- 読解力は人生を決めるーといっても過言ではない。学力は年収との相関が高く、この学力の根本にあるのが「読解力」である。数学の問題を解くにも、読解力がなければ、問題は解けない
- 実は、「事実について淡々と書かれた短文」を正確に読むことは、実はそう簡単なことではない。本書掲載の簡易テストを受けると、そのことが腹落ちしてわかる
- 読解力に明確な差が現れるのは、小学3~4年生。ここから頑張っても遅すぎ。家庭環境、特に家族の語彙力と会話量が、子どもの学力差に大きく影響
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Audible聴き放題対象本
『AIに負けない子供を育てる』ってどんな本?
「事実について淡々と書かれた短文」を正確に読むことは、実はそう簡単なことではない。
それが読めるかどうかで人生は大きく左右される。
読解力が大事なことは誰もが知っています。しかし、
・その読解力に差がつくのがいつ頃で、
・どのように学力の差がつき、
・その後の人生の成功にどれほどの影響を与えあるかー
を理解している方は少ないでしょう。
我々の「読解力」に関する認識の甘さについて、衝撃の一撃を与えるのが『AIに負けない子どもを育てる』。
著者の新井 紀子さんは、ビジネス書対象2019対象を受賞した『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』の著者。新井さんは、「ロボットは東大に入れるか」(通称:東ロボ)という人工知能のプロジェクトを指揮してきたリーダーで。教科書が読めない子どもの学力実態を明らかにしたことでベストセラーとなりました。
しかし、実は、この本の弟2弾に当たる『AIに負けない子供を育てる』の方が、子育てや大人の読解力を高める有益な情報が豊富。本作では、簡易読解力テストであなたの読解力を数値化。その点数が人生に与える影響(学力、学歴、年収などの傾向)をズバリと指摘したうえで、読解力アップの実践法を提示しています。
会社で自分だけ上司に怒られることが多い、みんなのように仕事の成果が出せない… という方の一部は、スキル前半の根幹となる「読解力」が低い成果もしれません。
私にとっては、本書は出会ってよかったと思える良書。親にこの知識があったら、人生の成功にもっと近づけただろうと思える内容で、若い時にこの知識に出会えなかったことが、ただただ残念!
子どもの教育を主とした本ではありながらも、大人も自分のために読んでおくことをおすすめします。
- 我が子の将来を思い、頭のいい子に育てたいと思う親御さん
- 「国語」の授業の大事さがわからず、勉強する気になれない方
- 自分の「読解力」について知りたい方、「読解力」を改善したい方
読解力に決定的な差が生まれるのはいつか? 答えは「少学3、4年生」
人は、
・文の基本構造(主語・述語・目的語など)を把握する力
・指示代名詞が指すものや省略された主語や目的語を把握する力
がないと、文章が正しく読めません。この能力に差がつく時期は明らかになっています。
本や教科書の読み方や、板書の読み方に決定的な差が生まれ始めるのは「小学3、4年生ごろ」。 自分の経験でも、このころから、クラス内でもいわゆる「勉強ができる子」の存在が明確化していったように思います。この文の基本的な構造を理解できない子は、教科書を読んでもぼんやりとしか意味がわかりません(「ぼんやり」という点がポイントです)。
親の語彙力・家族間会話が子供の読解力に大きく影響
3~4年生ごろになると、親同士の会話も理解できるようになりますが、家庭によって大人が話す語彙の種類や量が大きく異なります。これが、子どもの読解力の育成に大きな差を与えます。米国では、高学歴家庭と貧困家庭では語彙差がのべ3000万語に達するという調査もあり、この語彙格差は学校教育では埋まりません。
こうして、語彙力が読解力の差、さらには学力差につながって「親が高学歴なら子も高学歴」、「親が低学歴だと子も低学歴」ととなってしまうのです。
なお、いうまでもありませんが、高学歴でも親子・親同士の会話がない家庭も子供が大人の語彙に触れる環境がないため、子どもの語彙力は高まりません。「家庭環境」は子供の教育に極めて重要なことがご理解いただけると思います。
問題のある学習
家庭環境以外にも、子どもの読解力を阻害することは多数存在します。本書では詳細解説されていますが、3つのみ簡単に解説します。子どもを持つ親御さんは、本書を読んで確認しておくべき内容です。
プリント授業・ドリルの弊害 | 板書の減少 黒板に書かれたことを一時的に記憶し、ノートに書きとる(まとめる)能力がつかないことで、学力が低下 ※大人も、パワーポイント配布などで、まとめる力が低下している可能性あり ※テクノロジーの発展が、学力低下を招いていることを自覚すべし |
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受験教育 | ただ受験に受かるためだけの「受験攻略」の弊害 テクニックを覚えても、長期的に意味ある力は付かない |
隣の子をすぐマネる | 授業で課題を与えられた時、いつも隣の子を真似する子(キョロキョロする子)は以下の問題を持つ可能性あり ・課題を聞いても指示がわからない ・指示はわかっても何をすればよいか考えつかない 論理的な考え方が身についていない。 小学校は乗り切れても、中学ではこの方法では乗り切れない |
読解力を計る:リーディングスキルテスト
新井さんが主導した東ロボプロジェクトの目標は「近未来のAIにはどのような可能性と限界があるかを社会に広く公開し、AI時代に正しく備えてもらうこと」。
このプロジェクトの中で、人間のAIに対する優位性を明らかにするために、「意味を理解しながら読めているかどうか」を測る一つの指標として「リーディングスキルテスト(RST)」が開発されました(対象者:小学6年生~社会人)
大規模テストの結果、白日にさらされた「読解力のなさ」
リーディングスキルテストで測ろうとしているのは「基礎的・汎用的読解力」です。
皮肉にも、AIの弱点を突くつもりでつくられたRSTで明らかになったのは「人間の読めなさ加減」。子供であれ大人であれ、実に多くの人が、意味を理解しながら読めていないという事実でした。圧倒的多数の子どもは「自分は教科書は読めている」と思っていますが、実は読めていません。また。読解力は大人になって大きく伸びる能力でもありません。
テストで出題されるような、事実について書かれた「短文」さえ正確に読めなければ、「長文」はもちろん、事情が複雑な「ビジネス文章」が正確によめるはずもないのです。
採用・研修にも取り入れられる「読解力テスト」
基礎的読解力が不足していると、ビジネスでは様々な問題に発展します。
それゆえ、リーディングスキルテストは、読解力のない人をふるいに落とすために、大企業の新人研修や採用のスクリーニングにも取り入れられています。読解力がないと、採用にすらつまづく可能性があります。
本書3章では、体験版のリーディングスキルテストが受けられるようになっています。
体験テストは28問。たった28問のテストなのに凄く頭が疲れました。
このテストは、急いで答える必要もなければ、ひっかけ問題もない、読めば答えが書いてあるテストです。それなのに、これが実に難しい… 普段、自分がいかに適当に流し読みで文章を読んでいたかを思い知らされました。
答え合わせで、自分が弱い分野(弱点)が浮き彫りになります。意識して、改善に取り組めば、弱点克服も可能。私は、「なるほど、その通りです」という結果になりました。自分の能力を再認識できてよかったです。
リーディングスキルテストでわかるあなたの能力
リーディングスキルテストは読解力を7つのスキルで判定します。どの分野の点数が高い・低いかで、あなたのおおよその学歴や仕事ぶりすらわかってしまいます。
❶係り受け解析 | 文の基本構造(主語・述語・目的語など)を把握する力 |
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❷照応解決 | 指示代名詞が指すものや、省略された主語や目的語を把握する力 |
❸同義文判定 | 2文の意味が同一であるかどうかを正しく判定する力 |
❹推論 | 小学6年生までに学校で習う基本的知識と日常生活から得られる常識を動員して文の意味を理解する力 |
❺イメージ同定 | 文章を図やグラフと比べて、内容が一致しているかどうかを認識する能力 |
❻具体例同定(辞書) | 辞書的な言葉の定義を読んでそれと合致する具体例を認識する脳力 |
❼具体例同定(数理) | 数理的な定義を読んでそれと合致する具体例を認識する脳力 |
「係り受け解析」「照応解決」は文を読む基礎能力
「係り受け解析」は、どんな文章を目にしても文の構造を正確に捉えられるかどうかを計ります。一方、「照応解決」は、指示詞が何を指すを読み取れるかを計ります。
正確に照応解決するには、まず文の構造を理解できないと難しいので、係り受け解析ができることが、照応解決の能力に影響を及ぼします。「係り受け解析」の点数が悪い人が偏差値の高い学校に進学することは、まず無理です。
「同義文判定」と「推論」
「同義文判定」は、提示された2つの文が同じ意味か異なる意味か、「推論」はいわゆる三段論法が理解できるかを問うテストです。
この2つの能力は、自学自習をする上で、欠くことができない能力です。自学自習する際には、教科書や参考書を読んで問題を解き、自分で丸付けをした上で、間違っている部分を訂正することが必要ですが、自分の答えと模範解答が同じか(同義文か)見極めることができなければ、答え合わせはできません。つまり、この能力が劣っていると、自己学習ができないので、勉強しても学力が伸びません。
「イメージ同定」と「具体例同定」※AIがまだ不得意とする分野
「イメージ同定」は、文章で表現された内容と図が対応しているかどうか見極める能力で、「具体例同定」は定義を具体的に理解する能力です。
「推論」、「イメージ同定」、「具体例同定」の問題は、文が表す意味がわからないと、基本的に解くことができません。正解を見せて解説しても、子供(中学生以上)が腑に落ちない顔をしている場合、たぶん教科書を読めていません。
また、「具体例同定能力」が十分に伸びていない状態で中学に進学することが、中学校での勉強のつまずきの原因になっているらしいことが研究で明らかになってきています。
点数の取り方でわかるあなたのスキル:タイプ分析
リーディングテストの各分野の点数にどのような傾向があったかで、あなたの能力も明らかになります。すべて10点満点だった人は、上位1%未満の基礎的・汎用的読解力を有する人です。
理数系が苦手な人は多い〈前高後低型〉
推論と具体例同定(理数)が苦手、つまり、論理と定義を理解する力が不十分な人は、全てのタイプの中で最も多いです。
このタイプは、キーワードを拾って「今、こういうことが話題になっているんだな」とザックリ理解しようとしがち。一行一行確実に読むのが苦手です。イノベーションのスピード(流行り)についていくのも苦手です。理解できないので、普通の人より「情報量過多」な状態にすぐに到達し、アップアップ状態になります。
この「情報量過多で論理力不足」のタイプに圧倒的に多いのが、情報を大量に取り入れようとしながらも新しい環境に尻込みしたり、反対するパターン。苦手な論理・推論を無理に補おうと、「経験値」「空気(同調圧力)」に頼りやすくなることに。しかも、困ったことに、人は、できない理由、反対する理由を考えるのは上手… 結果、時代に取り残されやすくなります。
自力でもっと伸ばせる〈全分野そこそこ型〉
〈前高後低型〉の次に多いのが〈全分野そこそこ型〉タイプ。各分野で10点は取れないが、ほぼすべて6点以上。しかし、推論・イメージ同定・具体例同定のどれかは3点だったタイプです。
このタイプは、真面目で優秀でそれなりに論理的です。自学自習の基礎もできています。ただ、ビジネスの現場では、多くの仕事を押しつけられ、疲弊しがちです。基本的には自力で能力を伸ばす力があるので、もし今の会社に満足できていないなら、転職も考えるべきです。
中学生平均レベル〈全低型〉
読みの最も基本になる係り受け解析か照応解決のどちらかで3点以下だった層(中学生の平均と同じレベル)です。このタイプが、後半の推論・イメージ同定・具体例同定が高いということはめったにありません。
この層は、5科目まんべんなく勉強する必要がある「センター入試+記述式二次試験」を課す国立大学に入学するのは厳しい。また、ビジネスマンなら、メールや契約書など文書で判断をしなければならない仕事は無理。本人は読んでいるつもりでも、読めていないのでミスが頻出し、上司に叱られるシーンが増えるます。
さらに不幸なのは、推論と同義文判定ができないので、「なぜ叱られているのか」がわからない…
自分の点数にショックを受け、なんとかしたいと思った方向けに、本書ではアドバイスがついています。
知識で解いてしまう〈前低後高型〉
係り受け解析や照応解決が6点未満なのに、具体例道程(理数)だけが満点という人がいます。また、推論や具体的同定(理数)が6未満なのに具体例同定(辞書)だけが10点満点という人がいます。このタイプは、「読めてないのに知識で解いている人」です。
最後に
今回は、新井紀子さんの『AIに負けない子供を育てる』の要点を紹介しました。
本記事では割愛しましたが、本書後半には、大人の読解力アップについて、解説されています。読解力があがれば、生産性が向上し、仕事の幅も広がり、結果的に年収アップにつながり、自己肯定感も高まるばかりか、AIに仕事を奪われることを恐れる必要もなくなります。
子どもの教育のため、そして、大人ご自身のために、本作を読んでおかれることをおすすめします。