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【書評/感想】汝、星のごとく(凪良ゆう) 自分で自分の人生を選んでいるかー、生き方を問う深い恋愛小説

汝、星のごとく」要約・感想
  • 家庭環境に問題を抱える暁海の二人の若者の人生を描く切ない恋愛小説
  • 人生に翻弄される登場人物の苦悩・孤独感が圧倒的な筆力で描かれる
  • 自分で自分の人生を選んでいるかー。暁海の生き様を通して、読者の心の奥深くに「生き方」を問いかける

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目次

『汝、星のごとく』ってどんな本? ※ネタバレあらすじ

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その愛は、あまりにも切ない。

正しさに縛られ、愛に呪われ、それでもわたしたちは生きていく。
本屋大賞受賞作『流浪の月』著者の、心の奥深くに響く最高傑作。

ーーわたしは愛する男のために人生を誤りたい。

風光明媚な瀬戸内の島に育った高校生の暁海(あきみ)と、自由奔放な母の恋愛に振り回され島に転校してきた櫂(かい)
ともに心に孤独と欠落を抱えた二人は、惹かれ合い、すれ違い、そして成長していく。
生きることの自由さと不自由さを描き続けてきた著者が紡ぐ、ひとつではない愛の物語。

ーーまともな人間なんてものは幻想だ。俺たちは自らを生きるしかない。

Amazon本の紹介文

数々の賞に輝く『汝、星のごとく』は、家庭環境に問題を抱える二人の若者の人生と恋愛を描く作品です。

人生はままならない。それでも、ただ流されていけない。どう選択し、生きていくのかー

十七歳から三十二歳までの暁海と櫂の物語が、それぞれの視点で交互に描かれます。2人の溝はなぜ広がり、破局に向かったかが、繊細な心理描写で描かれます。それと同時に、本作は、「自分の人生は自分で選ぶ」ことの大切さを、暁海の生き様を通じて描き切ります。恋愛小説というジャンルを超越し、「人生」「生き方」を読者に問います。

あらすじ・相関図

物語は、瀬戸内の小さな島で育った井上暁海と、母親の恋愛に振り回されて島にやってきた青埜櫂が高校で出会うところから始まります。

お互いに家庭に問題を抱える暁海と櫂。暁海の父は不倫相手のもとへ向かい、母は精神的に不安定に。櫂の母親は男への依存が断ち切れない。閉鎖的な島で島民の目に耐えながら生活する若き二人は、痛みを知る者同士、強く惹かれ合れあう。そして、共に東京に出ることを誓う。

高校卒業後、櫂は東京で漫画家として成功。一方、暁海は母の介護のために、島に残ることを決意。櫂は仕事で多忙となり、二人の遠距離恋愛は次第に困難に…。また、櫂は成功を手にしたことで、お金・生活に関する価値観が激変。暁海は二人の間の境遇の差に、次第に劣等感をつのらせることに。櫂は開いていく二人の溝を埋めようとプロポーズ。しかし、櫂の態度に二人の溝は埋まらないと判断した暁海は、自分の自尊心と自分の生きる道を守るために別れを決意。別々の道を歩み始める。

暁海は仕事をしながら刺繍作家としての道を模索。一方、櫂は、スキャンダルに巻き込まれ作品発表の場を失う。さらに、暁海の母親が大きな借金に身動きが取れなくなり、暁海は恥をしのんで櫂に借金を依頼する。

暁海はそれを承諾。櫂は暁海の間には月々の返済というわずかなつながりができたことに、喜びを感じ、さらに強くつながることを望むが…

「汝、星のごとく」の登場人物の相関図は、かなり入り組んでいます。人間関係を整理しながら読むことをおすすめします。

〈月に一度、わたしの夫は恋人に会いに行く〉という冒頭に心つかまれる

作者・凪良ゆうさんは、繊細な感情の表現、情景描写の美しさて定評のある作家さんです。同じく本屋大賞に輝いた『流浪の月』など、人の苦悩、ダークな一面をえぐるように描く筆力でも、多くの人に支持されています。

本作でも、特に心の内面を描く筆力には圧巻。私は、〈月に一度、わたしの夫は恋人に会いに行く〉という衝撃的な冒頭文で、あっという間に、本作に惹きこまれました。

ちなみに、ここでいう〈わたし〉とは暁海のこと。〈夫〉は櫂ではありません。夫とはどのようにつながり、何があって、夫が恋人に会いに行くことを容認せざるを得なくなったのかー。

是非、この答え(伏線の回収)は、本書を読んで見つけてください。不安感漂うプロローグを裏切り、物語の最後、エピローグは、美しく優しく穏やかななか幕を閉じます。この辺の構成力にも、凪良ゆうの作家としての凄さを感じます

数々の賞で評価。その数、半端なし

筆力が半端ない。数々の賞受賞・ランクインを見れば、その評価の高さは一目瞭然です。

【2023年本屋大賞受賞】
【第168回直木賞候補作】
【第44回吉川英治文学新人賞候補作】
【2022王様のブランチBOOK大賞】
【キノベス!2023 第1位】
【第10回高校生直木賞候補作】【ダ・ヴィンチ BOOK OF THE YEAR 2022 第3位】
【今月の絶対はずさない! プラチナ本 選出(「ダ・ヴィンチ」12月号)】
【第2回 本屋が選ぶ大人の恋愛小説大賞 ノミネート】
【未来屋小説大賞 第2位】
【ミヤボン2022 大賞受賞】
【Apple Books 2022年 今年のベストブック(フィクション部門)】

『汝、星のごとく』:感想

【書評/感想】汝、星のごとく(凪良ゆう)

いかに人生の苦悩と対峙するかー それが人生を決める

前節でも述べましたが、本作は恋愛小説です。読んでいるときは、すれ違う二人に「恋愛の切なさ」に心動かされます。しかし、読了後、物語を反芻して、より読者の強く心に迫ってくるのは、「ままならない人生でも、ただ状況に翻弄されるのではなく、自分で自分の人生を選んでいるかー」という、問いです。

自分は、人生の節目、節目で、流されずに決断して生きてこられたかと、考えさせられます。

人生には様々な「つまずきポイント」があり、それに対して、どう立ち向かうかが、人の人生を決めます。

  • 子供には選択の余地がない「家庭環境」
  • 人との関わり合いの中で感じる「生きづらさ」
  • 成長と共に変化する「価値観」「金銭感覚」と、そこに生まれる人との「ギャップ」
  • 自分の真意が伝わらない・伝えられない「もどかしさ」
  • アクシデントで奪われる仕事・夢、そして、感じる「失意」「自己喪失」

人は苦しくても生きていかなければいけません。乗り越えていかなければいけません。これらと対峙することなしに、よい未来は開けません。

〈誰かに幸せにしてもらおうなんて思うから駄目になる〉

本作は、「誰かに依存する弱さ」が、自分+周囲の大切な人の人生をも壊してしまうことを、複数の登場人物を通じて繰り返し描き出します。

  • 夫に依存に依存しすぎて、精神を破綻させた暁海の母
  • 何かにすがれるものを求めて、娘のお金を宗教的なもの(置物・お守り)に費やす暁海の母
  • 幸せにしてもらうために男を求める櫂の母
  • もう心が離れてしまったのに、暁海とのつながりを求める櫂
  • 将来を憂い、自殺する櫂の友

人を愛し、頼ることは悪いことではありません。しかし、従属関係ではなく、「お互いに支え合う」関係でないとうまくはいかない。依存が強すぎると、相手に翻弄され、自分の望む生き方はできなくなってしまう。 そして、関係が破綻すれば、心・生活をも崩壊してしまう。

恋愛小説には不釣り合いな話ですが、そこで重要なファクターとなるのは、やっぱり「お金」。暁海がそうであったように、カツカツでも生活を維持できる稼ぎがあるかは、とても大事だと思えるのです。本作でも、以下のようなセリフが散見されます。

お金があるから自由でいられることもある。たとえば誰かに依存しなくていい

自分で自分を養える、それは人が生きていく上での唯一の武器

互いに支え合うことは大事です。しかし、女性も自立しなければいけない。相手に自分の人生を握らせてはいけない自らの意思に基づき決断するには、「お金を稼ぐ手段を持っているか」は極めて大事なのです。

いろいろな愛のカタチ

わたしは愛する男のために人生を誤りたい

強く、印象的なセリフです。このセリフは、ステージⅢの胃がんであると宣告され、生きる意欲を失ってしまった櫂に寄り添おうと決意した暁海が放った言葉です。

夫のある女性が、昔の恋人のところに定期的に向かうのは、世間一般的には「よく思われない愛のカタチ」です。しかし、櫂のことも知る暁海の夫はそれを許します。そういえば、夫のプロポーズは、「足りない者同士、互助会感覚で一緒にいよう」。それを地で行く自由な考えの持ち主でした。

愛のカタチはいろいろ。昨今は、GBTQの啓発も進み、様々な愛のカタチも認められつつありますが、それでも、まだまだ好奇な目で見られている感は否めません。

2020年本屋大賞に輝いた『流浪の月』も、世間一般には「認められないいびつな男女の関係」を描いた作品でした。こちらも、深い作品で、心をえぐられます。本当に、複雑な人間関係を描き切ることに長けた作家さんだと、敬服します。

最後に

今回は、凪良ゆうさんの『汝、星のごとく』のあらすじ・感想を紹介しました。

2023年本屋大賞受賞作にふさわしい、読み応えのある小説でした。いい小説は、読了後に多くを考得させてくれます。人によって、読了後の感想は様々だと思いますが、それは、様々な視点から「恋」「愛」を切り取っているからに他なりません。

あなたは、どう読むか?多くの人に読んでもらいたいです。

著:凪良 ゆう / Audible聴き放題対象本
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