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【書評/要約】ブルシット・ジョブの謎(酒井隆史) “クソどうでもいい仕事”はなぜ増える?資本主義社会の力学

【書評/要約】ブルシット・ジョブの謎(酒井隆史) 仕事で悩み苦しむすべての方に。“クソどうでもいい仕事”の謎と闇に迫る
ブルシット・ジョブの謎」要約・感想
  • ブルシット・ジョブクソどうでもいい仕事 の実態を明らかにする骨太新書
  • 社会構造的に、クソどうでもいい仕事は増殖する。その理由を資本主義の歴史を元に紐解く
  • 資本主義経済においては、ブルシット・ジョブは高給。一方で、社会的価値の高い仕事ほど薄給。不都合で残酷な社会を生きているうえで、知っておくべき社会の力学が学べる

★★★★☆ Audible聴き放題対象本

目次

『ブルシット・ジョブの謎』ってどんな本?

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「会議のための会議」
「誰も読まない資料づくり」
「仕事のための仕事」

この仕事、本当に意味あるのか?!
会社員として働いたことがある人なら、一度は思ったことがあるのではないでしょうか。

そんな疑問に真正面から答えてくれるのが、『ブルシット・ジョブの謎』です。

「ブルシット・ジョブ(Bullshit Jobs)」とは、従事している本人ですら「無意味だ」と感じている仕事のこと。

社会に価値を生み出しているとは思えないのに、なぜか存在し続ける仕事。
そして、奇妙なことに—— そうした仕事ほど、給料が高いことが多い。

本書は、人類学者・デヴィッド・グレーバーの名著『ブルシット・ジョブ ― クソどうでもいい仕事の理論』をわかりやすく解説した一冊です。

日本人向けに、日本の実例・社会構造を補足し、この不可解な現象を徹底的に解説します。

  • ブルシット・ジョブの精神的悪影響
  • クソどうでもいい仕事が量産される歴史・背景
  • 社会的価値の高い仕事に従事するたちへの悪影響 など

新書ながら内容はかなり骨太で、読み進めるほどに多くの気づきがあります。
そこから浮かび上がるのは、私たちが普段あまり意識しない 「不都合で、ときに残酷な社会の力学」 です。

そもそも、仕事とは何なのか——。
今の社会を理解し、これからを生き抜くためにも読んでおきたい。
そんな示唆に満ちた、読み応えのある一冊です。

ブルシット・ジョブの実態

ブルシット・ジョブの典型例

ブルシット・ジョブにはいくつかの典型があります。

  • 取り巻き:偉い人の威厳を演出するための仕事
  • 脅し屋:競争相手を牽制するための仕事(企業弁護士など)
  • 尻ぬぐい:組織の欠陥を取り繕う仕事
  • 書類穴埋め人:誰も読まない書類を作る仕事(お役所仕事、広報)
  • タスクマスター:仕事を作るための管理職(中間管理職)

読んでいると、思わずこう感じます ——「これ、うちの会社にもある…」と。

ブルシット・ジョブはラクな仕事か?

どうせ意味のない仕事なら、楽でいいじゃないか—— そう思う人もいるかもしれません。

しかし、実際は、“無意味な仕事ほど、人間の精神をむしばむ”
さらに厄介なのは、「無意味だ」と言ってはいけない空気が存在することです。

それは、空気を読んでしまう日本特有の問題ではなく、グローバルな現象だと本書は指摘します。

「窓際ポスト」は「無意味な仕事」を延々と強いることで、社員を自己都合退職に追い込みますが、
ブルシット・ジョブは、さらに「無意味ではないフリ」も強いる。
そう考えると、従事者の精神的負担は相当なものであると、理解できます。

なぜブルシット・ジョブは増えたのか

本書の面白さは、単なる「会社あるある」で終わらないところです。
ブルシット・ジョブは、資本主義の構造・歴史そのものと深く関係しています。

ブルシット・ジョブの歴史的背景

ブルシット・ジョブが増えた背景には、資本主義の発展と経済政策の変化があります。

まず、資本主義が発展するにつれて、社会では効率や生産性が強く求められるようになりました。
その一方で、「その仕事が本当に社会にとって意味があるのか」という労働の本質的な価値は、次第に軽視されるようになっていきます。

その流れを加速させたのが、不況時に政府が経済へ積極的に介入するケインズ主義政策
政府が公共事業や景気刺激策に資金を投入して雇用を生み出し、景気回復を図るという考え方で、1930年代の世界恐慌や戦後復興の際に広く採用されました。

しかしこの政策は、雇用を生む一方で、「穴を掘って埋めるだけ」のような実質的な価値を生まない仕事を生み出すことにもつながりました。これが、ブルシット・ジョブが増える一つのきっかけになったと指摘されています。

「官から民へ」で変化した経済構造

その後、デフレから脱却すると、今度は、政府主導の経済運営は「非効率ではないか」という批判が出てきます。
そこで登場したのが、ハイエクやフリードマンらが提唱したネオリベラリズム(新自由主義)です。

これは、政府の介入を減らし、自由市場の競争に任せるべきだという考え方で、1980年代以降、世界の主流となりました。アメリカのレーガン政権やイギリスのサッチャー政権による規制緩和や民営化は、その象徴です。

この流れの中で、「官から民へ」と資金や事業が移り、さらに、資本主義を熟知する「富裕層」と結びついていきます。そして、まず先に企業や富裕層が潤えば、次第に、下流にもお金が流れて経済全体を活性化するというトリクルダウン理論もとつながっていきます。

管理のための管理が生む仕事

もう一つ、ブルシット・ジョブを増やした要因が、管理業務の増大です。

例えば、官公庁の仕事では大量の書類や報告書が必要になります。
入札や委託事業になると、その準備や手続きのために「仕事のための仕事」が次々と生まれます。

企業でも同様です。資金や成果、業績を管理するために、数値管理や報告業務が増えていきます。
経済が発展し組織が大きくなるほど、管理のための管理が増え、組織内の調整や報告を担う人材が必要になります。

こうして、生産そのものとは直接関係しない仕事が増え、中間管理職を含めたブルシット・ジョブが拡大していったと本書は指摘しています。

現代社会で増殖するブルシット・ジョブ

巨額の資金が動くとき——
その分配の仕組みにわずかな「すきま」が生まれます。
すると、その資金の流れに寄生するようなレイヤーが次々と生まれ、そこに実質的な価値を生まない仕事(ブルシット・ジョブ)が発生していきます。

東京五輪に見るブルシット・ジョブの構造

日本のブルシット・ジョブを理解する例として、本書で取り上げられているのが東京五輪の業務委託です。

大会運営のため、政府からは数兆円規模の資金が投入され、その多くが広告代理店などを通じて流れました。
代理店ビジネスは、いわば中間に立って資金を配分する仕組みです。

しかしこの構造では、本来仕事を担う人たちに届くはずの資金が途中で吸い上げられ、その代わりに実質的な意味を持たないポストや業務が生まれやすくなります。

東京五輪でも「日給数十万円の謎のポスト」が話題になりました。
実際にどれほどの実務があったのか不透明な役職に高額報酬が支払われる一方で、現場の仕事は決して高給ではありません。

この事例は、

  • 社会的価値の低い仕事ほど高給になりやすい
  • 社会的価値の高い仕事ほど報酬が低くなりがち

という、ブルシット・ジョブの力学を象徴しています。

なぜエッセンシャル・ワーカーは軽視されるのか

仕事の社会的価値と報酬は、しばしば反比例する。

この問題は、エッセンシャル・ワーカーの待遇にも表れます。

エッセンシャル・ワーカーとは、医療・介護・物流・小売など、社会を維持するために不可欠な仕事に従事する人たちです。とくに注目されたのは、新型コロナのパンデミックのときでした。多くの人が外出を控えるなか、彼らは感染リスクを抱えながら社会を支え続けました。

彼らの仕事は、まさに人をケアするという社会的価値の高い労働です。
ところが現実には、ケア労働の多くが低賃金にとどまっています。

この背景には、「社会に役立つ仕事をしている人は、それ自体がやりがいなのだから報酬は低くてもよい」という発想があると本書は指摘します。
この考え方は、歴史的に次のような価値観と結びついています。

  • 労働は人間に与えられた苦役(罰)であるという観念
  • 労働は無から何かを生み出す創造行為であるという観念
  • 労働にはそれ自体で道徳的価値があるという観念

こうした思想の延長線上に、「やりがいのある仕事なら低賃金でもよい」という発想があります。
家事・出産・育児といった女性の労働が長く無償とされてきた理由も、この価値観と深く結びついています。

なぜ「意味のない仕事」に高給が出るのか

では逆に、なぜブルシット・ジョブには比較的高い給与が支払われるのでしょうか。

本書は、その理由の一つとして「苦痛としての労働観」を挙げています。
たとえ社会的価値がなくても、その仕事に従事する人が精神的な苦痛を感じているなら、「労働にはそれ自体で価値がある」という発想から報酬が正当化されるというわけです。

極端に言えば、「意味はないが苦痛だから、給料が高くても仕方ない」というロジックです。

最後に

酒井隆史さんの「ブルシット・ジョブの謎 クソどうでもいい仕事はなぜ増えるか 」からの学びを紹介しました。

本書では、ここで触れた内容以外にも、ブルシット・ジョブの実態やその裏側、そして私たちがこれから何を考えるべきなのかについて、より深く掘り下げて論じられています。

現代の資本主義社会は、多くの問題を抱えながらも、その多くが先送りされたまま進んでいます。
しかし、パンデミックや戦争、大不況といった大きな危機が起きたとき、社会の仕組みは突然大きく変わります。

そしてその変化の過程では、しばしば社会の上層にいる人々の論理が優先される形で物事が決まっていく——。
本書を読むと、そうした社会の力学が確かに存在していることを強く実感させられます。

私たちは、そのような現実の中で生きていかなければなりません。
だからこそ、社会や働き方がどのように変化してきたのかを知っておくことは大きな意味があります。

その理解を深めるうえでも、本書は多くの示唆を与えてくれる一冊だと感じました。

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