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【書評/要約】ブルシット・ジョブの謎(酒井隆史) “クソどうでもいい仕事”の謎と闇に迫る

【書評/要約】ブルシット・ジョブの謎(酒井隆史) "クソどうでもいい仕事"の謎と闇に迫る
ブルシット・ジョブの謎」要約・感想
  • ブルシット・ジョブクソどうでもいい仕事 の実態を明らかにする骨太新書
  • 社会構造的に、クソどうでもいい仕事は増殖する。その理由を資本主義の歴史を元に紐解く
  • 資本主義経済においては、ブルシット・ジョブは高給。一方で、社会的価値の高い仕事ほど薄給。不都合で残酷な社会を生きているうえで、知っておくべき社会の力学が学べる

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目次

『ブルシット・ジョブの謎』ってどんな本?

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会議のための事前会議。仕事のための仕事。

明らかに不毛で無駄な仕事にうんざりした経験は誰もがお持ちではないでしょうか。こんな仕事の謎を解き明かしてくれるのが講談社現代新書の『ブルシット・ジョブの謎』です。

ブルシット・ジョブクソどうでもいい仕事 の実態を明らかにしたうえで、当該者の精神への悪影響、クソどうでもいい仕事が量産される歴史・背景、さらに、社会的価値の高い仕事に従事するたちへの悪影響を明らかにしています。

本作は米国人類学者 デヴィッド・グレーバー氏の『ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論』を解説書に当たる本。原作本は世界的ベストセラーですが、ページ数・価格ともにハードルが高い。故、著者・訳者である酒井隆史さんが、多く日本人に読んでもらえるよう、日本の現状を加筆して、読みやすくまとめ直しています。

新書ながら、内容は、経済理論が解説されるなど、かなり骨太です。しかし、「資本主義経済においては、ブルシット・ジョブは高給である一方、社会的価値の高い仕事ほど薄給」、「クソどうでもいい仕事は増殖する」などの理由がわかり、ふむ🤔と学ぶことが多い。

仕事とは何なのかー。「不都合で残酷な社会の力学」が見えてきます。現代社会を生き抜くためにも知っておきたいことが書かれた価値ある1冊です。

ブルシット・ジョブの実態

【書評/要約】ブルシット・ジョブの謎(酒井隆史)

ブルシット・ジョブとは

ブルシット・ジョブ(BSJ)とは、従事者自身がその仕事を無意味と感じている仕事です。社会的に有益な成果を生まない、もしくはその価値が疑わしい仕事です。下表はブルシット・ジョブの種類です。従事者本人が「クソどうでもいい」と実感しながらも、「いや、そうじゃない」と自分と周囲を騙しながら、仕事をしています。

BSJの種類特徴例えば
取り巻き誰かを偉そうにみせたり、偉い人の虚栄心を満たすための仕事秘書
受付、ドアマン
脅し屋人を脅したてるような要素を持つ仕事企業弁護士
ロビイスト
尻ぬぐい組織の中にあってはならない欠陥・ミスを取り繕う仕事不良コードを修正するエンジニア
書類穴埋め人誰も見ない書類をひたすら作成するだけの仕事
価値がないとわかっている商品を広める仕事
組織が実際にはやっていないことを、やっていると主張する仕事
お役所仕事
広報
タスクマスター他人に仕事を割り当てるだけの、無意味な仕事作りだす仕事中間管理職

ブルシット・ジョブはラクな仕事か?

無意味で退屈な仕事でもお金がもらえるなら、ラクでいいじゃないかー。一見、そんな風にも思えます。しかし、「価値のない仕事をし続けるストレス」は、精神を大きく蝕みます。

コスパ・タイパが叫ばれる現代なら「こんな仕事、やめませんか?」と発言できそうなものですが、それを言わせない空気も漂っています。これは、空気を読む日本特有の現象ではありません。グローバルな現象です。

「窓際ポスト」は「無意味な仕事」を延々と強いることで、社員を自己都合退職に追い込みますが、ブルシット・ジョブは、さらに「無意味ではないフリ」も強いることを考えると、当該従事者の精神的負担は容易に想像できます。

ブルシット・ジョブの背景:資本主義下でどう拡大してきたか

 "クソどうでもいい仕事"はなぜ増えたのか | 【書評/要約】ブルシット・ジョブの謎(酒井隆史)

現資本主義社会では、ブルシット・ジョブが増加傾向にあります。この現象は特に先進国で顕著であり、管理職・金融業・サービス業に顕著です。どのような背景で、このような仕事は増えてしまったのでしょうか?

ブルシット・ジョブの歴史的背景

資本主義の発展に伴い、効率性や生産性が強調される一方で、労働の本質的な価値や目的が軽視されるようになりました。このような事態を引き起こした原因の一つが、資本主義下で行われた「不景気対策」です。

代表的なものが、不況時は政府が積極的に経済に介入せよという「ケインズ主義政策」です。政府が「公共事業」「景気刺激策」「減税」を打ち出し国家予算を投下することで、雇用創出・景気刺激を行って、不景気を脱しようとする策です。このようなデフレ政策が、1930年代の世界恐慌、20世紀の二つの世界大戦からの復興のために行われ、「穴を掘って埋める」ようなブルシット・ジョブが生まれることになりました。

官から民へ、そして富裕層や一部企業へ

ケインズ主義的経済政策で、デフレから脱すると、次第に「官主導の事業の非効率性」というあらたな問題が論じられるようになります。ここで登場してくるのが、ハイエクやフリードマンなどの経済学者が提唱したネオリベラリズム(新自由主義)です。

ネオリベラリズムとは、1980年代以降に経済政策の主流となった思想で、自由市場競争の原理を重視し、政府の経済介入を最小限に抑えること思想です。この思想は、政府主導の経済運営に対する批判、および、1970年代のスタグフレーション(経済停滞とインフレの同時進行)に対する反応として登場し、1980年代の米ロナウド・レーガン政権や英マーガレットサッチャー政権などによる自由貿易・規制緩和などの政策転換へとつながり、これがグローバルな経済政策の主流となっていきました。

この「官から民へ」が、資本主義を熟知する「富裕層」と結びついていきます。金の扱いを知っている富裕層や企業にお金を流せば、産業が活性化し、雇用も生まれ、その富は下流まで流れるという「トリクル・ダウン理論」ともつながっていきます。

増殖する中間管理職

お役所への書類提出に辟易した経験がある方は多いのではないでしょうか?「官の委託仕事」は膨大なペーパーワークを生みます。仕事を受けるための入札となれば、「仕事のための仕事」が山のように生まれます。

また、企業は資金・成果・業績を管理しなければなりません。結果、数値化業務が増殖していくことになります。経済が発展し、経済効率進むほど、数値管理は増え、「管理のための管理」が縦(組織階層)にも横(組織内)にも広がっていきます。

このような数値管理・社内調整の増大が管理者を必要し、これに合わせて、生産とは直接関係のないブルシット・ジョブが増大していくことになったと本書は指摘します。

現代社会で増殖するブルシット・ジョブ

現代社会で増殖するクソどうでもいい仕事" | 【書評/要約】ブルシット・ジョブの謎(酒井隆史)

巨額の資金が動くとき、その分配にかかわるシステムにすきまがあれば寄生者のレイヤーがつくりだされるのが世の常です。そこにも、ブルシット・ジョブは生まれます。

東京五輪とブルシットの力学

日本のブルシット・ジョブの実態をわかりやすく解説する事例として、酒井さんが取り上げているのが、東京五輪の業務委託です。東京五輪の運営のために、政府から数兆円という巨額の資金が電通・パソナに流れました。

代理店業は「中抜き」です。「本当に必要な仕事をする人たちに回るお金」が搾取され、代わりに、ブルシット・ジョブが生まれます。東京五輪では、「日給数十万円の謎のポスト」が問題になりました。おそらくこのポストは、ほとんど意味のないポストです。しかも、そういうポストに回るお金の方が高給です。

この例は、わかりやすく、「高給なブルシット・ジョブが世に増殖する構造」および、「社会的価値の高い仕事は薄給になる」という、理不尽な現実を表しています。これが、ブルシットの力学です。

仕事をしてえられるお金の総額とその仕事がどれだけ役に立つのかということは、ほとんどパーフェクトに反比例している

社会的価値に乏しければ乏しいほど、実入りはよくなり(市場価値は上がり)、社会的価値に富んでいれば富んでいるほど、実入りは悪くなる(市場価値は下がる)。

要するに、だれかがきつくて骨の折れる仕事をしているとすれば、その仕事は、世の中の役に立っている可能性が高い。つまり、だれかの仕事が他者に寄与するものであるほど、当人に支払われるものはより少なくなる傾向にあり、その意味においても、よりきつい仕事となっていく傾向にある。

なぜ、エッセンシャル・ワーカー・女性は軽視されるのか

本作は、さらにエッセンシャル・ワーカーの軽視問題に切り込みます。

エッセンシャル・ワーカー」とは、社会が正常に機能するために不可欠な業務に従事している労働者のことです。

エッセンシャル・ワーカーが注目されたのは、新型コロナウイルスパンデミックにおいてです。社会全体が「外出自粛」に追い込まれた中でも、彼らは、感染のリスクにおびえ、家族を犠牲にしながらも、世のため、人のために働きました。つまり、彼らの仕事は、人をケアするという極めて社会的価値の高い仕事」なのです。

しかし、ケアワーカーの報酬は、多くが薄給です。この問題の背景には、「有用な労働をしている人間への反感」があり、そこでは、「価値ある労働をしている人は、やりがいがあり、神からの報いを得られるので、本来無報酬でもいいのだ」という考えが、以下で示す歴史的概念のもとに存在すると言います。「女性の仕事(家事・出産・育児)がなぜ無給なのか」もこれに通じます。

  • 労働は人間に与えられた罰であり、人間にとっては苦痛であるという観念(キリスト教的の教え)
  • 労働は無からなにかを生みだす創造であろうという観念(神学、および、ヨーロッパ的教え)
  • 労働にはそれ自体で価値がある、しかもそれは、人間を形成するモラルたりうるとする観念

なぜ、クソどうでもいい仕事に”そこそこいい給与”が支払われるのか

ブルシット・ジョブは実質的には社会に何も生み出しません。しかし、そこそこいい給料~高額な給与が支払われます。そのロジックは、次のようなものです。

ブルシット・ジョブは生み生み出さなくとも、当該従事者は精神的な苦痛に耐えて仕事をしています。この場合、「労働にはそれ自体で価値があり、苦痛ならなおさら価値がある。だから、無意味で苦痛なブルシット・ジョブには、高給が与えられて当然なのだ」という考えがあるとしています(前節❸)。乱暴に言えば、「苦行だからこそ、価値があり、高給じゃないとやってられない」と言うわけです。

※随分、重要な流れを削ってまとめています。詳細は本書にてご確認を

最後に

今回は、酒井隆史さんの「ブルシット・ジョブの謎 クソどうでもいい仕事はなぜ増えるか 」からの学びを紹介しました。

本書では、上記で紹介した以外にも「ブルシット・ジョブのリアル・闇」、「我々は今、何を考えなければいけないのか」など、説明されています。

現在の資本主義は様々問題を抱えていますが、その多くの社会は問題が先送りされています。そして、パンデミック・戦争他、超不景気など、どうしようもない問題が起きた時、突然、社会が変わります。本書を読むと、このようなとき、いつも、上流・勝ち組の理論で物事が決まり、社会が進んでいく力学構造があることを、ひしと感じます。

私たちは、残酷な社会を生きていかなければなりません。世の中が、働き方がどう変わってきたか、本書で学んでおくことは、有益だと私は考えます。

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