- 怠惰は本当に悪いことなのかー。怠惰を再考し、怠惰を悪者にする社会に一石を投じる1冊
- 私たちが「休みたい」と思うときに感じる罪悪感、「だらけたい」と思う自分に抱く自己嫌悪感は、資本主義社会が植え付けた「怠惰のウソ」が原因
- 「努力=人間の価値」「生産性=善・怠惰=悪」ではない。本書のメッセージは、いつも頑張りすぎてくれる人に希望と気づきを与える。そして、自分にも他人にもやさしく、穏やかで幸せな人生を手に入れるきっかけを与える。
★★★★☆
Kindle Unlimited読み放題対象本
『「怠惰」なんて存在しない』ってどんな本?
私たちは「怠惰」を悪いことと考えてしまう。しかし、それは本当かー
デヴォン・プライスさんの『「怠惰」なんて存在しない』は全米で絶賛された「ダラけること、休むことの大切さ」を説く1冊。資本主義下で、私たちが無意識のうちに刷り込まれた「怠惰=悪」という観念に疑問を投げかけ、現代人が抱える働き方や生き方について深く掘り下げます。
確かに、「勤勉さ」は人を成長させ、その成果は社会のためになります。しかし、著者は、「怠惰=無価値」という強迫観念が自分を苦しめていないかーと警鐘を鳴らします。
社会に浸透する「怠け者を嫌う文化」によって、私たちは「頑張らなければならない」というプレッシャーを受け続けています。そして、ストレスを抱え、心身ともに疲れています。そんな現代社会に、著者は、「怠惰=悪」という価値観が間違いであることを様々な事例で訴えます。そして、終わりなき生産性競争から上手に逃れることこそが、豊かに生きることにつながると説きます。
本書は、これまで社会に教え込まれてきた「怠惰のウソ」について知る気づきの書です。次のような人には、自信をもっておすすめできます。
- 周囲に評価されたい裏返しとして、「休むこと」に罪悪感を持っている方
- 「生産的でなければならない」という強迫観念にとらわれ、終わりなき競争地獄に陥っている方
- 心身が疲弊しているのに、それでも、仕事が最優先になっている方
- 自分にも他人にも、価値基準が「仕事ができる人」である方
❶~❸の方には、「救いの一冊」となります。怠惰の概念が書き替わることで、自己をいたわり、深刻な自己崩壊(病気、ウツなど)を防ぐことにつなげられるでしょう。また、❹の方には、自分にも他人にも優しくなるきっかけを与えてくれるはずです。
「怠惰」を毛嫌いする文化
デヴォンさんは、私たちが生きる社会には『「怠惰」を毛嫌いする文化』があると指摘します。
なぜ、「休むこと」に罪悪感を覚えるのか
「怠惰」という言葉は、その裏に「道徳的批判」含み、休むことに罪悪感を抱かせます。では、このような価値観がどうして出来上がったのでしょうか?
著者は、資本主義や一部の宗教が、次のような刷り込みを行ったからだと指摘します。
- 頑張らずに苦しんでも自業自得。途中でやめてしまうこと、頑張らないことは、不道徳だ
- 怠惰な自分を克服するために、いつも一生懸命頑張らなくてはいけない
- 生産性の高い人は生産性が低い人より価値がある
- 人生の価値は生産性で図られる
- 仕事は人生の中心だ
資本主義は、人の価値を「生産性の高さ」で評価します。そして私たちに「もっと多く、もっと長く、もっとたくさんの仕事をせよ」と働きかけてくるのです。
これは「資本主義の罠」とも言えます。なぜなら、社員にギリギリまで「自己の意思」で頑張らせた方が、会社の利益は増え、都合がいいわけですから。
怠惰のウソ
著者は、上記のような強迫観念は「怠惰のウソ」だと指摘します。
「怠惰のウソ」が厄介なのは、「頑張って働け!」とはいっても、どこまで頑張ればいいか、その合格ラインは決して示さないことです。 明確がゴールがなく、しかも、どんどん、目的地が先に延びていく。結果、人はいつまでたっても、安心して休むことができません。ここに、「本当の幸せ」があると言えるでしょうか?
この「怠惰のウソ」は、オーバーワーク、社畜、燃え尽き症候群、スマホ疲れなど、様々な現代病を招いています。著者は、このような状況をふまえ、「怠惰の再考が必要だ」と指摘するのです。
人は理由もなしに「怠惰=非生産的」になったりしません(後述)。故、「だらけたがる自分」を卑下して、自己肯定感を下げる必要もありません。
むしろ、「怠惰」だと一喝され揉み消されるような感情こそが、人間として重要な感覚であり、長期的に見れば、私たちが豊かに生きるために必須であると、著者は指摘します(詳細後述)。
そ「怠惰」になりたくなるのには理由がある
怠惰は「自己防衛本能」
「休みたい」「何もしたくない」という気持ちは、そのまま続けても、生産性は上がらないと訴える心身の警告です。このような、強い自己防衛本能を封じ込めて、仕事を継続しても、モチベーションも生産性も上がるわけがありません。
空腹になれば気力も落ちて食べ物ことを考えたり、睡眠不足の時は思考が鈍って目をつぶろうとするのも、私たちの身体は、心身に足りないものがあるとそれを本能的に補おうとするよう設計されているからです。「休みたい」という気持ちに素直になれば、健康は守られます。
人間のリソースは有限
人間の集中力・注意力・持続力などのリソースは有限です。使えばその分減ります。回復には、「適度な休憩」が必須です。休むからこそ生産性も上がるのです。
そもそも、私たちの集中力は1日に2,3時間程度。私たちが思っているより断然短い。それを無視して、1日に8時間、12時間と仕事しても、生産性は低下するだけです。
自分の限界・欲求を認め、断ることも「強さ」です。疲れているのに、「他者によく見られたい」という気持ちから、無理して依頼を受けてはいけません。
なお、「頑張れば何でもできる」と言いますが、これは、「適切な頑張る」を毎日継続したときの成果であって、1日に詰め込み仕事をすることではありません。
何もしない時間を作るメリット
「一見、怠惰な時間」にも、実際は、脳は別の脳を働かせています。良いアイデアは、散歩、シャワーなど、何もしていないときに降りてくるのも、何もしていない時間に、無意識下で脳を働かせアイデアを練っているのです。この生産的な「休養期間」を大事にすれば、人生の質も激的に変わります。
さらに、自分に湧き上がる感情を無視することなく大事にすれば、自分にとって何が重要で、何を断るべきかもわかります。
社会からの「やるべき」、会社や周囲からの「やれ」という圧力ではなく、本当の気持ちに従って優先順位を決めるー。これが、自分らしく生きる秘訣です。
「休むことへの罪悪感」からの脱却方法
では、「休むことへの罪悪感」から解放し、自分自身が価値ある人間であるという感覚を取り戻すにはどうしたらいいでしょうか。4点をピックアップして紹介します。
- 【自己点検】怠惰の声を聞く
- 【仕事への取り組み方】「生産性=善・怠惰=悪」という考えをやめる
- 【社会との付き合い方】社会の「べき」を払いのける
- 【人間関係】疲れる人間関係をそのままにしない。共感力を持つ
【自己点検】怠惰の声を聞く
まずは、自分の感情・行動を観察し、自分を責めずにそこから学ぶことです。以下のような問いを通じて、自らを俯瞰することで、自分らしさが取り戻せます。
- そもそも心身からどんなサインが出ているか
- 「何もしたくない」とき、そのサインに素直に従っているか
- 決められた目標を達成できなかった場合、やる気の無さや怠惰はどう影響していたか
- 過去、怠惰な時間に、素晴らしい気づき・出会いを得た経験はなかったか
【仕事への取り組み方】「生産性=善・怠惰=悪」という考えをやめる
人間の価値は業績では決まりません。「生産性=善・怠惰=悪」と考えている限り、真面目な人ほど、働きすぎ状態に戻ります。また、「生産性を上げるために休憩や休暇を取る」という考えは、終わりなき生産性競争に自らを投じる考え方につながるので注意が必要です。
繰り返しになりますが、「生産性=善」と考えるのは、「生産性の高さや仕事が、その人の価値」という「怠惰のウソ」に洗脳されているからです。脳は、私たちは何もしていない時間にも無意識下でアイデアを練っおり、「怠惰=非生産的」とは言い切れません。
著者は、「生産性=善」という考えに毒されないために、ペットのことを思い浮かべると言います。あなたは、ペットに生産性を求めますか?そこにいてくれるだけで、価値ある存在ですよね?
私たち人間も存在するだけで価値があります。このような考えで人と接すれば、人を自然に尊重でき、自分にも人にも優しくなれます。人間関係も好転します。
【社会との付き合い方】社会の「べき」を払いのける
「怠惰のウソ」はビジネスい限らず、社会の至る所に浸透しています。例えば、太った身体、散らかった部屋も「怠惰の象徴とされます。これらを否定し、ダイエットと運動で引き締まった身体、ハイソな生活など、「こうあるべき」を求めてきます。
このような社会の「〇〇べき」に出会ったとき、それは「怠惰のウソ」ではないかとと、自問することが大事です。
- 自分の内なる声を聞き、「何が好きで、心地よくて、何に嫌悪感を抱くか」という感覚を大事にする
- 社会の理想に近づこうと、自分を追い込むのをやめる
❶を大切にすれば、「自分の軸」が形成されます。自分に合わないもの、幸せに感じられないおことは、跳ね除けられるようになります。社会に受け入れられやすい、素敵な自分になろうとして、もがくのはやめましょう。
【人間関係】共感力を持つ
「努力=人間の価値」ではありません。人は存在するだけで価値があるということを腹の底から理解することが大事です。これを促してくれるのが、「共感」です。
仕事を休んだ人に冷たい視線をおくるビジネスマンは多いですが、自分の怠惰を認め、その人に思いを寄せれば、「怠惰というフィルター」で人を切り捨てることはなくなります。
現代社会は、弱者に非寛容です。無気力な人、うつ病、ホームレスの人などに対して「価値のない人」「劣った人」とレッテルを貼るのではなく、「何がそうさせたのか」想像してみることで、今まで見えなかったことが見えるはずです。
このことは、まわりまわって、「他人も」「自分も」大切にする姿勢につながり、人生に幸せをもたらします。
最後に
今回は、デヴォン・プライスさんの『「怠惰」なんて存在しない』からの学びを紹介しました。
無意識を大事にし、脳のデフォルト・モード・ネットワークを働かすためにも、瞑想などの「何もしない時間が大事」とは知っていましたが、本作を通じて「社会に教え込まれてきた「怠惰」への偏見」に気づけたことは、大きな収穫でした。
社会からの「やるべき」というプレッシャーではなく、自分の気持ちをもっと大事に、自分らしく生きたいと思います。