- 2025年 本屋大賞受賞!静かな感動を呼ぶ“喪失と再生”の物語
最愛の弟を失った主人公が、遺された“誰か”と心を通わせ、少しずつ前を向いていく──。丁寧に描かれる心の機微に胸を打たれる。 - 家事代行×ヒューマンドラマ!“家事”がつなぐ人と人の物語
掃除や料理といった日常の中に、癒しと優しさがあふれる。片付いた部屋、美味しい食事、誰かと囲む食卓のぬくもりが、人の心をそっとほどく。 - 何気ない日常の大切さに気づかせてくれる“やさしい小説”
派手な展開はないけれど、読み終えたあとには心がじんわり温まる。読後には、「今日のごはん」を少しだけ大事にしたくなる一冊。
★★★★★
Audible聴き放題対象本
『カフネ』ってどんな本?

2025年本屋大賞に輝いた阿部暁子さんの小説『カフネ』は、深い喪失感と喪失からの静かな再生を描いた感動作です。
本屋大賞だけでなく、【第8回未来屋小説大賞】【第1回あの本、読みました?大賞】も受賞し、三冠を達成。多くの読者の心を掴みました。
物語は、最愛の弟を亡くした主人公・野宮薫子と、その弟の元恋人・小野寺せつなが、家事代行サービス「カフネ」を通じて心を通わせていく姿を描きます。日々の中で交わされる小さな優しさ、誰かと囲む食卓のぬくもり──それらが、読者の心にそっと染み入るように響きます。
タイトルの「カフネ」は、ポルトガル語で「愛する人の髪に指を通すしぐさ」という意味。
その意味のとおり、本作には「人のやさしさ」や「寄り添いの温度」が、物語全体に静かに流れています。派手な展開こそありませんが、だからこそ、人の心の機微が丁寧に浮かび上がり、読み終えた後には、胸がじんわりと温まる感覚を残してくれます。
私は「食卓が描かれる優しい小説」が大好きです。食卓とは、日常の中にあるもっとも身近な“癒し”の場。心身が疲れていても、美味しいごはんが体に元気を、そして心にぬくもりや感謝の気持ちをもたらしてくれます。
『カフネ』にも、家事代行というテーマを通じて、キッチンや食卓の風景がたくさん登場します。依頼人たちは、病気・多忙・性格的な理由などで家事ができず、荒れた部屋と心を抱えながら生きています。しかし、薫子が家を片付け、せつなが相手の健康と生活を考え料理を作ることで、その人たちが少しずつ穏やかさを取り戻していく。その姿に、読者もまた癒され、励まされます。
派手な事件や大きなドラマがなくても、調理・食事のシーンには、言葉では伝えきれない優しさや愛情がにじんでいます。たとえば、喧嘩のあとに出されるおにぎり。誰かのために作られる手料理──それらは、登場人物の関係性や感情を、静かに、でも深く語ってくれます。
本作『カフネ』でも、料理や食卓が、人と人とをつなぐ「媒介」として丁寧に描かれています。亡き弟の面影を追う姉と、その元恋人が、料理や食事を通じて心を通わせていく様子に、読者は、悲しみの中にもやさしい・ぬくもりを感じるはずです。
「片付いた部屋に住むこと」「誰かのためにごはんを作ること」「誰かのごはんを食べること」
そんな小さな行為が、人生を少し前向きにしてくれる。ときには、それが人生そのものを変えることさえあるのだと、本作は教えてくれます。いい小説です。私は好きです。
『カフネ』:あらすじ ※ネタバレを含みます

主人公・野宮薫子(ののみや・かおるこ)は、法務局に勤める41歳の独身女性。几帳面で誠実、仕事にも真面目ですが、感情を抑えて生きてきました。家族とは距離があり、唯一心を許していた弟・春彦を深く愛していた彼女。物語は、その春彦が突然亡くなるところから始まります。
元夫との離別、子どもに恵まれなかった過去。そして、最愛の弟を失った喪失感に、薫子は日常を生きることすら困難になっていきます。
そんな彼女のもとに、春彦の遺品とともに届いた一通の手紙。その中には、「小野寺せつな」という女性の名前と連絡先、そして遺産・財産の一部を彼女に譲るよう書かれていました。
せつなは、薫子より一回り若く、快活。つなぎ姿にお団子ヘアというラフな雰囲気の彼女ですが、内に傷を抱えている様子も見え隠れします。春彦からの財産受け取りもきっぱり拒否。薫子に対しても、関係はこれまでというそぶり見せます。
ぎこちない出会いから始まった二人。年齢も性格も異なるも。共通しているのは、「春彦を失った」という深い悲しみ。薫子の生活と健康の乱れに気づいたせつなは、真意を告げず、薫子の自宅に上がり、荒れ放題の部屋に苦言することもなく、キッチンでありあわせの材料で温かい料理を作り、健康を気遣うアドバイスします。その優しさが、薫子の止まっていた時間を動かしていくのです。
やがて薫子は、せつなが働く家事代行サービス「カフネ」の仕事を手伝いはじめます。掃除・料理などの家事代行──そのなかで出会う依頼人たちの人生に触れることで、彼女の心にも変化が起こっていきます。
高齢で孤独な女性。
ネグレクトの親のもとで暮らす子ども。
子育てと仕事に追われ心を病んだ母親。
介護に疲れ果てた男性。
そんな人たちの暮らしを家事代行を通じて支えながら、薫子は、キレイな部屋とおいしい食事が人を変えること(汚い部屋と不健康な食事が人の人生に大きなマイナスを及ぼすこと)を再認識。そして、彼らに感謝されることで、「誰かの役に立つこと」に心を救われていきます。そして、自分を支えてくれたせつなを、大切な存在として想うようになります。
しかし、せつなにも、心の傷とともに、大きな身体的な問題を抱えていることが明らかになります。今度は薫子がせつなを支える番。
「最初は春彦を通じた他人同士」だった二人が、いつしか唯一無二の“理解者”となっていく過程が、本作では丁寧に、そして静かな感動とともに描かれています。薫子の想いに触れ、“自分の心”と向き合うようになっていくせつなの姿も感動を誘います。読者は目がウルウルすること、必至です。
『カフネ』:感想

『カフネ』は、料理や掃除という一見地味な家事を通して、人の心の繋がりや再生を描いた物語です。私が本作に惹かれた理由を挙げてみます。
「大事なものの喪失」からの再生
人生には、大切なものを失うことで、立ち止まってしまう瞬間があります。でも、そんなどん底のタイミングは、自分にとって本当に大切なものを見つめ直すきっかけになります。しかも、前を向くきっかけを与えてくれるのは「人」。これらに気づくことで、新たな人間関係、人生が始まっていきます。
失ったことをバネに強くなれるかー
自分を見直し、そこから、再び、大事なものを見つけ、つながっていけるかー
『カフネ』は、そうした再生のプロセスを、派手な演出なしに、静かに、でも確かな強さで描いています。
NHK『100分de名著』2025年4月の特集の村上春樹の『ねじまき鳥クロニクル』も「喪失と再生」がテーマの小説です。あちらは、内容が難解で読み解きが難しいですが、『カフネ』は日常に寄り添った物語として、読者にまっすぐ語りかけてきます。
日常にある小さな幸せ・ぬくもり・癒し
美味しい食事を食べる。
誰かにごはんを作ってもらう。
キレイに整った部屋で過ごす。
その当たり前のような日常が、どれほど心を支えてくれているのか。
『カフネ』では、そんな“小さな幸せ”が丁寧に描かれています。
物語の中で描かれるごはんや家事の風景に、自分自身の生活を重ね合わせ、改めて「日常の小さなぬくもり・幸せ」のありがたさに気づかされました。
私はこの作品を読んで、一人の食事であっても、「いただきます」「ごちそうさま」と手を合わせて言うようになりました。

最後に
今回は、2025年本屋大賞 大賞に輝いた『カフネ』のあらすじ・感想をまとめました。
日常に潜む優しさ、癒し、そして人と人とのつながりの温度。
登場人物たちのリアルな心理描写を通じて、きっとあなたも「当たり前のことのありがたさ」に気づけるはずです。
是非、本書を手に取り読んでみてください。
2025年 本屋大賞 1~10位 ランキング 結果一覧
2025年の本屋大賞ノミネート作はいい本だらけ!是非、興味のある本を読んでみて下さい。
1~5位 | 6~10位 | ||
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2025年1位 カフネ 阿部暁子 講談社 Audible聴き放題 30%還元 |
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2025年6位 spring 恩田陸 筑摩書房 |
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2025年2位 アルプス席の母 早見和真 小学館 Audible聴き放題 |
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2025年7位 恋とか愛とかやさしさなら 一穂ミチ 小学館 Audible聴き放題 |
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2025年3位 小説 野﨑まど 講談社 5%還元 |
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2025年8位 生殖記 朝井リョウ 小学館 |
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2025年4位 禁忌の子 山口未桜 東京創元社 |
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2025年9位 死んだ山田と教室 金子玲介 講談社 Audible聴き放題 5%還元 |
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2025年5位 人魚が逃げた 青山美智子 PHP研究所 Audible聴き放題 |
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2025年10位 成瀬は信じた道をいく 宮島未奈 新潮社 Audible聴き放題 |