- 地面師とは、他人の土地を売り飛ばす闇の詐欺師集団。土地の所有権を巧妙な手口で偽造し、巨額の金銭を騙し取る日本特有の犯罪グループ
- 2017年に実際に発生した巨額の不動産地面師詐欺をモデルにしたクライム小説がモデル
- 詐欺師はいかに人を騙すのかー。人・企業はいかに騙されるのかー。ストーリーにリアル感・緊張感・ヒリヒリ感。詐欺集団は巧妙に役割分担されており、現実世界でも、犯罪集団の一斉検挙が難しい状況が垣間見れる
★★★★☆
Audible聴き放題対象本
『地面師たち』ってどんな本?
地面師とは、他人の土地を売り飛ばす闇の詐欺師集団。土地の所有権を巧妙な手口で偽造し、巨額の金銭を騙し取る日本特有の犯罪グループです。
本作は、2017年に起きた「積水ハウス地面師詐欺事件」をモデルにしたクライム小説です。日本の不動産業界史上でも注目を集めた事件で、積水ハウスが東京・品川区の高額不動産を巡る取引で巨額の被害を被りました。
本作を原作とした原作にした綾野剛・豊川悦司主演のNetflixドラマ『地面師たち』も大反響。2024年夏には、日本国内では6週連続1位の記録を樹立。グローバルチャートでも上位をキープするほどの人気で。小説も続編が発刊される好調ぶりです。
本作が描くのは、市場価値100億円という前代未聞の不動産詐欺。巨額なお金が動く不動産詐欺は、昔からある手口ですが、その手口は、時代と共に巧妙さを増しています。
詐欺師はいかに人を騙すのかー
一方で、人・企業はいかに騙されるのかー
現実とフィクションが巧みに融合したストーリーは、詐欺師の側から見ても、被害者の側から見ても、緊張感が溢れています。犯罪小説やミステリーが好きな方はもちろん、「社会の闇」「アンダーグランドな社会」に興味がある方にもおすすめです。
- クライムミステリーが好きな方
- 犯罪手法や人間心理に興味を持つ方。社会問題に興味がある方
- 小説版、ドラマ版『地面師たち』をご覧になった方
地面師たち:モデルとなった「積水ハウス地面師詐欺事件」
冒頭でも示した通り、本作は、積水ハウスが巻き込まれた地面師詐欺事件がモデルです。2017年に積水ハウスが東京・品川区の高額不動産を巡る取引で約55億円もの被害を受けました。
事件の概要をまとめると次のようになります。
- 対象物件
- 東京都品川区の一等地にある約2,000平方メートルの土地(旅館跡地)
- もともと高齢の女性が所有
- 詐欺の手口
- 詐欺グループがその所有者になりすますことで不正取引を計画
- 詐欺グループは組織的に行動。それぞれが役割分担をして犯行を遂行
- 偽造の印鑑証明書や本人確認書類を用い、本物と見分けがつかないほど精巧な書類を作成
- 詐欺グループは積水ハウスに対して、巧妙に売却を持ちかけ。積水ハウス側は、偽造書類や不正な手続きを見見抜けず
- 取引と被害額
- 積水ハウスは、土地の売買契約を締結し、約63億円を支払い。後日、この契約が偽造であることが発覚
- 最終的に積水ハウスは約55億円の損害を被る
事件の真相は、森功が事件を追求した『地面師』に詳しいです。
地面師たち:あらすじ
そこに土地がある限り、奴らは必ず現れる――
本作が描くのは、市場価値100億円という前代未聞の不動産詐欺。大物地面師・ハリソン山中を中心とする詐欺師集団、被害者企業、不動産詐欺集団を追う刑事の3方面から事件が描かれていきます。
主人公は、実の父が自宅に火をつけ妻子を亡くすという絶望の淵に立たされた男・拓海。すべてを失い人生の目的を見いだせずにいた拓海は、詐欺グループに出会い、地面師として不動産詐欺に手を染めていきます。
騙す者、騙される者ー。追う者、追われる者ーの間の「緊迫したシーン」でストーリーが展開していきます。
一か八かの詐欺取引、思わぬアクシデントで詐欺がバレそうになる詐欺師の焦りや、詐欺にあったと気づいた後の被害者の狂乱ぶりなどが、リアルに描かれます。
地面師の面々
地面師グループは組織的に行動。それぞれが役割を持ち、分業制で犯行を遂行します。
- 地面師集団のリーダー
プロジェクトの首謀者。元暴力団幹部。組織在任中に習得した地上げのノウハウをもとに土地売買詐欺を行う - 交渉役
冷静にターゲットを仕留める。風貌を変えて潜入調査も行う - 図面師
土地の情報を集める情報屋。独自ネットワークを組織し、リサーチ情報をもとに次のターゲットを見つけ出す - 法律屋
不動産に関する法律の知識を豊富に持つ元司法書士。契約交渉にも出向く - 手配師
交渉の場に必要な偽物の地主をキャスティングする。候補者をスカウトし、地主の個人情報や不動産情報を叩き込ませる - ニンベン師
なりすましのための道具(本人確認書類や実印等)を偽造する
上記以外にも、周囲には、不動産の情報収集に手を貸す協力者もいます。
彼らは役割分担がはっきりしていて、事件への関与が限定的です。あえて限定的にしています。
だからこそ、警察は犯人逮捕が難しい。容疑者の事件への関与を立証が難しかったり、事件への関与自体は明らかでも、「詐欺とは知らなった」「頼まれただけだ」などシラを切られて、犯意を立証するのが難しい。故、取り調べを受けても、詐欺集団の一部しか逮捕されず、結果、さらなる詐欺被害が拡大する….そんな実態が、本作を読むと垣間見れます。
地面師たち:本作の魅力・感想
本作の魅力は、そのリアルさです。地面師たちの巧妙な手口、被害者の甘さ、事件解決に執念を燃やすも詐欺師集団を全摘発・逮捕することの難しさが、緊張感をもって描かれています。また、登場人物の背景・内面を掘り下げて描くことで、「人間の闇」を描いている点も、作品に厚みを与えています。
現実社会では、巨額の詐欺事件、収賄事件の犯人逮捕に警察が難儀する報道を多々見かけます。一方で、一方、1万円盗んで実名が報道される小さな詐欺事件が連日のように報道されます。
「1万円の詐欺が捕まって、何で、〇億円の詐欺が捕まらないんだ」と思ってしまいますが、地面師の詐欺が綿密・巧妙であるが故に、警察は関与が疑われる犯罪関係者すべてを逮捕できず(むしろ、逮捕者の方が少ない)、それ故に、次なる詐欺が繰り返され被害が拡大しているのが悲しい現実が垣間見れます。
そういう、極悪人が捕まらない社会の実態を知る上でも、読んでみる価値があるのではないでしょうか。
最後に
今回は、新庄耕さんのクライムサスペンス小説『地面師たち』のあらすじ・感想を紹介しました。
犯罪は時代と共に変化し、また、巧妙さも増していきます。犯罪の被害者にならないためには、犯罪者の手口を知っておくことも重要です。本作は、そんな手口を知るきっかけを与えてくれます。エンタテイメントとして楽しみながら、世の中のアンダーグラウンドな部分を垣間見る作品として読んでみて下さい。
以下は、続編です。