- 取調室という“密室”で繰り広げられる、異様&ヒリつく心理戦
軽犯罪で逮捕された中年男が突然語る“爆破予告”。
密室で進行する言葉の駆け引きが、ページをめくる手を止めさせない。 - スズキタゴサクという得体の知れない“怪物”の不気味さ
自己卑下と不可解な発言を繰り返す中年男は、愚鈍か天才か。
彼の言葉は警察だけでなく、読者の心理までも翻弄する。 - 社会への挑発が込められた異色の社会派サスペンス
爆弾テロを通じて描かれるのは、現代社会の歪みと閉塞感。
倫理と不安を揺さぶる結末が、読後も読者の心に残り続ける。
★★★★★
Audible聴き放題対象本
『爆弾』ってどんな本?

酒に酔って商店街で暴行を働き、軽犯罪で取り調べを受ける中年男。
自称無職、住所不定、家族ナシ。たるんだ顎にビール腹、貧乏くさい服に気の抜けた愛想笑い──
見るからにうさん臭く、中年臭がプンプン漂ってきそうな男。
その男は「スズキタゴサク」と名乗り、取調室での雑談のなかで、ふとこんなことを言います。
今日の10時に、十時に秋葉原のほうで何かあります、と。
まるで霊感でもあるかのように。
──そして本当に、秋葉原の廃ビルで爆発事件が発生。
タゴサクは、あと三度、爆発が起こると予告する。
底が見えないタゴサクの奇妙な言動に、警察、そして東京中が翻弄されていく──
呉勝浩の代表作にして、『このミステリーがすごい!2023年版』国内編第1位に輝いた『爆弾』。
警察と謎の爆弾魔との「言葉による対決」を描いた極上の心理サスペンスです。
息を呑むような緊張感ー
完全に警察をおちょくるようなタゴサクの言葉遊びと挑発。
取調室という密室空間での静かな対話が、これほどスリリングだったことがあったでしょうか。
読者は、ひりつく頭脳戦にページをめくる手が止まらなくなります。
全編がまるで 時限装置付きの爆弾のように読者の思考を揺さぶり、裏切り、挑発してきます。
読者は、刑事と同じ目線で、タゴサクの一言一句に神経をとがらせることになること必至!
間違いなく、タゴサクのキモさ、得体の知れなさ、奇妙な魅力に取り込まれます。
単なるミステリーの枠を超えた、社会と人間の本質をえぐる衝撃作。超おすすめです。
爆弾:あらすじ──警察VS爆弾魔の「心理戦争」
2025年10月劇場公開。佐藤二朗さん演じる“怪物”タゴサクに注目
2025年10月31日には映画公開も決定。
スズキタゴサク役を演じるのは、俳優・佐藤二朗さん。
まずは予告編をご覧ください。
兎に角、スズキタゴサク、得体が知れず、キモいんです…
佐藤二朗さんの演技が、小説のタゴサクを完全再現していて鳥肌が立ちました…
ストーリー
事件は、取調室で起きている。
かつて、「事件は会議室で起きてるんじゃない。現場で起きてるんだ!」という名台詞を残した映画がありましたが、本作『爆弾』は、まさに、事件は、取調室という密室内で発生します。
一見、ちんけな事件で捕まった中年男の与太話。
しかし、その言葉が本物かどうかを確かめる間に、実際の爆破が発生し、警察は追い詰められていきます。
この男は──
「バカ」なのか?「頭脳犯」なのか?
「霊感がある」のか?「犯人」なのか?
そして、最大の問題、爆弾の場所はどこか?
スズキタゴサクの供述は、現実と虚構の境界を曖昧にし、警察と読者を翻弄します。
1つ目の爆発では「霊感だ」と言っていたタゴサクが、次第に地名・対象者・被害の詳細を語りはじめ、緊迫感は一気に加速。
しかし、タゴサクは決して核心を語らない。
刑事が迫っても、タゴサクはのらりくらりとかわしていく。
読者もまた、「爆弾は本当にあるのか」「タゴサクは本物なのか」と疑心暗鬼に陥り、最後まで緊張から逃れられません。
爆弾:感想 ー読まないなんてもったいない!読者を飲み込む作品

サスペンスなので、結末がどうなるか、ここで紹介するのは控えます。
それでも、とにかく、本作、凄いんです。「読まなければ損」と断言できる1冊です。
“密室の会話劇”が、ここまでスリリングとは!
先にも触れましたが、の作品の驚くべき点は、ほとんどの展開が取り調べ室での対話だけで進行することです。
拳銃を突きつけるわけでもなければ、派手なアクションもない。
それでもページをめくる手が止まらないのは、スズキタゴサクの頭がいいのか、人をおちょくっているだけなのか、とにかくつかみどころのないところです。
こいつは「バカ」なのか?「頭脳犯」なのか?
そもそも、「タゴサク」という名、そのものが、ふざけていて、人をおちょくっています。
読者は、刑事たちと同じ目線でスズキタゴサクと対峙することを迫られます
──常に問い続けさせられる緊張感と知的興奮は、現代ミステリーの中でも屈指です。
愉快犯か? それとも社会への怒りか?
スズキタゴサクは、徹底的に自己否定的で卑屈。
「デブでクズで役立たず」と自称し、冴えない中年男を演じる彼ですが、
それが演技なのか本心なのか、見極めがつきません。
そして、そんな自分を売れいた彼の言葉の端々には、現代社会への批判が感じられます。
社会は歪んでいる。
人々は思考停止し、不幸は他人事として過ごしている──
タゴサクの語る「正論」は、警察や読者の心に共感を引き出します。しかし、それすら、彼の高度な心理戦の一部かもしれないのです。
その不気味さが、『爆弾』というタイトルに込められた“意味”を、何層にも深くしています。
しかし、一つ間違いなく言えるのは、物語が進むにつれ、「爆弾」は、現代社会の矛盾に対する「怒り」がその背景にあるのではないかと思えてきます。
社会は歪んでいる。人々は思考停止し、不幸は他人事として、平然と日々を過ごしている──
私たちが見て見ぬふりをしている社会に対して、タゴサクは何かを突きつけようとしているように見えます。
しかし、そのタゴサクのもっともらしい倫理観・社会の閉塞感への訴えすら、人の心理を操作するテクニックなのかもしれません。
『爆弾』は、極上の心理戦、かつ、上等な社会派サスペンスです。
読後に爆発する“モヤモヤ”──これこそ、”爆弾”ではないか
ミステリー・サスペンスにおいて、読者が求めるのはカタルシスです。
- 知的なカタルシス(謎が解ける快感)
- 感情的なカタルシス(緊張からの解放)
- 倫理的なカタルシス(正義が回復される安堵)
物語の終盤、事件が解決したり、犯人が逮捕されたり、真実が明かされた瞬間、それまで蓄積されてきた「不安」「謎」「緊張」が一気に放出されて、スッキリするといった感覚です。
しかし、『爆弾』は、これらをあえて裏切ります。
謎は解けたのに、どこか割り切れない。
犯人の言葉に“真理”が含まれているような、不安。
正義は果たされたのに、胸にモヤモヤが残る。
この読後感こそが、本作があなたの心に仕掛けた“爆弾”です。
あなたの心にも、不発弾のような余韻が残ることでしょう。
Audible読書をすすめたい!:声で聞く「スズキの気味悪さ」
本作はAudibleでも配信されており、取調室の“会話劇”を音声で聴くことで、さらに深く作品世界に没入できます。
朗読者によるスズキタゴサクの話しぶりが、実に気味が悪く、耳元に爆弾を仕掛けられているような緊張感があります。個人的には「読む」よりも「聴いて」ほしい作品です!
最後に:『爆弾』は、読み終えてからが本番の“爆弾小説”
今回は、呉勝浩のサスペンス小説『爆弾』のあらすじと感想を紹介しました。
- 密室での対話だけで読者を翻弄する、驚異の構成
- 社会派の問いと、人間の深層心理を突く重厚さ
- 知的快感とモヤモヤの共存が生む“読後の爆発”
『爆弾』は、単なるエンタメではありません。
読んでいる最中はもちろん、読了後にも“何か”がモヤモヤ・キモさ残り続ける作品です。
映画公開前に、ぜひ手に取って読んで(あるいは聴いて)ください。
あなたの中に、“スズキタゴサク”が残り続けるかもしれません。
ちなみに、爆弾2も面白いです!こちらも「このミステリーがすごい! 2025」の10冊に選ばれました。
2作品ともAudibleで聴き放題対象です。Audibleでは面白い小説が多数読み放題で読めます。
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