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【書評/要約】徳川15代の通信簿(小和田哲男) 「べらぼう」田沼政治の時代背景や、江戸260年間の人間ドラマを鮮やかに!教科書にはない日本史の面白さ

【書評/要約】徳川15代の通信簿(小和田哲男) 「べらぼう」田沼政治の時代背景や、江戸260年間の人間ドラマを鮮やかに!教科書にはない日本史の面白さ
徳川15代の通信簿」要約・感想
  • NHK大河ドラマの時代考証を8回務めた著者が、江戸260年間の人間ドラマを鮮やかに描く!
  • 徳川歴代15代将軍の人物像・業績・政治をポイントを絞って紹介したうえで、通信簿のごとく、歴代将軍を評価して総括
  • 大河ドラマ『べらぼう』は、10代・家重、11代・家治の時代。田沼意次政治の時代もよくわかる。田沼意次の功績は、経済重視で現代的!蔦屋重三郎が江戸のメディア王として活躍できたのも、田沼時代と大きく関わっていることがよくわかる!

★★★★☆ Audible聴き放題対象本

目次

『徳川15代の通信簿』ってどんな本?

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2025年の大河ドラマ『べらぼう ~蔦重栄華乃夢噺~
視聴率低調とは言われながらも、毎週見ている方も多いのではないでしょうか。

私も、昨年の私の中でのヒット『光る君へ』に続き、『べらぼう』もみ始めましたが、イマイチ、自分の中で盛り上がらない…。だいたい、人が面白くないと感じるときは、「背景を知らない」ときです(ドラマに限らず)。

『べらぼう』は田沼意次時代を描いたドラマ。徳川歴代将軍で言えば、10代・家重、11代・家治の時代に当たりますが、私はほとんどこの時代の背景を知りません。そこで読んでみたのが『徳川15代の通信簿』。

徳川歴代15代将軍の人物像・業績・政治をポイントを絞って紹介したうえで、通信簿のごとく、歴代将軍を評価して総括する1冊です。

著者の小和田哲男(おわだ てつお)さんは、日本の戦国時代史を専門とする歴史学者。特にNHK大河ドラマの時代考証を多く担当(戦国時代から徳川時代前半にかけて計8回)していることで知られています。

本記事では、『べらぼう』に関わる時代を中心に、歴代大河ドラマと絡めて、学びをまとめてみます。

【まとめ】徳川歴代15代将軍:人物像/主な功績/大河ドラマ

私の本書の読書目的は、べらぼうの時代「田沼意次政治の時代背景」を学ぶですが、それでも時代の流れを押さえることは大事です。

そこで、まずは、徳川歴代15代将軍の名前、人物像、主要な功績、NHK大河ドラマで取り上げられた将軍などを、簡潔に表にまとめてみました。

セルを「水色」にした将軍はドラマ化されることも多い有名将軍。それ以外の将軍は、多くの人にとって、「ぼんやり」しているのではないでしょうか。私は『べらぼう』時代の将軍の名前も、憶えていませんでした。

スクロールできます
名前(諱)在位期間人物像主な功績関連大河ドラマ
※主役とは限らない
1徳川家康
いえやす
1603-1605江戸幕府の創始者関ヶ原の戦いで勝利
江戸幕府を開く
『徳川家康』(1983)
『どうする家康』(2024年)
『春日局』(1989)
2徳川秀忠
ひでただ
1605-1623実直で堅実武家諸法度を制定
幕藩体制を確立
『春の坂道』(1971)
『江』(2011)
3徳川家光
いえみつ
1623-1651幕府の基盤を強化参勤交代を制度化
鎖国政策を推進
『葵 徳川三代』(2000)
※家康~家光
4徳川家綱
いえつな
1651-1680温厚で平和主義末期養子の禁緩和
殉死の禁止
5徳川綱吉
つなよし
1680-1709「生類憐みの令」で有名文治政治を推進
元禄文化の繁栄
『元禄太平記』(1975年)
6徳川家宣
いえのぶ
1709-1712名君と評される新井白石を登用
改革を実施
7徳川家継
いえつぐ
1713-1716幼くして将軍に幼少で夭折
8徳川吉宗
よしむね
1716-1745享保の改革を実施米将軍
倹約政治を推進
『八代将軍吉宗』(1995)
9徳川家重
いえしげ
1745-1760病弱で不明瞭な言葉遣い側用人政治が強まる
10徳川家治
いえはる
1760-1786穏やかで温和田沼意次政治時代
商業政策を推進
幕府財政の立て直し
『べらぼう』(2025)
11徳川家斉
いえなり
1787-183760年近く在位松平定信『寛政の改革』
倹約令を発令

晩年は大御所政治を展開
12徳川家慶
いえよし
1837-1853西洋の脅威に直面天保の改革を推進
13徳川家定
いえさだ
1853-1858病弱で政治に消極的ハリスとの条約交渉を進める『篤姫』(2008)
14徳川家茂
いえもち
1858-1866公武合体を推進長州征討
和宮との婚姻
15徳川慶喜
よしのぶ
1866-1867幕府最後の将軍大政奉還を決断
江戸幕府を終焉
『徳川慶喜』(1998)
『青天を衝け』(2023)
『西郷どん』(2018)
『龍馬伝』(2010)

※12~14代将軍は、開国に向けた幕末関連のドラマに、わき役として出てくることも多い

NHK大河ドラマの放送が始まったのは1963年。以降歴代大河ドラマで、圧倒的に多いのが「江戸時代」です。上記以外にも、江戸時代を描く大河ドラマには、「新選組」「忠臣蔵」「勝海舟」「独眼竜正宗」など、多数です。戦国時代~明治初期まで含めると、さらに関連タイトルは増加します。

NHK大河ドラマ「べらぼう」キャスト:徳川家・幕臣

歴史はビジュアルがあった方が理解しやすい。
そこで、NHK大河ドラマ「べらぼう」のキャストも合わせて掲載しておきます。

いつの時代も、権力者の間では、し烈な権力争いが繰り広げられています。もちろん、「べらぼう」の時代でも….

徳川家は「次の将軍の座」を巡って、幕臣の間では、「次の政治の実権者の座」を巡って…
結構な血みどろです… 実際に、下の人物相関図の中は、命を狙われ亡くなってしまう人がいます。殺害者もいます。正式に殺害認定はされていませんが、殺されたんじゃないかと考えられている人もいます。
この顛末は、本作にてご確認を。しっかり、解説されています。

べらぼうキャスト(徳川家)
画像:NHK
べらぼうキャスト(幕臣)
画像:NHK

田沼意次の政治:重商主義で経済を活性化

田沼意次
画像:Wikipedia

『べらぼう』、蔦屋重三郎(つたやじゅうざぶろう、役・横浜流星)時代を知るには、10代将軍・徳川家治(いえはる、役・眞島秀和)の時代に老中として活躍した田沼意次(たぬま おきつぐ、役・渡辺謙)を押さえねばなりません。本書でも、将軍の通信簿でありながら、田沼意次の歴史・政策について詳しく紹介されています。

田沼政治というと、汚職の温床となった「賄賂政治」と学校で習い、良い印象がない人も多いと思いますが、実は、功績は大きい。

「米本位の経済」から「貨幣経済・商業重視」へと転換を図った点が特徴で、これにより、ひっ迫していた幕府財政も安定しました。

  • 重商主義的政策 … 株仲間(ギルド)を公認。商人の力を利用した経済発展を推進
  • 冥加金制度 … 商人に特権を与える代わりに税を取るシステム
  • 蝦夷地の調査・開拓…アイヌの人はシベリアなどに行き交易。これを受けて、蝦夷地調査を実施
  • 印旛沼開拓…吉宗から引き継いだ農地開拓。田沼は利根川~江戸への海上流通網の構築を目指すも洪水でとん挫

田沼政治の第一の政策は「幕府の行政制度の中に予算制度を確立」したことです。今では当たり前ですが、事前に予算を組み、増え続ける支出を抑えました。しかも、民生部門の予算を優遇する一方、将軍の身の回りや大奥などの予算を大幅に削減しました。

第二の政策は、「流通税」の導入。このころは商品流通経済=貨幣経済が勢いよく発達していたのにも関わらず、幕府の経済は、農民から米を徴収する直接税方式。商業には税をかけない考え方が主流でした。商業利潤に税をかけるという発想は当時としては画期的。ここから株仲間が誕生し、冥加金などの納税を義務付けたことで、幕府財政が潤いました。

第三の政策が、「通貨政策」。商品流通が全国規模となるも、東日本では「金」、西日本では「銀」が通貨として使われ、経済発展の障害となっていました。これを改めた通貨を発行しました。

以上の通り、農業より商業低迷した経済を復活させた業績は大きいです。

経済が豊かになったことで生まれた江戸文化

鈴木晴信画「中納言朝忠(文読み)」
画像:Wikipedia

意次の政策により、10代・家治の時代は、全国的に豊かな時代となりました。自由で開放的な空気が流れた結果、花開いたのが、江戸文化です。

  • 鈴木晴信:浮世絵というと思い浮かべる多色で刷られた精巧な木版画『錦絵』誕生に決定的な役割を果たす
  • 杉田玄白・前野良沢:『解体新書』の翻訳
  • 本居宣長は『古事記』の研究
  • 平賀源内:エレキテル 他

江戸は様々な才能を伸ばす場となり、この文化は全国へも広がりました。

このような時代であったからこそ、蔦屋重三郎は、出版・書籍流通の革新者となり、『黄表紙』(大衆向け風刺本)や『美人画』を中心とした 浮世絵の黄金時代の立役者となり、出版業界を大きく変えることができたのです。

暴れん坊将軍で知られる8代将軍・吉宗の時代に蔦重がいたとしても成功はしなかったでしょう。なぜなら、吉宗の政策は、農業!倹約!でしたから。特に、財政立て直しのための税の取り立てが厳しく、農家は生活がままならず、子どもの間引き(殺害)する人が後を絶たなかったほど。そのため、日本の人口増もストップしました。吉宗というといい政治を行った将軍というイメージがありますが、そうとも言い切れない部分もあったのです。

ちなみに、東北の女児が吉原に売られたのも、我が子を自らの手で殺せない農家の親が、口減らしするための一手段でもあったのです。(時代はもっと後ですが、)小説『滔々と紅』は、そんな吉原女郎の生涯を綴った小説です。

一方、5代将軍・綱吉は犬公方と言われて、ダメ将軍と言われてきましたが、昨今は、その功績が評価されるようになりました。『もしも徳川家康が総理大臣になったら』では、日本を救うために編成されたスーパー政権の重要メンバーの一人(厚生労働大臣に抜擢)として登場します。

『光る君へ』の藤原道長と言い、学校での教えられ方次第で、時代や歴史を見る目が結構な「偏見」でできていることを思い知ります。 これを訂正するためにも、自分で「歴史」に興味を持って学ぶことは大事です。

天災発生で経済が大打撃。意次は失脚

浅間山の大噴火
画像:Wikipedia

10代・家治死去により田沼失脚

「農業立国」から「商業立国」へ
田沼政治は、これまで幕府が推進してきた方向を大きく軌道修正するものでした。

新しい政策を嫌う幕臣・官僚というものはどの時代もいるものです。しかも、意次は良家の出ではありません。第9代将軍の徳川家重の小姓から、メキメキ頭角を現し、老司に上り詰めた人物です。結構なラッキーボーイであったことが、奥智哉さんの小説『田沼意次』に描かれています。

さらに、不運にも日本史上最大級の飢饉とも言われる「天明の大飢饉」(1782年~1788年)、冷夏に追い打ちをかけたのが「浅間山大噴火」(1783年)が発生。異常気象の結果、飢饉は東北地方を中心に全国的な被害をもたらし、餓死者は数十万人に達したといわれています。

こうなると、経済は混乱。天変地異も「政治が悪いから」と反田沼感情が高まります。生活苦に苦しむ農民たちは、打ちこわしや一揆をおこすようになり、意次の嫡男であった若年寄・田沼意知(おきとも、役・宮沢氷魚)も佐野政言(まさこと、役・矢本悠馬)に切り殺されます。佐野政言は、幕府からは、ルールで切腹を命ぜられますが、庶民からは「世直し大明神」と称されるほどです。

さらに、意次にとっての不幸は重なり、それから間もなく1786年には最大の後ろ盾出会った10代・徳川家治が死去。家治の息子は病死しており、直系で将軍を継げる人もいませんでした。こうして、意次は失脚してしまうのです。

一橋家出身の家斉が11代将軍に。松平定信が「寛政の改革」を実施

11代将軍の座に就いたのは、一橋家の家斉(いえなり)。15歳で将軍となり、50年にわたり将軍の座に居座ります。将軍に就いたばかりのころ、若き家斉に代わって、実権を握ったのが、徳川御三卿※・田安家の松平定信(まつだいら さだのぶ、役・寺田心)です。

「徳川御三卿」は「徳川御三家」とは別物です。始祖、位置づけが異なります。

項目御三家御三卿
始祖初代将軍;徳川家康8代将軍・徳川吉宗
※吉宗は紀州藩出の将軍。将軍直系ではない
将軍家に後嗣が絶えた時に養子を出す大名家
尾張・紀伊・水戸
将軍家の血統を守るために生まれた将軍家のバックアップ部隊
吉宗直系:田安家・一橋家・清水家
領地それぞれ藩を持つ江戸城内に屋敷
役割将軍候補になれる将軍のおそばにいる後継者候補

田沼意次には、「賄賂政治家」のイメージがつきまといますが、これは、意次を嫌っていた松平定信によるところが大きい。田沼政治を悪く言うことで自己の政治を確立していったからです。

松平定信は、『寛政の改革』の推進者。意次とは政治思想が正反対。倹約と質素な生活を重視 。田沼の商業政策を否定し、重農主義に転換します。

歴史は成功者によってつくられる」と言われますが、歴史は勝者の視点で語られます。歴史は必ずしも客観的な事実の記録ではなく、権力者・支配者・成功者に都合の良い形で残されることが多い という認識は持っておきたい。

しかし、松平定信もその後、失脚。そして、『寛政の改革』時の不満が一気に爆発。徳川家斉はド派手、贅の限りを尽くす生活をし始めるのです。

江戸の街でも、松平定信によって抑圧されていた本や歌舞伎などの娯楽が復活。そして、十返舎一九、葛飾北斎、歌川広重などの美術作品が続々と生まれるのです(化政文化)。

10代将軍・徳川家治の通信簿

10代将軍・徳川家治
画像:Wikipedia

さて、ここまで、『徳川15代の通信簿』から田沼時代~松平定信、大御所時代をピックアップして紹介してきましたが、『10代将軍・徳川家治の通信簿』は?

小和田さんは、以下のように述べています。
※決断力、統率力、教養、経済感覚、構想力といった具体的なスコアは本書でご確認を。

  • 経済が潤い、文化が花開く時代を築いた田沼意次を登用したのは家治
  • よきリーダーとは、自らが動かすとも能力ある人物を登用し、力を発揮する場を与えその政策を信頼して任せることのできる人物である
  • 家治には、大胆な政策を任せる器量の大きさがあったといえるのではないだろうか

なるほどぉ。影の薄い将軍ですが、そんな見方ができるのかぁ… と思った次第です。

11代将軍の評価は…是非、本書でご確認を。

最後に

今回は、小和田哲男さんの『徳川15代の通信簿』から、「べらぼう」の時代背景に関する学びをまとめてみました。

江戸時代の歴代将軍とその歴史・経済・文化などを知って思ったのは、蔦屋重三郎は、田沼政権下だったからこそ、江戸のメディア王となれたんだなぁということです。それより早くても、遅くてもうまく行かなかっただろうと…

本書を読んで、田沼意次と蔦屋重三郎の時代背景がわかったことで、『べらぼう』も、❶江戸文化の側面、❷政治のドロドロの側面の両面から面白く見れそうです。

なお、本記事では紹介していませんが、10代・家治の嫡男・家基(いえとも、役・奥智哉)の18歳という若すぎる死田安家(田安賢丸/寺田 心)・一橋家(一橋治済/生田斗真・など三家の関係性長谷川平蔵(役・中村隼人の功績なども、本作にて解説されています。

いや~、ホント、政治の裏には、ドロドロした人間ドラマありありですね。

歴史はつながっています。徳川15代を通して学んでみると、「大きな時代の流れ」が260年の人間ドラマを通じてわかり、時代劇が俄然面白くなります。本書の前半は、大河ドラマ「どうする家康」のおさらい、本書の最後は「青天を衝け」「西郷どん」のおさらいにもなります。「江」「春日局」「篤姫」のおさらいにもなります。

是非、歴史好き、大河ドラマ好きの方は興味を持って読んでみて下さい。歴史がより深くわかります。

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