。
- なぜ、上坂愛は鈴倉茉菜に成りすましているのか
- なぜ、和田佑馬は、なぜ、上坂愛の正体を見破るに至ったのか?
- 本当の鈴倉茉菜はどこにいるのか?
- なぜ、和田佑馬は鈴倉和希に成りすましているのか
さらにこんな疑問も出てきます。
- なぜ、上坂愛は、和田佑馬を鈴倉和希だと誤認してしまったのか?
実は、上坂愛は鈴倉茉菜との間にも悲しい出来事があり、また、和田佑馬も悲しい過去がありました。 本当に様々な偶然が重なり、本来なら全く関係のない上坂愛と和田佑馬は二人とも嘘・偽りの身分でつながることになったのです。
この続きは、是非、本作を読んで、真相を確認してください。
人生はドラマ
本作を読みながら感じていたのは、「人生はドラマだなぁ」と言うことです。
本作品では次々に偶然が重なり、上坂愛と和田佑馬は出会うことになりましたが、リアルな普通の人の人生も、本当に偶然が重なって、人と出会い、関係が結ばれているからです。
例えば、あなたの伴侶・彼氏・彼女との出会い。出会う1年前、予想できましたか?
故郷から離れて住む方は、3年前に、今あなたが住む家・マンションに住むことになることを想像できましたか?
多分できなかったはずです。小説ではいろんな事件が起こるので、「特別なこと」のように思いますが、きっと、あなたの人生も振り返ってみればドラマです。
最後に
今回は、桜井美奈さんのミステリー小説『殺した夫が帰ってきました』からの学びを紹介しました。
悲しい事件が色々重なりますが、結末では、優しい気持ちになれました。読了後の感想は人それぞれ。あなたはどんな風に感じるでしょうか。是非、本書を手に取り読んでみてください。