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【書評/要約】言語の本質(今井むつみ 他) —なぜ人間だけが複雑な言語を操れるのか——。その”理由”と“学習ループ”の正体《新書大賞2024年1位》

【書評/要約】言語の本質(今井むつみ 他) —なぜ人間だけが複雑な言語を操れるのか——。その"理由"と“学習ループ”の正体《新書大賞2024年1位》
言語の本質」要約・感想
  • オノマトペは“言葉の入口”
    赤ちゃんは音と意味が直感的に結びつくオノマトペから言語を習得する。母音の違いが感覚の違いとして伝わるため、世界を言葉で切り分ける最初の足場となる。これは日本語に限らず、世界言語に共通する現象。
  • 仮説形成の「アブダクション」が言語を伸ばす
    子どもは未知の言葉を文脈から推測し、意味を自力でつくる。この柔軟な“仮説形成”こそが、動物やAIにはない人間特有の能力であり、言語獲得の原動力となる。
  • 語彙と認知を押し上げる“ブートストラッピング・サイクル”
    語彙の増加が統語理解を促し、その発達がさらに語彙習得を加速する。認知の成長と言葉の成長が相互に強化されることで、人間の言語・社会は世代を超えて進化してきた。

★★★★★ Audible聴き放題対象本

目次

『言語の本質』ってどんな本?

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言語とは何か。
なぜ赤ちゃんは言葉を使えるようになるのか。
そして、なぜ人間だけが複雑な言語を操れるのか——。

こうした根源的な問いに、本書『言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか』は真正面から挑みます。

著者は、認知科学・言語習得研究の第一人者である今井むつみさんと秋田喜美さん。
言葉の起源、子どもの言語獲得のプロセス、語彙がどのように拡張していくのか——それらを一つひとつ解きほぐしながら、「なぜ人だけが言語を持つのか」「ことばの本質とは何か」という大きなテーマへと導いていきます。

AIの言語習得について語ることで、人間とAIの違いを明らかにする本が多い中、本書は、あえて「私たち”人間自身”の言語の獲得」に焦点に据えている点で、際立った存在です。それは、大人の私たちが能力を強化したり、賢い子供を育てるヒントにもつながります。

新書大賞2024 第1位に輝いたのも納得の一冊です。

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オノマトペが人間の「ことばの入り口」

本書はまず、オノマトペから、言語とは何かの追求をはじめます。

オノマトペとは、音や感覚をまねて表現する擬音語(ドンドン)、擬声語(ワンワン)、擬態語(ふわふわ)などの言葉ですが、これらは、単なる「子どもっぽい言葉」ではありません。むしろ、言語の進化を理解する鍵を握っています。

赤ちゃんはオノマトペから言語を学ぶ

赤ちゃんは、抽象度の高い語(「水」「液体」「感情」など)をいきなり理解できません。
そのため、音と意味が直感的に結びつき、発音しやすいオノマトペが、言語習得の入口になります。

例えば——
パチャパチャ:母音「ア」→広がりのある響き → 大きめの水がはねる
ピチャピチャ:母音「イ」→細く鋭い響き → 小さな水滴が軽く跳ねる

音と感覚のリンク”に赤ちゃんは自然と気づき、世界を言葉で切り分ける力を育んでいきます。

母音と感覚の リンク
  • 母音「ア」:大きさ・広がり バタバタ/ドカドカ
  • 母音「イ」:細かさ・鋭さ ヒリヒリ/キリキリ
  • 母音「ウ」:力強さ・圧縮感・重さ グルグル/ズルズル
  • 母音「オ」:丸み・重厚さ・安定感 コロコロ/ドンドン
  • 母音「エ」:軽快・広がりと軽さの中間 ペラペラ/メラメラ

オノマトペは、言語獲得の「足がかり」

この原理は日本語に限らず、世界の多くの言語に普遍的に見られる現象です。
オノマトペは、言語獲得の「足がかり」であり、進化的にも重要な役割を果たしてきたのです。

📌母音によってオノマトペの意味が変わる、という感覚的な気づきが極めて新鮮
本書ではさらに豊富な例で詳しく解説されています。

仮説形成の「アブダクション」が言語を伸ばす

本書の核心となるもう一つの概念が、アブダクション推論(仮説形成の推論)です。

アブダクションとは、限られた情報から「こうではないか?」と仮説を立てる思考法。
演繹や帰納と異なり、未知の現象に直面したときに“推測しながら世界を理解する”力を指します。

赤ちゃんの例で見るアブダクション

赤ちゃんが初めて「ワンワン」と聞いたとき、
目の前に犬がいる →「この音は犬を指す?」という仮説を立てる。
これがアブダクションです。

言語習得においては、以下のような重要な役割を果たします。

  • 未知の単語の意味を文脈から推測する
  • 既存の語彙を新しい状況に応用し、語彙を拡張する
  • 情報が不完全でもコミュニケーションを進める ※「おそらくこういう意味だろう」と推測し、会話する

📌最近、「AI時代は問いが大事!」なことを解説する本が多数出版されていますが、
この“仮説形成の柔軟性”こそ、人間とAIの決定的な違いです。
人間は統計(データ)だけに頼らず、推測と理解を行き来しながら言語を獲得、成長していくのです。

人間・動物・AI:言語理解の違い

特徴人間動物AI
表現の範囲抽象的・複雑な概念まで表現可能具体的・直接的な状況に限定データに基づくパターン処理
柔軟性未知の状況でも仮説を立てて新しい意味を創造種ごとに決まった鳴き声や信号で固定的学習データがなければ対応困難
継承と進化世代を超えて言語を拡張・進化させる模倣や習慣の範囲で継承、体系的進化はないアップデートや再学習で改良されるが自律的進化はない
抽象性「自由」「未来」など抽象的概念を扱える基本的に「今・ここ」の具体的情報のみ抽象的概念も処理可能だが意味理解は統計的

本書では、人間・動物・AIの言語処理の違いも整理されます。

  • 人間:抽象的概念まで扱え、未知の状況でも仮説を立て、言語を進化させられる
  • 動物:固定的な信号によるやり取りが中心
  • AI:膨大な学習で抽象処理はできるが、意味理解は統計的であり、柔軟な仮説形成は苦手

人間だけが“見えないもの”を言語で扱えるのは、この柔軟な認知の働きによるものです。

言語を育てる「ブートストラッピング・サイクル」

子どもは最初、ことばの意味を知りません。
しかし、複数の認知能力を組み合わせて、“ことばの意味を自力で推論”し、その語彙獲得を新たな学習の支えとしていきます。複数の認知能力が互いを支え合いながら成長するサイクルそれが「ブートストラッピング・サイクル」です。

  1. 世界知識(意味)が、最初の語彙獲得を助ける
  2. 語彙が増えると、統語構造の学習が進む
  3. 統語理解が進むと、さらに語彙が獲得しやすくなる
  4. 語彙と統語の発達が、抽象概念の理解を可能にする
  5. 抽象理解が深まると、より複雑な言語学習が可能になる

👉 言語が認知を押し上げ、認知が言語を押し上げる“自己強化ループ” が回り続ける。

語彙力が子どもの学力に大きく関わると複数の本で読んできましたが、本書を読むとその仕組みが立体的に理解できます。親と子の会話や、日常的に触れる言葉の質の重要性が、より深く腑に落ちるはずです。

そして、言語を獲得した大人が、さらなる、未知を理解しようと「人間の知性」を高め、社会をよりよいものにしてきたのです。

最後に:言語が人間の文明まで作ってきた

言語の本質』は、人間がいかにして言語を手に入れ、それを使って世界を理解し、知性を高めてきたのか——そのプロセスを驚くほど豊かな形で描き出す1冊でした。

赤ちゃんは、なんの手がかりのない状態からことばの意味を自力で推論し、その獲得が次の学習を加速する。
この“自己強化の学習ループ”は、大人になってからも、読書によって回し続けることができます。

言語は偉大であり、人間の知性の核。
本書を読めば、それが実感として腹落ちできます。私も生涯にわたり、読書で“自己強化の学習ループ”を回しつづけます!

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