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【書評/感想】最後の皇帝と謎解きを(犬丸幸平) 歴史に翻弄される少年溥儀と日本人青年との友情が胸打つ歴史ミステリー《2026このミス大賞!受賞作》

【書評/要約】最後の皇帝と謎解きを(犬丸幸平) 歴史に翻弄される少年皇帝と日本人青年との友情が胸打つ歴史ミステリー《2026このミス大賞!受賞作》
最後の皇帝と謎解き」要約・感想
  • 紫禁城を舞台にした歴史ミステリー
    少年・溥儀と、彼のもとで水墨画を教えることになった日本人青年が主人公。紫禁城内と起こる不可解な事件を追いながら、物語は次第に清朝と日本をめぐる歴史の闇へとつながっていく。
  • 溥儀の成長・二人の友情が胸を打つ
    皇帝と平民、中国人と日本人という異なる立場の二人が、謎を追う中で少しずつ心を通わせていく。歴史に翻弄される二人の人間ドラマが本作の大きな魅力。
  • 近代中国史をもっと知りたくなる歴史小説
    溥儀の少年時代を通して、辛亥革命から満州国へと続く激動の時代を身近に感じられる。物語を楽しみながら近代中国史への関心を深められる一冊。

★★★★★ Audible聴き放題対象本

目次

『最後の皇帝と謎解きを』ってどんな本?

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最後の皇帝—— それは、清朝最後の皇帝となった ラストエンペラー・溥儀(ふぎ)のこと。

わずか2歳で皇帝に即位し、辛亥革命によって清朝が滅亡した後も、しばらくは「皇帝」としての生活を続けた人物です。その波乱に満ちた人生は、これまでも映画小説などで描かれてきました。

そんな溥儀の少年時代を舞台に、紫禁城で起こる不可解な事件を描くのが、犬丸幸平 著『最後の皇帝と謎解きを』。

舞台となるのは、1920年の中国・北京
主人公は、紫禁城に暮らす少年・溥儀と、彼のもとで水墨画を教えることになった日本人青年・一条剛

皇帝と平民、中国人と日本人。
本来なら交わるはずのない二人が、閉ざされた紫禁城で起こるさまざまな謎に挑んでいきます。

読み始めは、ライトな謎解きミステリー。
しかし読み進めるほどに歴史の重みが増し、最後には人間ドラマにグッとくる。

別々に見えた事件が次第につながり、歴史を終えようとしている清朝と、アジア進出への足掛かりを作ろうとする日本の闇へとつながっていきます。

第24回(2026年)『このミステリーがすごい!』大賞の大賞受賞作にも納得できる一冊です。

最後の皇帝と謎解きを:あらすじ

物語の舞台は、1920年の中国・北京。

溥儀は1908年、わずか2歳で清朝最後の皇帝に即位するも、1911年に辛亥革命が起こり、1912年には清朝が滅亡。
5歳で皇帝の座を退くことになりましたが、退位後も紫禁城で「皇帝」としての生活を続けていました。

そんな少年・溥儀のもとに、日本人青年・一条剛が水墨画の師として招かれます。
しかし、一条が紫禁城に来た本当の目的は、贋作を描かせるためでした。
溥儀たちは、紫禁城に保管されている貴重な水墨画を贋作にすり替え、真作を秘密裏に売却することで、清朝復興のための資金を得ようとしていたのです。

溥儀は、決して好感の持てる少年ではありません。
皇帝という立場を当然のものとして振る舞い、周囲を平気で振り回す存在です。

一方、一条は、日本人ということもあり、是々非々で皇帝に意見します。
そのため、最初は溥儀との関係は緊迫。しかし、不可解な事件が起こり始め、二人を謎を追うことになるのです。

その過程で、溥儀はこれまで知らなかった「友情」というものを少しずつ理解しはじめます。
そして、それがどれほど尊いものなのかを知っていくのです。

一方の一条は、彼は日本人としての密命を背負っており、秘密裏に溥儀を欺く立場でもありました。
しかし、彼自身も、事件を謎説いていく中で、日本が中国に仕掛ける、もっと大きな陰謀の中で動かされる「歯車」であったことを知ることになるのです。

辛亥革命、軍閥の抗争、北伐、張作霖爆殺事件、そして満州事変へ。
中国と日本の関係が大きく変化していく狭間の時代に、ミステリーを楽しみながら、歴史への好奇心を刺激される作品です。

最後の皇帝と謎解きを:感想

「謎解き」以上に心を揺さぶる人間ドラマ

本作は「歴史ミステリー」ですが、個人的に強く惹かれたのは、謎解きではなく、時代の狭間で翻弄される少年・溥儀と日本人青年・一条の人間ドラマでした。

特に印象的なのが、溥儀の変化です。

皇帝と平民。中国人と日本人—— 二人の間には、身分と国籍という大きな壁があり、最初は緊迫しています。
しかし、同じ謎を追うなかで、「友情」というものを知り始めます。
「人としての心」が欠けていた溥儀が、人として成長していくのです。この過程が実にいい。

読者は二人の友情の行方を見守りながらも、ラストで、彼らが背負っているものの重さに胸を締めつけられることになります。

「最後の皇帝」溥儀に思いをはせずにはいられない

本作で強烈な印象を残すのは、やはり溥儀という存在です。
皇帝→退位 → 亡命 → 日本の傀儡皇帝 → 捕虜 → 最終的には 一般市民という、近代中国の激動を人生で体現した人物です。

本作で描かれる溥儀は、まだ少年です。
清朝が滅ぶも、宦官を数百人従え、溥儀は依然として「皇帝」として扱われています。
しかし、その一方で、紫禁城から自由に外へ出ることもできません。
紫禁城の外の世界は刻々と変化しており、自分がこれからどうなるのか、皆目わかりません。

この状況を考えながら物語を読むと、読者は自然と溥儀という人物に思いを馳せてしまうのではないでしょうか。

どんなに身分が高くても、どれだけお金や権力があっても、人生は思い通りにはならない。

本作を読んでいると、「平凡な人生は悪くない」と思わされます。

📌紫禁城は訪れましたが、ホントにすごい場所でした。
訪問したのは北京五輪の数年前。紫禁城と万里の長城を訪れて、「日本は中国には勝てない」としみじみ感じたのですが、その後、あっという間に経済的にもそうなりました…

ミステリーの背景にある歴史を知りたくなる

本作のもう一つの魅力は、小説を読んだ後に歴史を調べたくなることです。

🟢溥儀を中心とした1920年代前後の中国史年表

中国・満州の主な出来事溥儀
1908年清朝最後の皇帝として即位2歳で皇帝に即位
1911年辛亥革命が勃発。清朝への反乱が広がる
1912年清朝滅亡・中華民国成立。宣統帝が退位退位。ただし紫禁城内では皇帝としての生活を続ける
1917年張勲が清朝復活を企てる「張勲復辟一時的に復位するが、わずか12日で失敗
1924年北京政変。馮玉祥が北京を掌握紫禁城を追放される
その後、天津の日本租界で生活
日本との関係を深めていく
1926年中国各地で軍閥が勢力争いを続ける天津で「皇帝復位」の機会を模索
1927年中国で国民党と共産党の対立が激化
1928年北伐によって国民政府が中国の統一を進める。
張作霖が爆殺される
1929年中華民国の国民政府による統治が進む
1931年満州事変。日本軍が満州を占領
1932年日本の支援を受け、満州国成立溥儀が満州国の執政に就任
1934年満州国が帝政へ移行満州国皇帝「康徳帝」となる

こうして年表にしてみると、溥儀の人生と中国近代史が、驚くほど密接につながっていることが分かります。

🟢一条も歴史に翻弄された人生
一条も、日本側の都合で、歴史に翻弄された人生を送っていたことを、知ることになります。
溥儀と合わせて本作の深い部分なので、是非、作品を読んで見てください。

最後に

ミステリー、歴史、友情。

『最後の皇帝と謎解きを』は、「紫禁城で起こる事件を解決するミステリー」であると同時に、「清朝最後の皇帝・溥儀の少年時代を描く歴史小説」であり、さらに「二人の青年の友情を描く人間ドラマ」でもありました。

近代中国史をいきなり本格的に学ぶのは、少しハードルが高いものです。
しかし、本作のような面白い小説をきっかけにすれば、物語を楽しみながら、自然と歴史への関心を深めることができます。

現在、世界では米国と中国の覇権争いが続き、両国の関係は世界経済にも大きな影響を与えています。だからこそ、現在の中国を理解するうえでも、その背景にある近代中国史を知っておくことは大切です。本作は、そんな近代中国史への入口としても楽しめる一冊です。

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ちなみに、たまたま、ほぼ同タイミングでAudible読み放題に追加された、池井戸潤さんの新作「ハヤブサ消防団 森へつづく道も、なんと「満州」に関わる作品でした。こちらも面白かったので、あわせておすすめです。

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