- 犯罪×パンデミック
コロナ禍で社会変化の波にもまれ犯罪・罪悪を犯してしまった6人の物語。第171回直木賞受賞作 - 6つの短編は、緊急事態宣言の少し前、世間がウイルスの脅威にパニックになる時期から、生活がもとに戻り出すころまでを時系列で描く
- 今まで普通に生きていた人たちも、”環境の変化” で犯罪や罪悪を犯してしまうことがあるー。そんな現実を、普通の主婦・フリーター・中年男性などを通じて、リアルに描く
★★★★☆
Audible聴き放題対象本
『ツミデミック』ってどんな本?
犯罪×パンデミック
コロナ禍にのまれ、それでも必死に生きていこうと、もがく人たちの業は罪なのか―。第171回直木賞受賞作
2020年春、突然、世界中を襲った新型コロナウイルス。ウィルスは人から人へ爆発的に感染し、体を蝕み、多くの命を奪いました。しかし、ウィルスが襲ったのは人の体だけではない。社会の在り方を変え、そして、そこに、新たな犯罪を生み出しました。
緊急事態宣言で社会全体が外出自粛。結果、飲食店をはじめ、対面での接客が必要な仕事は自粛を余儀なくされ人が続出。収入が減り、どうやったら生きていけるのかと頭を悩ます人&企業。たとえ、リモートワークで仕事ができたとしても、家族と長時間閉塞空間で一緒すれば、腹が立つことも増え、イライラする。
人はストレスに強くない。そして、おろかな生き物です。不安や相償還に心が蝕まれると、浅はかでバカな行動をとってしまいがち。そして、新たな「犯罪」「罪悪」を生んでしまう。
『ツミデミック』に登場する人たちは、新型コロナウイルスに感染し、人生が狂った人たちの話ではありません。登場するのは、専業主婦やフリーター、中年男性など、今まで普通の生活をしてきた人たち。パンデミックに伴うお金や人間関係に歪みが生じ、反道徳的な行為に手を染めてしまった人たちの「6つの罪」です。
多くの人は、自分は「犯罪」「罪」とは一生無縁と考えがち。しかし、今まで普通に生きていた人たちも、”環境の変化” で犯罪や罪悪を犯してしまうことがあるー。そんな現実があることを、本作は暗に読者に示します。
著者・一穂ミチ(いちほみち)さんは、2021年『スモールワールズ』で吉川英治文学新人賞受賞。また、『光のとこにいてね』本屋大賞ノミネート作。人の心を描くことに定評のある作家。私が好きな作家さんの一人です。
先が見えず、ままならないことばかりが起きる人生を、リアルに描く1冊。パンデミックを忘れないためにも読んでおきたい小説です。
- 直木賞受賞作を読みたい方
- 新型コロナウイルスがもたらした、負の側面を改めて認識しておきたい方
『ツミデミック』あらすじ・感想
第1回目の緊急事態宣言が出されたのは2020年4月。そして、2類感染症から5類感染症に移行されたのが2023年5月。パンデミック収束まで「3年」の月日が流れました。
6つの短編は、緊急事態宣言の少し前、世間がウイルスの脅威にパニックになる時期から、生活がもとに戻り出すころまでを時系列に描きます。『ツミデック』は、6つのストーリーを通じて、パンデミックで味わった先の見えない「不安」「ストレス」を、忘れることなくよみがえらせてくれます。
人は、どんな不安・恐怖も時間の経過とともに忘れてしまう。カミュの『ペスト』はコロナ過で多くの人に読まれました。これから、3年、5年、10年と時間が経過したとき、『ツミデック』は、あの時感じた不安を思い出させてくれる小説となるはずです。
違う羽の鳥
主人公は、大学を中退し居酒屋の客引きをしている青年。感染症が流行り始めたせいで客足が鈍り、不安な日々を過ごしている。自分と同じ大阪出身という派手な若い女に声をかけられ、誘われるまま一緒に飲みに行くが、女は亡くなった中学の同級生の名前を名乗る。そして、主人公しか知らないはずのエピソードを口にするー。
少し怖くなるミステリー。予想を覆すストーリー展開で、一気読み!
ロマンス☆
主人公は、4歳の子供がいる主婦。求職中だがコロナ禍の影響で見つからない。さらに、パンデミックの影響で経営難に陥った美容師の夫との仲も険悪にー。ある時、現実離れした美貌のフードデリバリーサービスの男性を見かけ、お近づきになりたいという思いが、彼女をおかしくしていくー。
人は大きなストレスを抱えている時、極めて悪手な現実逃避をしてしまうことがある。自分にもバカな選択をすることがあるかもしれないー。自己への戒めとして読了。
憐光
気がついたら、15年前の豪雨災害のため命を落とした幽霊になっていたー。コロナ禍の現世に戻ってきたあたし。自宅に帰ろうとすると、当時の友人・担任を見かけて同行。そこで知った真実とはー
特別縁故者
主人公は、調理師の職を失った恭一。懸命に働く妻の態度は日に日に冷たくなっていく。しかし、それでも、新しい仕事を探す気力がわいてこない。
ある日、小一の息子が「聖徳太子の旧一万円札」を近所に住む一人暮らしの老人からもらったという。よこしまな考えを抱いた恭一。翌日、翌日に得意の澄まし汁を持って、老人の元を訪ねるがー。
人は自分の利益のために、よこしまな考えを抱くことがある。しかし、そういう思いは大体思い通りにはならない。そんなことを、リアリティある話で教えられる。
祝福の歌
高校生の娘が妊娠したことに悩む父親・達郎。実家の両親からお隣の様子が気になるとの相談。奥さんは近々子供が生まれるはずだったが、赤ちゃんの泣き声はせず、また、奥さんの顔色もひどく悪いというー。
ホロリと涙するお話。誰しも、思わぬ事態に見舞われ、本当のことが言い出せなくなることがある。
さざなみドライブ
ネット上で出会い、「ある目的」で集まった5人。全員がパンデミックに人生を壊されるという経験をもつ。それぞれが自分に起きた出来事を語りはじめー。「ある目的」とは何なのか?
感染小説
『ツミデミック』はウィルスのように「罪・罪悪が感染」する様を描く小説ですが、「ストレスが次々に感染」する様を描くのが平野啓一郎さんの短編集『富士山』に掲載の短編「ストレス・リレー」。
あぁ、こうやって、世の中は簡単にストレスフルになるのだなぁ… と気づかされます。あなたも、日々、人から感染され、また、人にストレスを関連させている一人です。
多くの気づきがある小説。おすすめです。
最後に
今回は、一穂ミチさんの『ツミデミック』のあらすじと感想を紹介しました。
登場人物の心の揺れが、リアルに伝わってくる小説です。直木賞受賞作は長編作画多いですが、本作なら短編集なのでサクサク読めます。是非、本書を手に取り読んでみてください。
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