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【書評/要約】ベートーヴェン捏造 (かげはら史帆) 孤高の天才は嘘。秘書の愛と野心が生んだ虚像だった!捏造の裏にある人間ドラマ、小説より面白い

【書評/要約】ベートーヴェン捏造 (かげはら史帆) 孤高の天才は嘘。秘書の愛と野心が生んだ虚像だった!捏造の裏にある人間ドラマ、小説より面白い
ベートーヴェン捏造」要約・感想
  • 「楽聖ベートーヴェン像」の正体
    我々が知る「孤高の天才ベートーヴェン像」は、秘書シンドラーの改ざんによって作られた虚像。本書は“会話帳改ざん事件”を軸に、その偽りの歴史と人間臭い素顔を暴き出す。
  • 捏造の背景にある人間ドラマ
    シンドラーは愛と野心から「偽りの英雄像」を創作。彼の承認欲求や歪んだ忠誠心を通じて、人間の欲望・嫉妬・弱さが赤裸々に描かれる。
  • 小説以上に濃厚なノンフィクション
    欲望、嫉妬、愛情、執着ー。本書の魅力は登場人物たちの「人間臭さ」に尽きる。

★★★★★ Audible聴き放題対象本

目次

『ベートーヴェン捏造』ってどんな本?

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「楽聖ベートーヴェン」は、本当に“孤高の天才”だったのか?
実はそのイメージの多くは、死後に仕掛けられた「大いなる捏造」だった——。

本書『ベートーヴェン捏造』は、クラシック音楽界に衝撃を与えた「会話帳改ざん事件」を軸に、人間ベートーヴェンの素顔と、彼を神格化した“黒幕”アントン・シンドラーの姿を暴き出すノンフィクションです。

本作は、音楽の話でありながら、音楽論などはほとんどなし!
著者・かげはら史帆さんが描き出すのは「人間」。人間の欲と弱さ=「人間の業」です。
欲望、嫉妬、愛情、執着が交錯する人間ドラマは、小説以上に濃密で、フィクションよりも面白いです。

2025年9月12日からは映画が劇場公開中。
主演・山田裕貴、脚本・バカリズム、監督・関和亮という異色かつ豪華な布陣。
本作を読むと、映画が確実に最も面白く、深く見れるはずです。

「会話帳改ざん事件」とは?

晩年、聴力を失ったベートーヴェンは「会話帳(筆談ノート)」で意思疎通をしていました。
そこには日常のやり取りや、思考や交流、創作のヒントが克明に残され、研究者にとっては宝の山。

ところが、衝撃の事実が判明します。「この会話帳の一部は、誰かに改ざんされている」——そう発表されたのです。

加筆・削除を行い、自分に不都合なノートを焼き捨てた張本人。
それこそが、本作の中心人物、ベートーヴェン晩年の秘書・アントン・フェリックス・シンドラーでした。

シンドラーが作った「偽りのベートーヴェン像」

私たちが描く「ベートーヴェン像」とはー

  • 英雄的な孤高の天才:難聴という障害を抱えながらも、傑作を生み出した不屈の精神の持ち主。
  • 厳格ば性格:眉間にしわ。誰にも妥協しない孤高の芸術家。

しかし、これ、全て、シンドラーの作り出した「偽りのベートーヴェン像」です。

本当のベートーヴェン

会話帳を読み解くと、まるで別人のような人物像が浮かび上がります。
※ノートに残るのは支援者の執筆。ベートーヴェンは口頭で話すので、彼自身の執筆は乏しい。

  • 切れる・怒鳴る!感情的で気難しい:怒鳴る一方で、会話には冗談や皮肉も。意外と茶目っ気あり
  • 一匹狼ではなく、おしゃべり好き:
  • 女性との関係は複雑、甥には異常な執着:女性好き。甥に干渉し過ぎて、自殺に追い込む
  • 有名な肖像画は“加工”:あばた、低い鼻、出た前歯の小汚いオッサン。英雄的なイメージは皆無!

ベートーヴェンの人間的な弱さや軽妙さ、俗っぽさを消し去り、代わりに「孤高の天才」を作り出したのです。

ジャジャジャジャーンで知られる『運命』の逸話「冒頭は“運命が扉を叩く音”だ」という逸話も、実際にはシンドラーの創作である可能性が高いとされています。

なぜ、シンドラーは捏造? ――背景にある「歪んだ愛」と「強烈な野心」

捏造の背景にあったのは「歪んだ愛」と「強烈な野心」

  • 敬愛する師を“理想像”として後世に伝えたい現実なんてどうでもいい。理想こそが真実――。
  • 自分こそがベートーヴェンに最も近しい存在だと示したい
  • 音楽家として芽が出なかった自分を、“語り部”として歴史に刻みたい

現代人も「推し」という存在があると、あがめ、「推しとのつながり」を自慢したくなります。
SNSでの“推し”との接点、著名人との写真——それらは、自己の価値を高める“証”として機能します。
誰かの名声に寄り添うことは、単なる自己満足なのですが、気持ちいいのです。

なお、自分を歴史に刻むため、シンドラーは、すぐには伝記をまとめませんでした。歪んだ真実を指摘されることを恐れ、「関係者よ、早く死ね!勝利するのはオレだ」とばかり、時が来るのを待っていたのです。

本作の魅力は「人間臭さ」に尽きる

引用:映画サイトより「ベートーヴェン捏造」人物相関図
人物相関図を見ながら本作を読むと、本作の理解も進む!

映画サイトに掲載された『ベートーヴェン捏造』の人物相関図を眺めながら本書を読むと、登場人物たちの関係性がより鮮明に浮かび上がってきます。

誰もが一筋縄ではいかない“クセ者”ばかり。
「愛」と「対立」が入り混じり、嫉妬、執着、自己顕示欲が渦巻く——まるで人間関係の縮図です。

しかしです。音楽史最大級の改竄者でもある本作の主人公・シンドラーですら、著者は、「単なる悪者」として描きません。

描かれるのは人間の欲・弱さ

シンドラーは「秘書」というより「世話係」に近い存在。
かいがいしくベートーヴェンに尽くすも、次第に疎まれ、罵倒され、手切れ金のような報酬を渡されてもその意味を理解できない。新たな秘書・ホルツが現れ、かわいがられていても、シンドラーの愛は変わらない。

その姿は、滑稽でありながら、どこか切ない。
だから思うのです。
彼は、ただ“認められたかった”。愛する人に「承認欲求」を満たしてほしかっただけなんじゃないかと。

本作に登場する人物たちは、誰もが「弱さ」や「欲望」を抱えています。
その姿は、まるで“人間の業”を見せつけられているようで、読んでいて実に面白いです。

耳の聞こえない作曲家が、なぜ人の心を震わせるのか

本書を読みながら、ふと疑問が浮かびました。
「耳が聞こえない作曲家の音楽が、なぜこれほどまでに人の心を揺さぶるのか?」

ベートーヴェンの音楽は、ただ美しいだけではありません。
交響曲第5番「運命」の“ジャジャジャジャーン”に、自分の人生の転機を重ね、
ピアノソナタ「悲愴」には、言葉にならない哀しみを感じ、
第9番「歓喜の歌」では、心が高揚し、世界とつながる感覚を覚える。
そのすべてが、言葉を超えて人間の“内側”に届いてきます。

そしてその理由は、彼が完璧な天才ではなく、孤独・怒り・恋・社会への苛立ち——
そんな葛藤を抱えた“人間”だったからだと考えると、妙に腹落ちしました。
そして、クラッシック音楽、良いかも。と思う動機につながりました。

最後にー歴史も学べる、感情も揺さぶられる

かげはら史帆さんの『ベートーヴェン捏造』は、クラシック音楽史の裏側に潜む人間模様を丹念に描き出す、知的興奮に満ちた一冊でした。

推し活をし、誰かの名声に乗っかり、自分を盛る姿、飛び出す反論に匿名で他者を攻撃するシンドラーの姿は現代人にも通じます。そこには、時を経ても変わらぬ、“人間の弱さ・欲望”がありました。

彼の嘘がどのように暴かれていったのか——
その過程にも、人間の弱さと“ちょろさ”が満載で、思わず笑ってしまいます。

フィクションより面白いノンフィクション!
ぜひ、彼らの行方・結末は、実際に手に取って読んでみてほしいです。
ベートーヴェンの音楽が、きっと今まで以上に深く響くようになること、間違いありません!

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