- ベストセラー『スティーブ・ジョブズ』伝記作家が赤裸々に描く、イーロン・マスクの偉人伝
- テクノロジーで世界を変えるマスク氏は、トランプ次期政権ではさらに大きな影響力を持ち、これまで以上に影響力は拡大する。世界を動かす人物として、是非とも押さえておきたい
- 本書を読むと、イーロン・マスク氏の「言動の根源」と「行動の原理」がよくわかる!それを知るだけでも価値ある本。特に面白いのは下巻。超・リスクジャンキーな男のヒリつく人生は読者をしびれさす!
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Audible聴き放題対象本
『イーロン・マスク』ってどんな本?
テクノロジーによって人類の歴史を前進させてきた偉人、イーロン・マスク氏。
地上では、電気自動車で世界の自動車業界の地図を塗り替え、宇宙では、民間開発のロケットで初めての打ち上げに成功。ウクライナ戦争でも衛星通信ネットワーク・スターリンクの実力を見せつけました。さらには、人型ロボットや人工知能の開発にも乗り出す傍ら、ツイッター社を買収し、Xのさらなる進化を図っています。
また、ドナルド・トランプ大統領再選により、政治の分野でも、今後、マスク氏の影響力が拡大。既に、規制緩和や政府支出削減を推進する役割を担う「政府効率化局(DOGE:Department of Government Efficiency)」のリーダーに任命されています。「DOGE」は自身が支持する仮想通貨のドージコインからとった名前であり、トランプ氏と共に仮想通貨市場にも大きな影響を与えています。
やはり、イーロン・マスク氏とはいかなる人物か、押さえておかなければならないー
そう思って、遅ればせながら読んだのが、『イーロン・マスク』。上巻・下巻からなる大作で、それぞれマスク氏の生い立ち・挑戦に迫っています。
- 上巻:幼少期~テスラ、スペースX両社を軌道に乗せるまで
- 下巻:テスラ、スペースXのさらなる前進、Tiwtter買収劇、
トランプ氏との関係、ウクライナ戦争で見せた活躍 他(2023年4月まで)
上巻だけでも相当に内容が濃いですが、特に面白いのは下巻です。彼のヒリつく人生は読者をしびれさせます。
著者は、世界的ベストセラー『スティーブ・ジョブズ』で知られるウォルター・アイザックソン氏。2年間の取材で見聞きしたマスク氏の素顔を赤裸々に描いています。
私は苦しみが原点なのです。だから、ちょっとやそっとでは痛いと感じなくなりました。
上記は、マスク氏の言葉。本書を読むと、幼少期、父からの執拗なDVを受け、痛み・劣れを遮断してしまったことが、良くも悪くも、果敢にビジネスでリスクを取り続ける世界一のリスクジャンキー男の原点です。
ビル・ゲイツや、スティーブ・ジョブズ氏同様、世界を変えた偉人として、名を残すこと間違いなしの偉人がわかる本。読んでおいて損のない本です。イーロン・マスク氏の「言動の根源」と「行動の原理」がよくわかります。
Audibleで最も読まれた人気作 2024年にもランクインしています。その他、上位ランクイン作品もチェックしてみて下さい。事実、読んでみた感想として、Audible向きの作品だと思います。
イーロン・マスク(上巻)
『イーロン・マスク(上)』では、マスクの幼少期からテスラ、スペースX両社を軌道に乗せるまでが描かれます。
イーロン・マスク氏がいかに育てられたか、どんな子供であったかを知ることは、イーロン・マスク氏の行動原理を知る上でもとても重要。また、南アフリカからアメリカへどのように移住を果たし、初期のスタートアップから、テスラ、スペースXを起動に描くまでが描かれます。
イーロン・マスク(上巻)のポイント
上巻のポイントとなるのは、❶【家庭環境】、そして、その結果、形成された❷【人格】、❸【独立心・起業家精神】です。
- 家庭環境
- 幼少期、南アフリカで、いじめられて育つ
- 父・エロール・マスクは毒親。マスクは暴力・暴言を受け続けて育った。罵倒された心の傷は深い
- 本の虫。特にSFが好きで「SF的な未来の実現」を夢みるように
- 人格
- 「苦しみ」が原点。「人生は痛みの連続だ」と子ども時代にたたき込まれた
- アスペルガー症で、人の感情や空気は読めない。他人への共感性を欠く
- (今現在も)気分・感情の浮き沈みが大きい
- 普通では考えられないリスクを平気でとる。自ら危険を取りに行く。ヤバイ時ほど燃える
- 逆に、平穏な生活が続くと不安が抑えられなくなり、精神不安定に
- 独立心・起業家精神
- 父の精神的虐待から逃れるために、独学で学問を深め、アメリカへ
- 幼少期に形成された、反骨精神・独立心が、後の挑戦の原動力に
- 興味のテーマは、「インターネット」「クリーン・エネルギー」「宇宙」の3つ
- インターネット黎明期の1995年に情報サービスのZip2を起業・売却
- この資金を元に、決済会社X.comを起業
- 経済的成功の第一歩は、ペイパル(決済サービス)の成功
- その後、数多くの事業に関わりながら、テスラ、スペースXを起動に乗せる
アスペルガー症と強迫性障害:共感力と神経不安に問題を抱える
マスク氏は、アスペルガー症です。
アスペルガー症の方は、言葉や表情・視線・身振りなどから人の気持ちを想像することが苦手。そのため、場の空気をよんだり、相手の気持ちに共感することができません。マスク氏のビジネス上の衝突・軋轢もこれが原因です。
さらに、強迫性障害があり、マスク氏の場合、何かに駆り立てられていないと、神経が不安定になります(穏やかな暮らしができない)。故・スティーブ・ジョブズも強迫性障害で、激情で周囲を振り回したことで知られています。
何の本で読んだか忘れましたが(養老孟子さんの『バカの壁』??)、人間の脳そのものの個体差は極わずか。脳のリソースは有限なので、ずば抜けたスキルを発揮する人は、一部の能力にリソースの多くが分配されるため、他の部分で問題を持つことが多い。マスク氏もその典型です。
マスク氏の情熱:「未来を変える」「人類を救うこと」こと
マスク氏が、幼少期から一貫してもつ情熱は「未来を変える」こと。「SF的な未来の実現」です。
彼は本気で「地球に人類が救えなくなっても人類を救う」ことを考えています。これが、電気自動車(AI搭載自動走行車の実現)、火星旅行・火星移住へのチャレンジにつながっています。
「修羅場」を求めるリスクジャンキー体質
プロの起業家は、ビジネス成功のためにリスクの最小化に努めます。ところが、マスクは大きなリスクを自ら取りに行く。自ら退路を断ち、賭けに出て前に進もうとする。 修羅場を自ら求めてしまう点は他の起業家と決定的に異なります。
ペイパルのピーター・ティール氏との対立も、このような方針の違いが大きな原因。しかし、その結果、さらに大きな「スペースX」や「テスラ」、「旧Twitter」を経営するに至っています。
イーロン・マスク(下巻)
『イーロン・マスク(下)』では、テスラ、スペースX 他で、より大きく世界を変えていく様が描かれます。
マスクの挑戦は規模も野心も驚異的です。マスクがどのようにしてこれらのプロジェクトを成功に導いたか、その裏側の努力や戦略は必見。今後のテクノロジーの未来を知る上でも役立ちます。マスクの賛否両論を呼ぶ「経営方針」「思考・行動」も必見です。
イーロン・マスク(下巻)のポイント
下巻のポイントとなるのは、❶『革新的な多角経営』と、その結果として彼につきまとう❷『成功者の「光」と「影」』です。
- 革新的な多角経営
- テスラ
- 電気自動車を時代の主流にするという野心的な目標とその革新的な実現スタイル
- 最終目標は、AI搭載 完全自動走行車。まだまだ挑戦は終わらない
- スペースX
- 宇宙事業への挑戦。「人間が火星に移住できるようにする」という壮大なミッションを持つ
- ジェフ・ベゾスのブルーオリジンの先を行く
- 衛星通信スターリンクは、ロシア・ウクライナ戦争での通信手段に。「空の情報インフラ」も手中に
- Twitter買収
- 買収劇の裏側が赤裸々に
- マスク氏にとってのX.comとは
- 合計6つの革新的技術会社の経営にコミット。それぞれ、野心的な目標で率いる
- 行動原理は「世界は俺が救う」(地球が滅びても、人類を滅ぼさない)。
- どの会社も「いかに儲けるか」からのビジネス発想はない
- ミッション現実には巨額な資金が必要。故、コストには極めてシビア
- 技術的な課題や資金ショートに何度も直面しながらも、果敢に前に進む姿は超人
- テスラ
- 成功者の「光」と「影」
- 子供のころに抱いた「ワクワクする未来」を今も追い続ける
- 仕事だけでなく、プライベートも超人的。奥さんと子供の数もスゴイ
- 経営者としても、人間的にも欠点は多い。ご本人も自覚あり
マスクの経営スタイルは「鬼」。だからこそ他を圧倒する成果
マスク氏の働き方はは、人間を超越しています。会社に寝泊まりするのは当たり前。しかも、それを社員にも求めます。ワークライフバランスなんてものは、どこにも存在しません。
- 社員のプログラムのコードにまで口をはさむ、マイクロマネジメント。「大方針」だけを伝える大企業マネジメントとは真逆
- 仕事とプライベートに境目なし。ワークライフバランスという考えが存在しない
- 社員にも、自分と同じ働き方(24時間働け)を求める
- 激情型リーダー。社員への罵倒は日常茶飯事。パワハラなど関係なし。結果、短期間で実現された成果は多い
- 「できない」は許されない。即解雇対象
- 何かを決める際の判断基準は「物理法則」
すべての「当たり前とされていること」を疑ってかかる。唯一疑わないのは、物理法則だけ
イーロン・マスク氏から学んだこと:判断基準は「物理法則」
あまりに、ぶっ飛んでいて、「マネしたい」「彼のようになりたい」というところがほとんどない…
思考も行動も、マネると、心も体も破綻して、幸せになれない…
これが私の読了後の率直な感想です。通常、スゴイ経営者の本や偉人伝を読むと、「彼のココを見習いたい」という箇所が多々あるものですが、本書にはそれがほとんどない… とにかくすごすぎるんです。
唯一、この思考・決断方法としてマネしたいと思ったのが【何かを決める際の判断基準は「物理法則」】という考え方。物理法則をベースに疑えば、物事はスリムになることが多い。ポイントを私なりにまとめます。
- 何かを決める際の判断基準は「物理法則」
- 要件はすべて疑え。そして、要件事に担当者まで決めろ(仕事への責任)
- 「当たり前とされていること」「頭もいい人の意見」ほど注意(脳死状態になるな、考えろ)
- 部品や工程はできる限り減らせ。常識・慣例にとらわれるな。カットできる
- まずは試せ。やってみろ。結果的にもとに戻すことになってもいい。「失敗」で一つ解決要件が減る
- シンプルに最適にしろ。ただし、❷~❺の後に
- 自動化せよ。ただしこれは最終段階。❷~❻を行い、バグを潰し切った後でやるべきだ
浅はかな見切り発車の最適化・自動化トライでどれだけ時間を無駄にしてきたことか… この考えは大いに役立つ!
なお、このようなマスク氏の行動原理は本書の至る所に散らばっています。人それぞれ、感じ入るところは違うと思うので、是非、ご自身で読んで学んでみて下さい。
その他:個人的に面白いと感じた点
以下、『イーロン・マスク』を読んで、面白いなと思った点もメモしておきます。
- 地上の移動手段、宇宙、脳(デジタルな意思伝達)など、「SF的な未来の実現」のための構想は壮大
真剣に「人類を救おう」と考え、日々努力する姿が凄すぎる - 「SF的な未来の実現」という観点からは、X(旧:Twitter)は異質
しかも、マスク自体は、人の感情を読むのが苦手なアスペルガー
そんな彼が、「感情の掃き溜め先」であるX(SNS)で、時に自爆しながらも、つぶくことをやめないことに、面白さを感じずにはいられない。やっぱり、人類にとっててコミュニケーションは大事ということか - 物議をよんだ「意味不明なツイートの真意」がわかる
- ビル・ゲイツ氏との「世の中を変えるビジネス」に対する考え方の違いが面白い
- GAFAMの創業者・経営者でも、本書で触れられる人と触れられない人がいる
このあたりに、マスクのビジネスの関心度が伺えて面白い - 6社の経営にコミットする時間がどこにあるのかは、本書を読んでも謎
最後に
今回は、ウォルター・アイザックソン氏の『イーロン・マスク』からの学びを紹介しました。
とにかく、ゴイ人です。超人です。そして、今後も様々なシーンで話題を振りまくことが間違いのない人です。そんな偉人の「言動の根源」と「行動の原理」を本書を通じて学べたのは大きな収穫でした。
本書にはトランプ氏との関係、これまでのやり取りなども紹介されています。が、政治的思想の観点からイーロン・マスク氏を知るなら、橘玲氏の『テクノ・リバタリアン』との合わせ読みがおすすめ!こちらの本も刺激的。テクノ・リバタリアンの頭の中が垣間見れます。未来を知るためにテクノジャンキーの頭の中も知っておきましょう。