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【書評/要約】22世紀の民主主義(成田悠輔) 機能不全に陥った民主主義をどうリ・デザインするかー 新しい統治スタイル「無意識データ民主主義」を提案

【書評/要約】22世紀の民主主義(成田悠輔) 機能不全に陥った民主主義をどうリ・デザインするかー 新しい統治スタイル「無意識データ民主主義」を提案
22世紀の民主主義」要約・感想
  • 現在の民主主義が機能不全に陥っていることを指摘し、22世紀に向けた新しい民主主義の可能性を模索する1冊
  • 現在の民主主義下では「若者が選挙に参加したところで何も変わらない」
    現在必要なのは、「政治参加の方法」ではなく、「民主主義そのもののルールの改変
  • 機能不全に陥った民主主義をどうリ・デザインするかー 1案が「無意識データ民主主義
    人々が意識的に投票するのではなく、日常のデータをもとに最適な政策が決まる仕組み。データをもとに合理的な政策決定を実現。AIのさらなる進化で、人間の意思決定に欠かせない存在になる未来も

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目次

『22世紀の民主主義』ってどんな本?

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機能不全に陥った民主主義をどうリ・デザインするかー

22世紀の民主主義』は、現在の民主主義が機能不全に陥っていることを指摘し、22世紀に向けた新しい民主主義の可能性を模索する1冊です。

著者は、現在注目を集めている経済学者、実業家の成田悠輔さん。現在の民主主義下では「投票による政治参加」では民主主義を改善できない」と指摘したうえで、機能不全を起こした民主主義のリ・デザイン方法として、データ・アルゴリズムを活用した民主主義(アルゴリズム民主主義)によって、従来の投票制度や政治システムの限界を乗り越える「政策の意思決定構想」を提案しています。

断言する。若者が政治に行って「政治参加」したぐらいでは、日本は何も変わらない。

という指摘はインパクトがあります。世の中一般では「言ってはいけない」ことに相当する指摘です。しかし、だからこそ、胸に響く。また、新たな政治の在り方として、テクノロジーを利用して、投票というスタイルをとることなく、無意識的に取得可能なデータを政治の意思決定に役立てるという「無意識データ民主主義」という統治の提案はとても斬新です。

一方で、実現には課題も多く、倫理的な議論も必要なことは事実。しかし、現代社会の政治に疑問を持つ人にとって、新しい視点を与えてくれる、読んでおくべき1冊です。


こんな方におすすめ
  • 現代の民主主義に疑問を感じている人
  • AI・データ活用による政治の未来に興味がある人
  • 未来の社会システムに関心がある人

現代の民主主義の限界

機能不全に陥る現在の民主主義

なぜ、成田さんは「若者の選挙参加では何も変わらない」と挑戦的、かつ、大胆な意見を述べるのか。その背景にある理由を完結にまとめると次の通り。

  • 日本の平均年齢は約48歳、30歳未満の有権者は全体の13.1%、実際の投票率では8.6%。
  • 少数派の若者が選挙に参加しても、多数派である高齢層の意向には勝てない。
  • 「若者よ、選挙に行こう」といったキャンペーンは、結局は既存の枠組み内での活動に過ぎず、根本的な変革にはならない。

民主国家の選挙制度は、誕生以来、ほとんど変化・進化しておらず、情報環境の激変に対応できていません。一方で、SNSなど情報伝達の進化で、政治は感情的で極端なものへと変化。また、現代では、SNSを活用した政治家が支持を集めやすくなり、偽善的リベラリズム、露悪的ポピュリズムにも拍車がかかっています。SNSと選挙が悪循環を起こしているのです。
※ポピュリズム:「大衆」の立場を自称し、規制の政党やエリート、既得権益層を批判する政治思想や政治運動

このように、現在の民主主義は「高齢者偏重」「偽善的リベラリズム」「露悪的ポピュリズム」などの問題を抱え、機能不全に陥っています。このような現状で必要なのは、「政治参加の方法」ではなく、「民主主義そのもののルールの改変」です。

民主主義の劣化と経済の停滞

経済と言えば「資本主義」。政治と言えば「民主主義」。

資本主義は、勝者を自由(放置)にして徹底的に勝たせるのがうまいシステムであり、それゆえ格差と敗者を生み出します。この、生まれてしまった弱者に声を与える仕組みが民主主義です。しかし、現在、民主主義は次のような状況にあります。

  • 21世紀に入ってから、民主主義国家ほど経済成長が鈍化。
  • 民主国家は未来投資が減り、自国第一主義の傾向が強まり、経済の閉鎖性が高まっている。
  • 結果として「民主主義の失われた20年」が生じている。

かつて豊かな民主国家は、高い経済成長率を誇っていました。1990年代までは「豊かな国ほど成長率も高い」という傾向があったことは事実です。しかし、21世紀の入口前後でこの傾向は消失し、貧しい専制国家が豊かな民主国家を猛追するようになりました。これは、政治制度と経済成長の関係が根本的に変質したことを示しています。この間、中国が一気に力を強めたことからも明らかでしょう。

民主主義の再生への3つの選択肢

民主主義の再生への3つの選択肢として、成田さんは3つの選択肢を提示します。

❶ 民主主義との「闘争」既存の民主主義を改善・改革する
❷ 民主主義からの「逃走」民主主義を諦め、新しい国家モデルを試みる
例:企業のように競争する独立国家群
❸ まだ見ぬ民主主義の「構想」データとアルゴリズムを活用した「無意識データ民主主義」を構築

重症化した民主主義の再生には、もはや「調整や改良」では限界があります。逃げても救われるのは一部の金持ちです。だからこそ、「まだ見ぬ民主主義の構想(新しい改変)」が必要なのです。

テクノロジーを使った統治という点では、『テクノ・リバタリアン』(橘玲 著)で示されるような、エリート向け政治思想もありますが、これは、本書で言えば「❷ 民主主義からの逃走」に当たる手法ということになりそうです。資本主義の弱者は置いてきぼりにされやすい思想です。

一方で、テクノ・リバタリアンたちは、資本主義を強力にドライブする人たちなので、無視は不可能。『テクノ・リバタリアン』も合わせて読んでおくとよいでしょう。

選挙のルールを変える:無意識データ民主主義

では、成田さんが、政治や民主主義のリ・デザイン方法として提案する、データとアルゴリズムを活用した「無意識データ民主主義」とはいかなるものか?

無意識データ民主主義とは

投票ではなく、日常の行動データを政治に反映する仕組みを導入。例えば、SNSの「いいね」や購買履歴、移動履歴などから、無意識的に市民の意見を反映する新しい政策の意思決定モデルです。

  • 人々が意識的に投票するのではなく、日常のデータをもとに最適な政策が決まる仕組み。
  • 人間の意思決定の補助としてのAI・アルゴリズム活用。より合理的な政策決定を実現。
  • 二段階の意思決定プロセス
    1. エビデンスに基づく目的発見
      民意データと成果指標(GDP、失業率、学力、健康寿命など)を分析し、何を最適化すべきか特定。
    2. エビデンスに基づく政策立案
      目的に沿って最適な政策を決定し、過去データを活用して効果を検証。

民主主義の多様化、未来の政治と経済の融合

この仕組みは、いかの3つを融合した新しい政治システムとも言えます。

  • 選挙民主主義(大衆の意思)
  • 知的専制主義(エリートの判断)
  • 客観的最適化(データによる決定)

3つが融合されることで、政治と経済の境界は明確でなくなり、より合理的な税制や社会保障を個別最適化する仕組みも見えてくるかもしれません(「ベーシックインカム」や「パーソナライズド・ガバナンス」のような考え方)。

また、「地域ごとに異なる民主主義のモデルを試し、多様な政治システムを実験的に導入」するなど、多様な政治システムを実験的に導入などして、よりよい形を模索していくことが必要になります。(「投票権のシェア」や「ランダム選出制(くじ引きによる政治参加)」など)

また、さらにテクノロジーが進化すれば、人間の意思決定の補助として、AIがより合理的な政策決定を提案・実行する未来も視野に入ってきます。

最後に

今回は、成田悠輔さんの『22世紀の民主主義』からの学びを紹介しました。

政治や民主主義をどうデザインし直すかー

従来の「投票による政治参加」では民主主義を改善できないという視点から繰り広げられる、新たな政治の在り方を提案は、とても斬新でした。特に、データとアルゴリズムを活用した「無意識データ民主主義」というアイデアは、従来の選挙制度に代わる可能性を示唆しており、今後の自分の将来を考える上でも、知っておきたい内容です。

民主主義の「劣化」を乗り越え、未来志向の政治と経済を取り戻すための制度改革ー。我々は、どうしても、経済、資本主義への関心が高くなりがちですが、この綻びを是正するのも「制度改革」です。もっと、民主主義・政治に関心を持って日々を暮らしたいと、認識を改める1冊となりました。

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