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【書評/要約】あの戦争は何だったのか(辻田真佐憲) なぜ日本は戦争を止められなかったのか。戦争の「原因」「終わり」を問い直す 《新書大賞2026:7位》

【書評/要約】あの戦争は何だったのか(辻田真佐憲) なぜ日本は戦争を止められなかったのか。戦争の「原因」「終わり」を問い直す 《新書大賞2026:7位》
あの戦争は何だったのか」要約・感想
  • 「あの戦争」を問い直す
    日本の敗戦が確定したのは1945年8月15日。では、「あの戦争」はいつ始まったのかに明確な答えはない。そんな「あの戦争」を、戦後80年という節目に改めて問い直す一冊である。
  • なぜ日本は戦争を止められなかったのか
    本書は、戦争の原因を欧米列強の圧力だけに求めない。「日本は追い込まれたから戦争をした」という説明では、日本自身の意思決定を十分に説明できないからである。
  • あの戦争は本当に「終わった」のか
    戦争自体は終わった。しかし、本書は、加害と被害、責任と犠牲をめぐる対立の中で、日本が「あの戦争」を国家として十分に物語れていない現状を浮き彫りにする。戦争の「終わり」とは何かを考えさせる。

★★★★★ Audible聴き放題対象本

目次

『あの戦争は何だったのか』ってどんな本?

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私は8月になると、戦争に関する本を意識的に読むようにしています。

さて、昨年2025年は「戦後80年」と呼ばれ、多くの特集が組まれました。
一般的に、「あの戦争」の終わりは、1945年(昭和20年)8月15日とされています。
では、「あの戦争」は、いつ始まったのでしょうか。

真珠湾攻撃が行われた1941年12月8日を起点とするのか。
日中戦争が始まった1937年までさかのぼるのか。
それとも満州事変が起きた1931年なのか。

実際は、「あの戦争」という一つの言葉の中に、複数の戦争と、複数の歴史認識が重なっています

辻田真佐憲さんの『「あの戦争」は何だったのか』は、まさにこの曖昧さに正面から向き合った一冊です。

本書は、「日本は悪かったのか」「誰に戦争責任があるのか」といった責任追及だけを中心に据えた本ではありません。幕末・明治維新以降の日本の近代史、その連続性の中に「あの戦争」を位置づけ直していきます

「誰が悪かったのか」だけではなく、「なぜ、あの戦争は起きたのか」「戦後、どう向き合ってきたか」を考える。

著者が追究するのは、「戦争責任」だけではありません。戦争の開始時期、開戦回避の可能性、日本が掲げた理念、アジア各国から見た「あの戦争」、そして戦争が本当に「終わる」とはどういうことなのか——。本書は、こうした問いを一つずつ丁寧に問い直していきます。

今でも「あの戦争」は、イデオロギーや、加害者・被害者という立場の違いによって語られることが多いと思います。本書はそうした対立から一歩距離を置き、日本の近代史全体の中で「あの戦争」がなぜ起こり、戦後どのように記憶されてきたのかを捉え直す一冊です。

新書大賞2026 第7位に選ばれたのにも納得の一冊でした。

本書の構成

本書は、以下の5つの問いを軸に「あの戦争」を捉え直していきます。

  1. あの戦争はいつはじまったのか
  2. 日本はどこで間違ったのか
  3. 日本に正義はなかったのか
  4. 現在の「大東亜」は日本をどう見るのか
  5. あの戦争はいつ「終わる」のか

単純に戦争の経過を時系列で追う歴史書ではありません。むしろ、「あの戦争について、私たちはどのように語ってきたのか」そのものを問い直す構成になっています。

特に興味深いのが、「あの戦争がいつ始まったのか」という議論です。
この点について著者は、地理的・時間的な意味から、1937年7月7日の日中戦争からを「あの戦争」と捉え、その期間を「大東亜戦争」と呼ぶことが妥当だと述べています。

戦争の始点をどこに置くかによって、私たちが見ている歴史そのものが変わってしまいます。
本書は、その当たり前のようでいて見落としがちな事実を、改めて教えてくれます。

日本はどこで間違ったのか

著者は、「もし日本が別の選択をしていれば、戦争を回避できたのではないか」という問題について考察します。
一例として、次のような「もし」を一つずつ検討していきます。

  • もっと早く植民地を放棄できなかったのか
  • 東条英機ではなく別の指導者ならどうだったのか
  • より成熟した民主主義が存在すれば戦争を防げたのではないか  他

こうした「歴史の分岐点」を考えていくと、どこかに戦争を回避できるポイントがあったようにも思えます。
しかし著者は、仮に別の選択肢を取っていたとしても、戦争を回避することは極めて困難だったと述べます。

一般的に、日本が勝ち目のない無謀な戦争に突入していった理由を、欧米列強の外圧、たとえば石油禁輸などに対するやむを得ない対応と捉えがちです。しかし、「日本は追い込まれたから戦争をした」という説明だけでは、国内の政治構造や軍部の問題、意思決定の問題を十分に説明できません。

そこで著者は、「国内的な理由」にも目を向けます。
そこから見えてくるのが、国家としての意思決定を一元的に行う「司令塔」が存在しなかったという問題です。

私はこれまで、軍部が圧倒的な力を持ち、軍部が国家を一元的に動かしていたというイメージを持っていました。ところが、実際の大日本帝国憲法下の国家運営は、それほど単純ではありません。政治、行政、司法だけでなく、枢密院などの機関が存在し、さらに陸軍と海軍には独自の統帥権が認められていました。

このように、国家に一人の明確な司令塔が存在しない状態で起こりがちなのが、決断の先送りです。さらに、明確な意思決定よりも「場の空気」が強く作用するという、日本の組織にありがちな悪しき側面も顔を出します。

私たちは、間違った方向に進み始めたとき、それを誰が止めるのでしょうか。
これは、現代につながる極めて難しい問いだと改めて考えさせられました。同時に、過去の間違いを顧み、「もし」を考えてみることの大切さも教えられます。

日本に正義はなかったのか

第3章では、日本が「あの戦争」において掲げた理念が検討されます。中心となるのが、「八紘一宇」です。

八紘一宇とは、世界を一つの家のようにするという意味を持つ言葉でです。
昭和期の日本では、これが「日本を中心としてアジアを一つにまとめ、欧米列強による植民地支配からアジアを解放する」という理念と結びつきました。

当時、アジアの多くが欧米列強の植民地であったことを考えれば、「欧米による支配からアジアを解放する」という主張には、一定の説得力があります。しかし、実際には、それが「アジアを日本の影響下に置く」という方向へとすり替わっていきました。

著者が考えるのは、正義を掲げていたはずの日本が、なぜ次第にその理念と矛盾する行動を取るようになったのかという問題です。

これは、決して戦争だけの問題ではありません。
現代社会においても、組織が掲げていた「理念」や「崇高な目的」が、いつの間にか、その理念から外れた方向へ進んでしまうことがあります。

だからこそ本書は、あの戦争を振り返るだけでなく、「正しい理念を掲げた組織が、なぜ間違った方向へ進んでしまうのか。そして、その流れを誰が止めるのか」という、現代にも通じる重要な問いを投げかけているように思います。

現在の『大東亜』は日本をどう見るのか

第4章では、日本側から見た歴史だけではなく、アジア各国の側から「あの戦争」を見直します。
著者自身がアジア各国の戦争博物館や史跡を訪れ、現地では戦争がどのように記憶され、展示されているのかを探るのです。

そこで見えてくるのは、各国がそれぞれの「自国の物語」として「あの戦争」を語っているということです。

当然のことながら、立場が変われば、戦争の記憶され方も大きく変わります
この視点は、最後の問いにつながっていきます。

あの戦争はいつ『終わる』のか

戦争そのものは1945年8月に終わっています。
しかし著者が問いかけているのは、終戦の日付の問題ではありません。
「あの戦争」をめぐる議論や対立、記憶の問題まで含めて、本当に「終わった」と言える日はいつなのかという問いです。

その象徴として著者が取り上げるのが、日本における国立の近現代史博物館の不在です。
日本には、近現代史を包括的に語るための国立博物館が存在しません。
その背景には、「あの戦争」をどう展示し、どう物語るのかについて、社会的な合意が成立していないという問題があります。

加害と被害、責任と犠牲——。
さまざまな論点が政治的対立に発展してしまうため、国家として一つの歴史を物語ることができていないのです。

この視点に立つと、「あの戦争はいつ終わるのか」という問いも、まったく違って見えてきます。

この問題を乗り越えるために著者が提示するのが、「小さく否定し、大きく肯定する」という考え方です。
戦争における日本の過ちについては、きちんと否定する。一方で、日本の近代史の中にあった可能性や、日本人が積み重ねてきた歴史まで否定しないということです。

過去の失敗を認め、その中から現在にもつながる価値を見つける。

そして改めて、戦争とは何かを問い続けることの大切さを教えられました。

最後に

『あの戦争は何だったのか』を読了して、大事だと思ったのは、「あの戦争」を知ることは、過去を知ることだけではないということです。

なぜ人や組織は間違った方向へ進んでしまうのか。
なぜ一度始めたことを止められなくなるのか。
そして、歴史を未来のためにどう語り継ぐべきなのか。

本書は、確かに「あの戦争」を問い直す本ですが、しかし、一方で、現代社会、そして自分自身の人生の選択にもつながる問いを私たちに投げかけてきます。

近代日本で最も大きなターニングポイントとなった「あの戦争」を通じて、自分自身の歴史観や、社会を見る視点を問い直すための一冊として読んでみる価値があります。

8月というこの時期に、改めて「あの戦争」を考えるための本を一冊選ぶなら、ぜひ手に取ってほしい一冊です。

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