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【書評/あらすじ】リラの花咲くけものみち(藤岡陽子) 元引きこもり少女が、「自分の居場所」を見つけて成長する姿を描く感動作。吉川英治文学新人賞作

【書評/要約】リラの花咲くけものみち(藤岡陽子) 元引きこもり少女が、「自分の居場所」を見つけて成長する姿を描く感動作。吉川英治文学新人賞 受賞作
リラの花咲くけものみち」あらすじ・感想
  • 継母のネグレクトで引きこもりとなった少女が、祖母に引き取られたことをきっかけに、獣医になる夢を持ち、自分の居場所を見つけていく、感動の成長青春物語。
  • 2024年 第45回吉川英治文学新人賞を受賞2025年 NHKドラマ化!(2025年2月1日~ 全3回)
  • 家族関係、引きこもり、命、死ーー 重いテーマを扱いながらも、北海道の大自然、総動物の姿が織り込まれることで、物語は、時に軽やかに、そして、力強く展開。作家の技量を感じる作品

★★★★★ Kindle Unlimited読み放題対象本 Audible聴き放題対象本

目次

『リラの花咲くけものみち』ってどんな本?

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2024年 第45回吉川英治文学新人賞を受賞!
2025年 NHKドラマ化!(2025年2月1日~ 全3回)

リラの花咲くけものみち』は、継母のネグレクトで引きこもりとなった少女が、祖母に引き取られたことをきっかけに、獣医になる夢を持ち、「自分の居場所」を見つけていく、感動の成長青春小説です。北海道を舞台に、「生きること」、周囲の大切な人たちのサポートで「生かされていること」を学び、成長していきます。

主人公は、小学校4年生で母を亡くし、継母との関係に悩み不登校になった岸本聡里(きしもと さとり)。一度は、自分の居場所を失くし、生きる希望も夢も完全になくした少女でしたが、毒親を離れ、祖母と暮らし始めたことで、獣医になりたいという夢を胸に、前に進み始めます。

そして、大学合格。人との交わりに戸惑いながらも友・仲間・先生とつながり、時に試練・挫折も経験しながら、獣医として、女性として成長を遂げていきます。聡里が試練を味わいながらも「自分の居場所」を見つけていく姿に、読者は心を揺さぶられずにはいられません。

家族関係、引きこもり、命、死ーー。本作は重いテーマを扱いながらも、ストーリーの中に北海道の美しい風景、小動物の姿が織り込まれることで、物語は、軽やかに、そして、力強く展開していきいます。

作家・藤岡陽子さんの筆致が光る、感動の一冊。命の尊さ、成長、そして、人とのつながりに、感動させられること間違いなしの作品です。

リラの花咲くけものみち:あらすじ ※ネタバレ

完全にネタバレを含みます。先に内容を知りたくない方はご注意ください。

登場人物

岸本聡里北農大学獣医学群の学生
小4で母が病死。父の再婚相手からネグレクトを受け、愛犬・パールと引きこもる
15歳で祖母・チドリに引き取られる
牛久チドリ聡里の母方の祖母
病弱だった娘(聡里の母)が他界後、聡里が辛い生活をしていることを知り、
即座に聡里を引き取り、獣医師を目指すまでに立ち直らせる
しゃんとしていて、前向き。聡里の心の支えとなる存在
久保残雪鳥類オタクの同級生。父も鳥類学者
いつも聡里を支え、支えてくれる良き友
梶田綾華聡里のルームメイト
医者一家に生まれるも医学部に落ち、獣医学部に進学

物語のはじまり

物語は、北海道の獣医学大学に合格した主人公・岸本聡里が、これからの新生活のために大学寮に入寮し、祖母・牛久チドリとお別れをするところから始まります。

聡里は15歳から、実の父と別れ、祖母と暮らしていました。聡里の母は小学4年生のときに、病気で死亡。その後、父の再婚で一緒に住むことになった継母は、聡里に冷たく、愛犬・パールも手放せと詰め寄ります。聡里は学校に行っている間にパールが捨てられてしまうかもしれないという懸念から、聡里は家から出られず不登校となってしまいました。

それから3年。聡里15歳の時、母方の祖母のチドリが、突然、聡里を訪ねます。頭はボサボサでやせ細った聡里の状況を見たチドリは、驚き、泣き、怒り、そして、その日のうちに、自分が引き取り育てることを決意し、聡里をパールと共に引き取ります。以来、チドリは、不登校で学業もままならなかった聡里を、獣医を目指すほどまで立ち直らせたのです。

突きつけられた、命の現実・獣医の厳しさ

元々、人見知りだった聡里。最初は寮のルームメート・梶田綾華との会話にも苦慮しますが、お互いの辛い過去を打ち明けるなどして、交流を深めていきます。また、先輩や動物病院の獣医などの交流を通じて、「獣医師になることの厳しさ」、「命の重さ」を学んでいきます。

ある日、聡里は先輩・静原夏菜の実家の牧場で馬の出産に立ち会います。生まれてくる仔馬の名前は何にしようかなど、仔馬の誕生を楽しみにするもつかの間、出産が始まると、胎子の前脚は母馬のお腹に引っかかり、母子共に危険な状態に陥ります。

この時、獣医師・能見先生が下した決断は、生まれ出てくる子馬をノコギリで切断し、母馬を救う「胎子切断術」。

この残酷な決断に耐えられない聡里。しかし、夏菜、及び、先輩の加瀬一馬は、能美の指示に従って、処置を手伝います。父が競走馬の安楽死に耐えられず自殺した過去がある夏菜は、「獣医師の仕事は甘くない。無理だと思うなら、やめたほうがいい」と聡里に告げます。そして、ペットなど家族同様に暮す動物を救いたいという気持ちだけでは獣医は務まらないことを認識した聡里は、祖母のいる東京に逃げ帰るのです。

はじめて知る、実母・実父の愛

東京へと逃げ帰った聡里。そこで、こっそり生家を見に行った聡里は、父と継母の間に生まれた娘・唯に出会い、嬉しそうに「お姉ちゃん」と声をかけられます。そして、父がこっそり聡里の写真をスマホに保存していることを告げられます。

また、チドリは、実母が18歳まで、聡里の塾代を援助してくれていたことを明かします。また、実母が残した手紙を手渡し、実母が心臓疾患で20歳まで生きるのは難しいと言われていたこと、そして、自分の命を危険にさらしても我が子・聡里を産みたいと願ったことを知ります。

さらに北海道からの友からは、聡里を心配する電話がかかってきます。

聡里は母・父・祖母・そして、友人に支えられていることを知り、再び、獣医の道を進むことを決意するのです。

最愛の祖母との別れ、そして——

順調に獣医の道を進む聡里。しかし、一人暮らしをする高齢のチドリのことを常に心配していました。そんなある日、左半身が麻痺していた祖母・チドリが入院したとの連絡が入ります。慌てて東京に戻るも、チドリは静かに息を引き取った後でした。

葬儀を終え、悲しみの中にある聡里に父は「一緒に暮らさないか」と提案します。しかし、聡里は、それをきっぱり断り、また、苗字を祖母と同じ「牛久」に改め、「祖母の孫として生きていく」ことを父に告げます。

重苦しい空気で父と決別する際、聡里は、大学1年の入寮時にチドリ言われた言葉を思い出します。大学の学費捻出のために家を売ったおばあちゃんに「ごめん」といった聡里に対し、祖母は次のように言葉を返したのです。

なんで謝るの?言葉使い方間違ってるよ。こういう時は、「ごめん」じゃなくて「ありがとう」って言うんだよ。それとそんな小さな声でボソボソ喋ってたら相手に伝わらない。大事なことを伝えるには、大きな声で、はっきり腹式呼吸で。わかった?

このことを思い出した聡里は、父に、腹式呼吸ではっきりと、3年間教育費を出してくれていたお礼を述べ、父と別れます。そして、自分の居場所である「北海道」に戻るのです。

北海道・千歳空港で「聡里。おかえり」と千歳空港で出迎えてくれたのは残雪でした。そして、チドリという居場所を失った聡里に「聡里のことを傍でいつも見守っている」と告げるのです。それは、まるで、チドリから残雪に居場所がバトンタッチされたような瞬間でした

そして未来へ——

折原牧場で、新たな命の誕生に立ち会った聡里。生まれた仔牛には「サト」と名付けられました。そして、聡里は馬・牛などの産業動物の獣医となることを決断します。

それから時は流れー。大学を卒業し、獣医師となった聡里は、母牛・サトが生んだ子牛を診察。すっかり「産業動物獣医としての居場所」を築き上げました。しかし、まもなく、結婚相手・残雪のいる釧路に旅立ちます。

ここが、私の居場所—— より幸せな自分の居場所を築くべく、旅立ちます。

北海道の大地の下、獣医として自らの人生を変えてきた聡里。今度は、釧路で、妻として、獣医として、残雪と共に今まで以上に「幸せな居場所」を作っていってくれるのだろう… そう思って、本書を読み終えました。

リラの花咲くけものみち:感想

チドリ
マガン(残雪)

1人では息苦しい人生も、寄り添い、サポートしてくれる人がいれば、人は人生を自ら切り開き、「自分の居場所」見つけられる。そして、自らが、別の誰か(人・動物)をサポートしてあげられる立場となれる。

そんな強いメッセージを頂ける、優しい涙が流れるいい小説でした。読了後、私自身も周囲に支えられることで「自分の居場所がある」ことに感謝したい気持ちになりました。

聡里に寄り添うチドリと残雪2人は「弱き者を支える鳥」の名という点で共通しています。そばで、応援し、支えてくれる人がいたからこそ、聡里は自分の居場所を見つけることができた。そんな著者が仕込んだストーリー構成に、「いや~、いい意味でやられた~」と顔がほころびました。

チドリ祖母「千鳥足」の由来
ヒナを守るために、親が囮(おとり)となるために、けがをしている風を装った歩き方をする
残雪友人にして、
将来の夫
名前は「大造じいさんとガン」に出てくる、群れの頭のいい頭領ガンの名前に由来
大造じいさんが、ガンの群れを捕まえよと放った囮のガンが、ハヤブサの奇襲から逃げ遅れる。その時、頭領・残雪は、囮のガンを救おうと、傷つきながらハヤブサに立ち向かう。じいさんはその姿に心打たれる

最後に

今回は藤岡陽子さんの小説『リラの花咲くけものみち』のあらすじ・感想を紹介しました。私は、NHKのドラマは見ていませんが、多分、放送時間の都合、小説全体を描き切ることは難しいと推察します。

最後の最後まで、じ~んと深い小説です。是非、小説でも読んで、感動を味わってほしいです。いい作品に出会えてよかったと、思えるはずですから。

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