- 情報は「真実」ではなく「つながり」だった
人類は正しさではなく「共通の物語」を信じて進化してきた。タイトルの「NEXUS」とはその“結びつき”の力を指す。 - AI時代、ナラティブが人間を操る
SNSやAIが感情を操作するストーリー=ナラティブを自動生成。知らぬ間に私たちは“誰かの物語”に巻き込まれている。 - 情報に使われる前に、正体を見抜け
今やAIは行為者となり、社会を変える。情報に支配されず、自ら考えるための“武器”が本書にはある。
★★★★★
Audible聴き放題対象本
ユヴァル・ノア・ハラリ『NEXUS 情報の人類史』を読む理由

私たちは、いま“情報の洪水”の中に生きている。
でも、考えてみてください──
「情報」は、いつから、どうしてこれほどの力を持つようになったのか?
この壮大な問いに真正面から挑むのが、『サピエンス全史』『ホモ・デウス』で知られる世界的歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリの『NEXUS 情報の人類史』です。
NEXUSとは何か? —— 「つながり」こそが人類の鍵
「NEXUS(ネクサス)」とは、ラテン語で“結びつき”を意味する言葉。
本書ではこのNEXUSを、「情報を介した人間のつながり」そのものとして描きます。
それは、人類をここまで進化させた最大の武器であり、同時に私たちを破滅へと導く危うさをはらんだ“諸刃の剣”でもあるのです。
文明・協力・技術──そのすべては強力なNEXUSが築きました。
しかし、同じNEXUSがフェイクニュースや陰謀論、分断や戦争さえも引き起こしてきたのです。
そして今、新たなNEXUSが生まれようとしています。
それはAI。人間の感情を操作するストーリーを自動生成し、我々の意思決定すら超えて社会を動かす――
そんな時代が始まっています。
ハラリが私たちに突きつける3つの鋭い問い
この本は、単なる歴史書でもテクノロジー論でもありません。
現代に生きる私たち一人ひとりに突きつけられた、極めて切実な “哲学的な挑戦状” です。
- 「情報は真実ではない」
→ 私たちは、真実よりも「共通の物語」で動かされているのではないか? - 「AIはもはや道具ではなく“行為者”である」
→ 機械が人間の意志を凌駕する時、何が起こるのか? - 「効率的な社会は、良い社会なのか?」
→ システムが完璧でも、人間の幸福は保証されないのでは?
本書を読み終えると、ニュースやSNS、広告など、あらゆる情報が“まったく違って見えてくる”衝撃を味わうことになります。書評を読んで読んだ気になっても、深い学びは得られません。本書には圧倒的な学びがあります。
過去3作から読み解く、ハラリの「情報史」

ハラリが一貫して問い続けてきたテーマ、それは「人類とは何か?」。
その探求は、時間軸ごとに以下の3作品へと結実しています。
『サピエンス全史』では、「過去」に焦点を当て、人類の「物語」を信じる力を―。
『ホモ・デウス』では、「未来」に焦点を当て、AIやビッグデータといった新しい知の力が、やがて人間の判断を超え、私たちの行動や社会を左右するようになるという警告を―。
『21 Lessons』では、「現在」に焦点を当て、今、私たちが直面する問題――AI・教育・ポピュリズム・フェイクニュースなどにどう向き合うか、教訓を―
そして、すべては『NEXUS 情報の人類史』へつながっています。
書名 | 主なテーマ | 時間軸 | 『NEXUS』とのつながり |
---|---|---|---|
サピエンス全史 | 虚構(フィクション)を信じる力・共有する力が人類を進化させた | 過去 | 情報=フィクションが人をつなぐ |
ホモ・デウス | 人間の未来とテクノロジーの台頭 そして、人類は神=ホモ・デウスを目指す | 未来 | 情報技術が人間を凌駕する |
21 Lessons | 現代社会の課題と教訓 | 現在 | 情報の取捨選択が未来を決める |
NEXUS | 情報とは何か/AIと民主主義の行方 | 過去〜未来 | 人類の“情報史”を貫き、統合する壮大な知の総決算 |
『NEXUS〈上巻〉』:情報と人間の“根源的な関係”を問う

「あなたは、情報を使っている?それとも使われている/翻弄されている?」
本書の最大の問いは、まさにここにあります。
一連のハラリ作品を通して感じるのは、「情報」は人類の手にあるようでいて、実はその情報に人類そのものが操られているという不気味さです。
ハラリは、AI・テクノロジーが、しれっとその傾向を加速させていることを強く警告。人類が人間らしく決定権を持ち続けるためにどうすべきかを考えるに当たり、『NEXUS 情報の人類史〈上巻〉』では、「情報の人類史」、つまり、「人間のつながり」と「情報伝達の力」を詳細に見つめ直します。
ここからは、『NEXUS 情報の人類史〈上巻〉』からの学びを、私なりにまとめます。
NEXUSの正体──人類は「情報=つながり」で進化した
『NEXUS〈上巻〉』の核心は、人類が「真実」ではなく「つながり=NEXUS」のために情報を使ってきたという驚きの視点です。
- 神話、宗教、国家、法律… すべては“共通の物語”に基づいた情報ネットワーク。
- 噂話、戒律、記録、文字、印刷技術… それらが統治・支配・信頼を築いてきた。
- “真実”より“信じ合う力”こそが社会の土台だった。
- 虚構(フェイク)すら、社会を回す“潤滑油”だった
➡️ 情報とは、「正しさ」を伝えるためのものではなく、“つながり”を築くためのツール
➡️情報は道徳と社会の土台。社会の監視システムであり、人類の力そのものである。
情報インフラが文明を動かしてきた(統治)
- 情報は、話し言葉から個人の記憶から“記録”へと移行
- 古代帝国や宗教は、「記録」と「階層的な伝達」で支配を可能にした
例)
シュメールの粘土板(会計システム)→ 徴税の効率化
キリスト教の書簡文化、仏教の戒律文書 → 信仰の拡散 - 効率的な支配手段により、富・権力をもつ強い支配者が生まれ、広範囲な統治が実現された
- 印刷技術の発明は「知の民主化」と「偽情報の爆発」をもたらした
➡️知識は力だが、誤解や操作と常に隣り合わせである。
危険なNEXUS——ナラティブが暴走する時
「何を信じればいいのか」がわからない時代、人は“単純で強力な物語=ナラティブ”にすがります。
それは歴史上、何度も繰り返されてきました。
ナラティブとは、「人が意味を見いだすための物語」です。
意味や感情を乗せた「ストーリー」で、事実とは限りません。しかし、これが、不安な社会を憂う人々の心に入り込み、共感や正当化を生み、人を動かす巨大な力となることがあります。
ヒトラーやスターリン、魔女狩りのような悲劇的な全体主義も、最初は「不安な社会を統合するための物語」として、支持されました。
要素 | 魔女狩り | ヒトラー | スターリン |
---|---|---|---|
時代・場所 | 16〜18世紀、ヨーロッパ | 1930年代〜、ドイツ | 1920〜50年代、ソ連 |
社会的混乱 | 宗教改革・戦争・疫病・飢饉 | 第一次世界大戦敗戦と賠償、経済崩壊、政治的不信 | ロシア革命後の内戦・飢饉・近代化の混乱 |
利用された物語 | 魔女=悪の元凶 | ドイツ民族の復興とユダヤ人陰謀 | 共産主義革命と反革命分子 |
正当化された行為 | 数万人規模の処刑 | ホロコーストと軍国主義の正当化 | 粛清・弾圧 |
目的 | 混乱を「敵」の存在で整理し、物語を通して秩序を回復しようとした | 不満や恐怖を一つの物語にまとめ、“救世主”として自らを位置づけた | 混乱の中で、人々が「明確な敵」と「希望の未来」を欲した |
➡️ 混乱と恐怖の時代には、人々は「単純で強力な物語」を欲する。
➡️ 人は“恐怖”と“希望”を与える物語に簡単に動かされてしまう
🇯🇵 日本のリーダーたちも「物語」で時代を動かした
日本人とて例外ではありません。本書の範疇外ですが、戦後の日本でも、吉田茂、中曽根、小泉、安倍といったリーダーたちが「単純な物語」で時代を動かしてきました。
項目 | 吉田茂 | 中曽根康弘 | 小泉純一郎 | 安倍晋三 |
---|---|---|---|---|
物語 | 独立国家・日本を再建する | 戦後政治の総決算 | 自民党をぶっ壊す | 日本を取り戻す――強い日本、経済成長、誇りある国 |
背景 | 戦後の焼け野原 占領下での混乱 | 高度経済成長の終焉 冷戦終盤の不安定感 | 政治不信と官僚主導への不満 長期経済停滞(失われた10年) | デフレ長期化 東日本大震災後の不安 |
物語の構造 | 再建と現実路線 | 国家の再定義 | 改革=正義 | 国の誇りと力の回復 |
狙い | 「経済第一」「アメリカと組む」というわかりやすい方針で政策実現 | わかりやすい物語で、保守層の支持を固める | 敵(既得権益)と味方(改革派)を明確に分ける“劇場型政治”の先駆け | 単純で感情に訴えるスローガンで長期政権を実現 |
やったこと | サンフランシスコ講和条約 日米安全保障条約締結 経済の再建に集中 | JR・NTTなど民営化 日米関係の強化 | 郵政民営化 構造改革 イラク派遣などの日米関係の再強化 | アベノミクス 特定秘密保護法 安保法制 戦後レジームからの脱却 |
- 社会が不安に陥るとき、人々は「複雑な現実」を単純な物語で理解したがる
- 「敵と味方」「過去からの回復」「誇りの再生」といったフレームが利用される
- それを誰が語り、どう制度化するかが、権力の源になる
➡️ ナラティブを操れる者は、巨大な権力を手にする。
➡️ 「ナラティブ」✕「指導者」で、人が簡単に誘導され、世も変わる
ハラリが警告する「情報の時代」の危うさ

さて、現在ー。
私たちは、もはや人ではなく、AIやSNSが感情を操る時代に生きています。
いまやAIやアルゴリズムは、私たちの好みや感情を分析し、心を動かす言葉や映像を”自動的”に作り出します。
つまり、人間の感情に訴えるストーリーが、前例のないスピードと規模で流通しています。
この力は、政治、国をも動かします。
しかも、我々が、気づいているよりも、深いレベルで入り込み、しれっと世の中を変えているのです。
『NEXUS』を読む意味とは?
『NEXUS 〈上巻〉』を読み終えたとき、私は世界の見え方が大きく変わったと感じました。
- 「情報」とは、社会を支配する見えざるインフラであること
- 「物語」とは、人の感情と行動を左右する最強のツールであること
- 「ナラティブを操る者」が、時代の方向を決めてしまうこと
そして何より、私たちは思っている以上に、「情報に使われている」存在かもしれないという不気味な現実。
だからこそ、読むべきなのです。
まとめ:世界の「前提」が変わる読書体験
今回は、ユヴァル・ノア・ハラリさんの著書『NEXUS 情報の人類史〈上巻〉』からの学びをまとめました。
人類とは何か? 社会とは何か? 情報とは何か?そんな根源的な問いを、私たちに投げかけてきます。
この本を読むと、世界の「前提」が疑わしくなります。これからの時代を生き抜くために、読むべき一冊です。
📖次回:『NEXUS 情報の人類史〈下巻〉』の書評に続くー。
※記載にちょっと時間がかかるかも…
そこでは、AIとアルゴリズムが本格的に支配者となる「非人間的情報社会」の未来と、全体主義の再来の可能性が語られます。ハラリの緊急提言とも言える内容です。
📖ハラリ本をきっかけに、世界的名著として知られるディストピア小説『1984年』『華氏451度』の凄さも、思い知らされます…
本ページで紹介した『NEXUS』も、『1984年』『華氏451度』も、全て、Audibleで聴き放題で読めます。
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