- 『はなとゆめ』は、清少納言が敬愛した一条天皇の皇后・中宮定子との出会いと束の間の栄華、そして、権力を掌握せんとする藤原道長との政争に巻き込まれ没落していく様を、清少納言の目線で描いた歴史小説
- なぜ、清少納言は『枕草子』を書いたのか―
どれほどまでに、清少納言が定子を尊敬し、愛したかに心震える! - 読了後は、作品『枕草子』の見方が、ガラリと変わる!
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Audible対象本
『はなとゆめ』あらすじ
『はなとゆめ』あらすじ:プロモが秀逸!
まずは、Youtubeの『はなとゆめ』プロモーションビデオを見てください。
すごくいい!ストーリーの全体像が分かるだけでなく、涙がウルウルします。感動作品であることがこのビデオを見ただけで分かります。
私が宮中にお仕えしたのは28歳の時。
華やかな内裏の雰囲気に馴染めなかった私に手を差し伸べてくださったのは中宮定子様でした。
宮中で知った華の素晴らしさ。沸き立つ思いを歌に記す喜び。そして、恋。
定子様にお仕えすることで、私の人生が鮮やかに動き始めました。
しかし――
華に酔いしれる日々もつかの間、権力を求めた一族の争いに巻き込まれ、運命は翻弄されていくのです。
季節が移ろい、時代が流れゆこうとも、決して色褪せない想いがありました。
私はあの方を守る番人になる。たとえ、この身をすべて捧げても。
私は祈る。そして夢を見る。あの方が愛した華の全てが、千年の後も輝き続けてくれますようにーー。
あの日々の想いを祈りに変えてー。春はあけぼの―。
波乱万丈な清少納言の生涯
本書『はなとゆめ』は、清少納言の波乱万丈な生涯を描いた歴史小説。清少納言を一人称としたひとり語りで進行するので、まるで、清少納言自らが半生を語っているかのようです。
時は平安時代中期。2度の結婚を経験した清少納言は、30歳目前。そんなとき、わずか17歳、その若さにして、既に人を見抜き、導き、才能をその人自身に開花させるという優れた君子の気風と知恵とを備えた、一条天皇の妃・中宮定子に仕えることになります。
なんというお方が、この世にいるのだ!
清少納言は感激し、比類なく素晴らしい主に出会わせてくれた喜びと感謝に震えるのです。
しかし、定子の父・道隆死亡、息子の伊周・隆家が、出家しても未だ女性関係にだらしない花山院に弓を射るという事件(まさか、院とは知らず、さらに勘違いも重なって)をきっかけに、「定子サロン」の栄華が陰ります。さらに、不幸は重なり、24歳での定子の死に見舞われ、清少納言もその顛末に翻弄されるのです。
私の心では、今もあのお方の華が息づき輝き続けています。かつて過ごした日々思うたび、私は自分の幸運をかみしめるのです。あの方の傍に居られた幸運を、華の中にいた日々を。(略)
かつての幸運を心にとどめ、その輝きを損なわず書き綴ることができるのか(略)
それが長年の私の願いであり、今となってはあの方への感謝を捧げる唯一の術なのです。
そして、定子サロンが没落行く中、定子の輝き・定子サロンの華やかさを記した『枕草子』を完成させるのです。
歴史小説であり、人間ドラマ。生涯を通じて敬愛する人がいる素晴らしさ
難しい歴史書とは違った、人間模様がとてもわかりやすく描かれており、歴史小説好きでなくとも楽しめます。権力闘争が激しい時代を生きた一人の人間の人間ドラマとして素晴らしい。一条天皇の皇后であった中宮定子を、いかに、敬い愛していたかが、美しく描かれます。
「華やかな平安王朝」、その一方で、「疫病、火事、権力闘争」などの醜い現実が、登場人物の人生を翻弄します。
本作品は、全部で300点ほどからなる『枕草子』の中の代表的なエッセイを押さえておくと、よりストーリーが面白くなるはずです。例えば、NHK大河ドラマ『光る君へ』のシーンにも登場した「香炉峰の雪」のシーンもストーリーに登場します。
枕草子人物相関図(定子サロン VS 彰子サロンの関係)
以下での感想の内容を把握しやすいモノにするために、『新編 本日もいとをかし!! 枕草子』 からの「枕草子人物相関図」を引用して紹介します。
『はなとゆめ』感想
清少納言さん、あなたの夢は叶ったよ!
作品タイトルの「はな=華」は、中宮定子様とそれを取り巻く定子サロンの「華」。そして「ゆめ=夢」は、定子様が愛した華の全てを、千年先にも届けたいという清少納言が抱いた夢。
清少納言が枕草子を書いたのは、平安時代の中期。正確にはわかっていませんが、西暦1001年には完成していたと言われています。
読了後、”小納言さんが敬愛する定子様を1000年先も輝かせたいという「夢」は無事叶いましたよ!作品を残してくれてありがとう!“と、感謝したい気持ちになりました。
人物・時代背景を知ることの大切さ。つまらない古文が輝き出した!
『枕草子』と言えば、「春はあけぼの…」の書き出しで有名な平安時代の随筆(エッセイ)です。です。誰もが学生時代に「古文」で習ったことのある作品です。「いとをかし」という形容が印象的でしたが、私にとっては単に「試験の古文」であり、特段心揺さぶられることもありませんでした。
しかし、『はなとゆめ』を読んで、『枕草子』の作品評価が、ガラリと変わった!これほどまで中宮定子に対する愛で溢れる作品だったとは、思いもしませんでした。時代を超えて読み継がれている名著であることにも大納得です。
古文の授業で、時代背景も教えてくれたら、もっと古文を楽しめただろうに…と、残念でなりません。歴史上の人物の時代背景を知ると、歴史上の人物・作品が輝き出す! 評価されている偉人・作品がイマイチ評価できないのは、単に、自分に知識がないからと思い知りました。
権力闘争の醜さ、一方で、素敵な愛
血が濃いほど、一族が栄華を求めるほど、同じ一族と争う。朝廷ではその習いから誰もが逃れられない。
NHK大河ドラマ「光る君へ」では、藤原一族が「家」を守るために必死な姿が描かれています。娘を天皇家に嫁がせよう外戚となることに躍起であり、時には天皇も騙すことまで行います。藤原道長の次兄・道兼は、花山天皇を騙して、天皇を出家に追い込み、次の天皇を即位させ、権力を「藤原兼家 一族」にもたらそうと企て、実行しました。
定子の夫、一条天皇の母であり、道長の姉でもあった藤原詮子も、父・兼家に利用された1人でしょう。だからこそ、自分を利用しなかった弟・道長を可愛がり、出世に大きく貢献したことにもうなづけます。
このような「醜さ」が作品内で描かれる反面、以下のような「美しさ」も描かれます。
- 一条天皇と中宮定子のお互いを大切にしあう愛
- 一条天皇のやさしさ
- 中宮定子の気品、優雅さ、人を導く才
- 清少納言の忠誠
「醜さ」と「美しさ」。その対比が、本書をより面白くしていると思います。
令和の時代を生きる私たちには「天皇は国民を見守る優しいお方」とのイメージがありますが、全ての方がそうであったわけではありません。愚皇、賢帝の差にも驚かされる!天皇家にも興味が持てます。
本作の続編とも言える作品『月と日の后』
小説『はなとゆめ』は、続編的位置づけの小説があります。それが、冲方丁さんの『月と日の后』です。
『月と日の后』は、一条天皇がもう一人の中宮・藤原彰子の波乱な生涯を描いた歴史小説。12歳で入内してから、87歳で死去するまでの壮絶な人生が描かれます。ちょうど、定子サロンが没落し、定子が死去するころから物語が始まります。
『月と日の后』も感動作!定子も素敵な后ですが、彰子も、后、そして、一人の人間として、とても素晴らしい人物。こんな逸材が今まで、歴史ドラマ・映画で描かれてこなかったなんて!と思うほどです。
定子と清少納言の関係は『枕草子』を通じて知る機会がありますが、彰子と紫式部の関係に触れる機会はあまりなかったと思います。合わせ読みで、『はなとゆめ』と対比して、2人の妃の生涯を堪能できます。
これからのNHK大河ドラマ『光る君へ』をより深く堪能するためにも、是非とも読んでほしいおすすめの1冊です。
合わせ読みで、より深く歴史・名著が理解できる!
「清少納言」を知る
『はなとゆめ』を、より面白く読むには、清少納言の人となりと時代背景を知っておくのがおすすめ。『新編 本日もいとをかし!! 枕草子』は、イラスト満載でわかりやすいです。
この本を読むと、『枕草子』は1000年通じる本音全開の「ぶっちゃけ話」であったことにも驚かされます。現代人も、激しく共感できます。現代なら、「イイネ!」獲得の凄腕インフルエンサー、間違いなしです。
ちなみに『枕草子』は、兼好法師の『徒然草』、鴨長明の『方丈記』と並んで「古典日本三大随筆」です。改めて内容を理解しておく価値は十分あります。
「紫式部」を知る
今回紹介のストーリーは、清少納言の「ひとり語り」で進行します。同じく、紫式部の「ひとり語り」で話が進行するのが『紫式部ひとり語り』です。合わせ読みすると、深い学びが得られます。平安宮中の姿もいろいろ見えてきます。
清少納言と紫式部、ホントにライバル?
清少納言のライバルとも言われる紫式部。しかし、2人には面識はありません。なぜなら、清少納言が属する「定子サロン」が没落し、その座を奪うようにできたのが、後に紫式部が仕える「彰子サロン」だったからです。
当然、2人に心の交流はありません。紫式部から見れば、「没落したサロンのことの、輝かしい部分だけを切り取って書いているエッセイなんて、事実との乖離も甚だしい」と思い、酷評したのもうなずけます。
それ以外にも、清少納言は、枕草子の中で、死別した夫のことを酷評。さらに、歌もうまくない(清少納言自体も認めている)のに、宮中では定子サロンはよかったとの評判を聞けば、紫式部も清少納言を貶めたくなるのが「人のサガ」です。
「藤原道長」を知る
藤原道長の生涯をつづった小説が「この世をば」。幼少期、機転が利きカリスマ的な存在感を放つ長兄・道隆、野心家な次男・道兼に比し、平凡な道長が、いかに、最高権威に上り詰めたか。その一生が歴史小説で学べる一冊。
出世の鍵は、姉・詮子、妻・倫子、娘・彰子。最高権力に上り詰めるまでと、上り詰めた後で、道長の性格も大きく変わっていきます。
上巻は、2人の兄が死に、兄・道隆の子である伊周を権力の座からお祓い、「藤原道長」が頂点に上り詰めるまで、下巻は頂点に上り詰めた道長の人生後半戦が描かれます。
大河ドラマ「光る君へ」は、主人公は紫式部=まひろ ですが、ストーリーは、藤原道長を軸に進んでいきます。大河ドラマのどこがフィクションかも見え、また、歴史もよくわかっておすすめです。
最後に
今回は、冲方 丁 さんの歴史小説『はなとゆめ』を紹介しました。冲方 丁さんは、『天地明察』『光圀伝』など、歴史小説で定評のある作家さん。読みごたえは十分です。是非、この感動を味わってみてください。