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【書評/感想】汚れた手をそこで拭かない(芦沢央) 小さな嘘・欲・出来心で汚れる手。きっかけは身近に。読了後、心がざらつくイヤミス短編集

【書評/感想】汚れた手をそこで拭かない(芦沢央) 読了中の不安感・緊張感、そして、読了後の後味の悪さがクセになるイヤミス短編集
汚れた手をそこで拭かない」要約・あらすじ
  • 読了中の不安感・緊張感、そして、読了後の後味の悪さがクセになる、5編構成のイヤミス短編集
  • 描かれるのは、日常生活の中に潜む不穏。人間の暗い側面が、予測できない展開と衝撃的な結末で描かれる
  • どうすればよかったのかー 答えが提示されるわけではないが、読者に教訓を与えるストーリー

★★★★☆ Audibke聴き放題対象



目次

『汚れた手をそこで拭かない』ってどんな本?

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短編や連作形式のイヤミス(=イヤなミステリー)で高い評価を得ている作家、芦沢央(あしざわ・りょう)さん。

イヤミスとは、読んでいて不快感やざらつきを覚えるミステリー。
登場人物に感情移入できず、展開もどこか不穏。
にもかかわらず、なぜかページをめくる手が止まらなくなる――
そんな、不思議な中毒性があります。

芦沢さんの作品は、日常の中にひそむ「綻び」や「不安」を巧みにすくい上げ、読後に残る後味の悪さ――
その“イヤな感覚”が、芦沢作品の魅力です。

タイトルを見ただけで嫌な予感が漂うものばかり。
読み始める前から、背筋がゾワゾワするような空気に満ちています。
芦沢央 タイトル一覧

ミステリー短編集汚れた手をそこで拭かない』は、第164回直木賞候補作にもノミネートされた評価の高い作品。
収録の5編に描かれるのは、日常生活の中に潜む不穏。
それぞれ、人間の暗い側面が、予測できない展開と衝撃的な結末で描かれます。

日常生活の些細なほころびに、嘘や出来心が重なってどんどん沼底に堕ちていく主人公たち。
汚れた手をどこで拭いて、きれいな状態に戻せばよかったのか…
といった、登場人物たちの後悔の念が聞こえてくるような作品です。

どうしたらよかったのだろう…

イヤミス作品は、全ての謎・問題が解決されるわけではありません。
読了後の「未解決感」や「消化不良の感覚」が、逆に物語の印象を深め、余韻を残します。
イヤミスの魅力を存分に味わってもらいたい1冊です。

こんな方におすすめ
  • 日常生活に潜む不穏、人間の暗い側面、倫理観のジレンマ 等を小説を介して味わいたい方
  • 予想できない展開と衝撃的な結末を味わいたい方
  • イヤミス作品が好きな方。イヤミスの魅力に触れてみたい方

『汚れた手をそこで拭かない』:あらすじと感想

『汚れた手をそこで拭かない』:あらすじと感想

5編のあらすじ

第164回直木賞候補にもなった本作は、5編からなるミステリー短編集。
描かれているのは、ごく普通の人々が、ちょっとした過ちや嘘から泥沼にはまっていく姿です。

たとえば──

  • 余命半年の妻に過去の罪を告白する夫を描いた「ただ、運が悪かっただけ」
  • 小学校のプールの排水栓を締め忘れた教師の隠蔽工作を描く「埋め合わせ」
  • 自分の小さなミスがきっかけで隣人が死んでしまったかもしれないと怯える夫を描く「忘却」
  • 主演俳優の薬物疑惑を知り、隠ぺいに奔走する映画監督を描く「お蔵入り」
  • 元不倫相手と密会する料理研究家を描く「ミモザ」

どの話にも共通するのは、「ほんの少しのズレ」や「ちょっとしたごまかし」が、致命的な転落を招くということです。

推しの一編:「忘却」

中でも印象に残ったのが「忘却」。
舞台設定がユニークで、伏線の張り方と回収の見事さに思わず唸ります。
「えっ、マジで!?」と声が漏れるような展開に、イヤミス初心者でも一気に引き込まれるはず。

小さなごまかしが事態を悪化させる

1編の「ただ、運が悪かっただけ」を除いて共通していることー。

それは、ほとんどの登場人物は、取り返しがつかなくなる前に「引き返せるタイミング」を確実に持っている。
けれど、人はそんな時に限って、最悪の“悪手”を選んでしまう。
そんな人間の弱さです。

・今さら謝っても遅い
・こんなことで評価を下げたくない
・自分だけはバレないはずだ

そんな心理が、破滅へのカウントダウンを加速させます。

登場人物は誰もが「どこにでもいる普通の人」。だからこそ怖い。
あなた自身のすぐ隣にも、こうした“綻び”は潜んでいるかもしれません。

本作は、教訓めいた話ではないのに、教訓的です。
人は、最悪から脱するために、「一発逆転」という悪手を踏みがちです。
また、出来心で「悪」に片足を突っ込んでしまします。
「悪人」になり下がらないためにも、「素直に謝る、過ちを認める」ことの大切さを教えられます。

不安と緊張のジェットコースター

短編ながら、不安感と緊張感の連続。
どの話も胸がざわつき、「次はどうなってしまうのか…」と読み進めずにはいられません。
人間の持つ「影・闇」に、読んでいて心が消耗される感じすらあります。

読後感は決してスッキリしません。むしろ、答えの出ないモヤモヤが心に残る
でもその“未解決感”が、逆に深い読書体験として記憶に刻まれます。
そして、「心が全か悪かー」にぐらついた時、踏みとどまる力となってくれるかもしれません。

芦沢央作品の魅力

芦沢さんの文章は、驚くほど読みやすく、情景がすっと頭に浮かぶのが特徴。
心理描写が巧みで、物語にぐいぐい引き込まれます。

伏線の張り方と、その回収の見せ方も絶妙。
「やっぱりそうなるか…」と唸らせるパターンと、
「えっ、そう来たか!」と裏切られるパターンの両方があり、
1話ごとに濃密な読後感が味わえます。

一話が短いからこその、起承転結のスピード感がたまらなく面白いです。

最後に

今回は、芦沢央さんの『汚れた手をそこで拭かない』のあらすじ・感想を紹介しました。

「なんでわざわざ“イヤな気持ち”になる本を読むの?」
そう思ったあなたにこそ、読んでほしい。

“イヤな気持ち”になるからこそ、自分の倫理観や人生を省みるきっかけになる。
芦沢央さんのイヤミスは、ただの“後味の悪い小説”ではなく、人間という存在の本質に迫る文学です。

読み終えたあと、きっとあなたもこう思うはずです。「イヤミス、クセになる…」と

以下、本ブログで紹介した、芦沢央作品の書評も紹介しておきます。

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