- 暗号資産×国際犯罪の“今”をそのまま小説化
暗号資産ハッキング、北朝鮮のハッカー集団、東南アジアの詐欺拠点など、現実のニュースとほぼ同じ素材で組み上げられたフィクション。読者は物語を追いながら、現代の金融と犯罪の仕組みを自然に理解できる。 - バンコクという都市が象徴する“自由と危うさ”
税制の抜け穴、移住者、闇ビジネスが混ざり合うバンコクは、暗号資産時代の世界そのもの。合法と違法、自由と犯罪が同じ路上で共存する空気が、物語全体をリアルを与える。 - 知性は人を自由にするが、それは完全ではない
制度や国家をハックできるのは、一部の頭脳エリートたち。しかし、彼らとて、完全な自由は手に入れられない。「公権力とは何か」「自由とは何か」をも考えさせる。
★★★★☆ Kindle Unlimited読み放題対象本
『HACK』ってどんな本?
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橘玲さんの小説『HACK』は、「橘玲的思考」がスリリングに物語化された知的サスペンス。
『新・貧乏はお金持ち』に代表されるように、制度の裏側を知り尽くし、「歪みを見抜いた者だけが自由を得る」というサバイバル戦略を提示してきた著者。その思想が本作では、暗号資産とサイバー空間という最前線を舞台に小説として展開されます。
ビットコイン、マネーロンダリング、公安、北朝鮮ハッカー、東南アジアの裏社会——。
ニュースで断片的に目にしてきた要素が一本の線につながり、「いまこの瞬間にも進行している世界の闇」として描かれます。
橘玲さんのノンフィクションを読んできた方は、「制度は不完全で、それを理解した者だけが自由になれる」という彼の持論が、そのまま物語化されていると感じるはずです。
同時に、「公権力とは何か」「自由とはどこにあるのか」という重い問いも突きつけられる、読み応えのある一冊です。
『HACK』あらすじ
舞台は2024年秋のタイ・バンコク。
税制の抜け穴、移住者コミュニティ、国際犯罪ネットワークが交差する「余白の多い都市」だ。
主人公の樹生(たつき・30歳)は、暗号資産で得た利益を課税から逃れ、この街で暮らす天才ハッカー。
ハッキングもマネーロンダリングも、彼にとっては単なる「ゲーム」。
金にも地位にも執着はなく、ただ退屈だけを嫌っている。
そんな彼が、情報屋・沈没男から
「特殊詐欺で得た10億円をビットコインで洗浄してほしい」
という依頼を受けたことで、運命の歯車が動き出す。
この軽い仕事は、
日本の公安、北朝鮮のハッカー集団〈ラザルス〉、伝説のハッカーHAL、国際諜報機関までを巻き込み、
暗号資産マネーを巡る国際的な争奪戦へと膨れ上がっていく。
さらに、5年前に失踪した元アイドル・咲桜(さら)の出現が、樹生の合理的な世界を根底から揺さぶる。
10億だった金は、500億、2500億へ。
「ゲーム」のつもりで踏み込んだ世界は、もはや抜け出せない現実となり、
樹生は国家と裏社会の狭間に投げ込まれていくのだった。
『HACK』:感想
フィクションなのに、ノンフィクション
北朝鮮の暗号資産ハッキング、東南アジアの詐欺拠点、暗号資産取引所への攻撃、国際送金の抜け穴、大麻ビジネス、仮想通貨をめぐる政治——。
作品はフィクションでありながら、
ニュースで見た事件が、ほぼそのまま物語の部品として使われ、一本につながっています。
暗号資産とは何か。
なぜそれが犯罪と結びつくのか。
なぜ国家がそれを完全に管理できないのか。
その答えが、説明ではなく「物語の流れ」として理解できる点が、この小説の特徴です。
バンコクという都市そのものが、この物語に絶妙にマッチ
舞台に選ばれたバンコクもまた、単なる背景ではありません。
バンコクは、世界の縮図であり、暗号資産が生み出す新しい「危うい現実」を映し出す巨大な舞台。
湿った空気、屋台の油の匂い、ネオンの下を行き交う観光客と移住者と裏社会の人間たち。
合法と違法、豊かさと貧困、自由と犯罪が、同じ歩道の上で混ざり合う街。
その雑多で粘り気のある空気が、「制度の外側」を描く本作にまとわりつく。
かつてこの街を安宿と屋台の匂いにまみれて歩いたことのある方なら、
あの——自由と危うさが溶け合った、ねっとりとした混沌を、この物語の中にも確かに感じ取れるはずです。
個人的には、この雰囲気を味わえたことが◎でした。
世界は不完全。だから、ハックできる
『HACK』のベースにあるのは、「世界は不完全なシステムでできている」というなんとも橘玲的な認識です。
税制も、金融も、国家も、サイバー空間も、完全ではない。
だからこそ、「知性を持つ者」は自由になれる。
ビットコインは、その象徴。
国家にも中央銀行にも完全に管理されず、国境を越えて価値が移動する。
それは、短期間に莫大な資産を生み出したものであり、一方で、犯罪のための抜け道にもなる。
そして実際に、その抜け道を使いこなしているのは、間違いなく頭脳エリートたちです。
闇ビジネスの首謀者も、国家からの支配を好まず非中央主権を理想とするテクノリバタリアンも然り。
この世界は、知性によって自由を勝ち取れると同時に、知性によって歪められもするのです。
それでも、人は完全に自由にはなれない
知性と資本を持つ者は、たしかに国家のひずみを利用して、自由に生きることができるかもしれません。
しかし『HACK』は、その自由がどこか空虚で、どこか脆いものであることを、暗に示しているように見えます。
それがもっともはっきりと現れるのが、「樹生と咲桜の関係」です。
世界規模のマネーゲームを操り、合理性の極みにいる男でも、“感情”という最も原始的なバグだけは制御しきれていない姿が描かれています。
制度やアルゴリズムを乗り越えても、人は感情からは逃げられない。
この矛盾が、『HACK』を単なる金融サスペンスではなく、「人間の本質」を突く人間ドラマにしています。
最後に
『HACK』は、暗号資産を題材にしたスリリングな金融小説でありながら、
自由とは?国家とは?お金とは?知性の使い方とは?など、多くの問いを暗に投げかけてくる小説でした。
読み方、感じ方は人の自由であり、人によって感じ入るところは異なります。
しかし、読み終えたとき、世界は少し違って見えるはずです。
それこそが、橘玲が小説で仕掛けた最大の“ハック”なのかもしれません。
📌個人的メモ
本書内でも登場。ドルトエフスキーの「悪霊」。
なぜ思想は人を殺させるのか—「革命思想の本質」を世界で最も早く見抜いた世界的名著ですが、社会と人間を知るためのも、読まねばなりませんね。
1/6まで:解約はいつでもOK









