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【書評/感想】線は、僕を描く(砥上裕將) 運命の出会い。涙をぬぐい、心を描けー原作小説と映画が作品の価値を高め合う!水墨画の世界に感動!

【書評/感想】線は、僕を描く(砥上裕將) 運命の出会い。涙をぬぐい、心を描けー 原作小説と映画 両方で、より「水墨画の世界」に感動する!
線は、僕を描く」あらすじ・感想
  • 運命の出会いで、人生が変わる―。涙をぬぐい、前を向き、自然・世界と心を通わせ、心を描け。心震える感動作第59回メフィスト賞を受賞
  • 「私の弟子になってみない?」心を閉ざし、喪失感の中で生きていた大学生が、水墨画の巨匠との出会い、戸惑いながらも成長していく姿を描く
  • 原作小説は「静」、映画は「動」。小説は哲学的で、映画はダイナミック。原作小説と映画を合わせて味わうのがおすすめ。この作品ほど、小説と映画が互いに作品の価値を高め合うタイトルに出会ったのははじめて!

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目次

『線は、僕を描く』ってどんな本?

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水墨画って、白黒で地味で単調で、絵画に比べて鑑賞してもつまらないー

そう思っていらっしゃる方は多いのではないでしょうか。しかし、『線は、僕を描く』の原作小説と映画を合わせてみると、水墨画に対する見方が、大きく変わります。

原作小説は「静」、映画は「動」。小説は、主人公の静かな心の変化と成長を描き出し、「哲学的」。一方、映画は小説ではどうしても表現できない、ダイナミックと繊細を兼ね備える「水墨画の世界」を見事なまでに描き出しています。

これまで原作小説と映画を合わせ観てきた作品は多いですが、この作品ほど、両者が互いに作品の価値を高め合うタイトルに出会ったのははじめてです。

原作小説の著者は、砥上裕將とがみ ひろまさ)さん。水墨画家でありながら、本作で第59回メフィスト賞を受賞しデビュー。その他、「2020年本屋大賞」弟3位、「ブランチBOOK大賞2019」受賞、「未来屋小説大賞」第3位、「キノベス!2020」第6位 など、高い評価を得ています。

一方、映画のメガホンを取ったのは、映画『ちはやふる』の小泉徳宏こいずみ のりひろ)監督。ちはやぶるの百人一首と同様、こちらも、水墨画という日本文化がテーマ。とにかく、映像が素晴らしくてカッコいい。日本伝統のすばらしさを再認識させられます。

さらに、映画の主演を演じるのは、横浜流星(よこはま りゅうせい)さんは、流星さんは、2025年 大河ドラマ「べらぼう ~蔦重栄華乃夢噺~」で、主人公・蔦屋重三郎(つたや・じゅうざぶろう)を演じる大注目俳優さん。この観点からも見ておきたい!

本記事を読んで、一人でも多くの方に、両作品を味わってもらえたら、嬉しいです。

『線は、僕を描く』あらすじ

監督:小泉徳宏, プロデュース:北島直明, 出演:横浜流星, 出演:清原果耶, 出演:細田佳央太, 出演:河合優実, 出演:矢島健一, 出演:夙川アトム, 出演:井上想良, 出演:富田靖子, 出演:江口洋介, 出演:三浦友和
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『線は、僕を描く』 さっくり あらすじ

「できることが目的じゃないよ。やってみることが目的なんだ」

両親を交通事故で失い、喪失感の中にあった大学生の青山霜介(あおやま そうすけ)。アルバイト先の展覧会場で、面白い老人と出会う。老人は、水墨画の巨匠・篠田湖山(しのだ こざん)。なぜか湖山に気に入られ、その場で内弟子にされてしまう霜介。

それに反発した湖山の孫・千瑛(ちあき)は、翌年の「湖山賞」をかけて霜介と勝負すると宣言。

水墨画とは、筆先から生みだされる「線」の芸術。描くのは「命」。

まったくの素人の霜介は、困惑しながらも水墨の道へ踏み出すことになる。そして、線を描くことで次第に、「大事なこと」に気づき、心を回復させていくー

主な登場人物

本作の登場人物は、個性的、登場人物が多くないので、とてもストーリーがつかみやすいです。

特に大事なのは、霜介湖山霜介千瑛の関係。そして、頭タオルのガテン系な風貌の湖峰のキャラがステキです。

青山霜介(あおやま そうすけ)法学部の大学生
交通事故で両親を亡くして以来、生きる事に無気力
喪失感を抱えて生きている
篠田湖山(しのだ こざん)日本を代表する水墨画家
その世界を知らない人でも知られる著名人
水墨画、そして、生きることに対し、達観した人生観を持つ
篠田千瑛(しのだ ちあき)湖山の孫娘
花卉画を得意とするも、水墨画を教えてくれない祖父に不満をもつ
西濱湖峰(にしはま こほう)風景画に定評のある湖山門下の二番手
風貌はガテン系で、一見、水墨画画家にはみえない
藤堂翠山(とうどう すいざん)湖山も一目置く、多くを語らない水墨画家

原作小説『線は、僕を描く』:感想

画像:映画『僕は線を描く』

原作小説が素晴らしいのは、心に染み入る言葉。特に、湖山が弟子の霜介を導く言葉です。哲学的でもあり、心にす~と優しく浸透してきます。

失敗と挑戦ー「とりあえずやってみる」

「でも、これが僕にできるとは思えません」

できることが目的じゃないよ。やってみることが目的なんだ

「水墨の本質はこの楽しさだよ。挑戦と失敗を繰り返して楽しさを生んでいくのが、絵を描くことだ。」

失敗と挑戦ー。湖山の「最初からはうまくできない」「挑戦せよ」とのメッセージ。言い古された言葉かもしれません。しかし、ストーリーの文脈の中で、湖山の優しい話しかけが、読者の心にもすっと心に染み入ってきます

湖山は霜介に水墨を教えながらも、一方で、心に喪失感を抱える霜介に「人生」を教え、導きます。そして、読者にも、もっと、深い何かを教えてくれるのです。

自然ー「力を抜くことこそ技術」

私が、本作の中で、最も心動かされた言葉です。

「青山君、力を抜きなさい。」静かな口調だった。

「力を入れるのは誰にだってできる。それこそ初めて筆を持った初心者だってできる。それはどういうことかというと、すごく真面目だということだ。本当は力を抜くこそ、技術なんだ。

「力を抜くことが技術?」そんなこと聞いたことがなかった。僕はわからなくなって、「真面目というのは良くないことですか?」と尋ねた。コザン先生は面白い冗談を聞いた時のように笑った。

いや、真面目というのはね、悪くないけれど、少なくとも自然じゃない。

「自然じゃない?」

「そう。自然じゃない。我々はいやしくも水墨をこれから描こうとするものだ。水墨は、墨の濃淡、潤渇、肥瘦、階調でもって森羅万象を描き出そうとする試みのことだ。その我々が自然というものを理解しようとしなくて、どうやって絵を描けるだろう? 心はまず指先に表れるんだよ。

これは、何度も硯で墨をする練習している際に、湖山先生が霜介に語った言葉です。同じように墨をすっても、そのすり方一つで、墨の粒子が変わるのか?筆で描かれる絵が全く異なることを湖山は教えます。

さらに、湖山は次のように伝えるのです。

「君はとても真面目な青年なのだろう。君は気づいてないかもしれないが、まっすぐな人間でもある。困難なことに立ち向かい、それを解決しようと努力を重ねる人間だろう。その分、自分自身の過ちにももたくさん傷つくのだろう。私はそんな気がするよ。そしていつのまにか、自分で自分一人で何を行おうとして心を深く閉ざしている。そのこわばりや硬さが所作に現れている。そうなると、そのまっすぐさは君らしくなくなる。まっすぐさや強さがそれ以外を受け付けなくなってしまう。でもね、いいかい。青山君。水墨画は孤独な絵画じゃない。水墨画は自然に心を重ねていく絵画だ。」

僕は視線を上げた。言葉の意味を理解するには湖山先生の言葉があまりに優しすぎて、何を言ったのかうまく聞き取れなかった。

「いいかい、水墨を描くということは、一人であるということと無縁の場所にいるということなんだ。水墨を描くということは、自然との関係を見つめ、学び、その中に分かちがたく結びついている自分を感じていくことだ。そのつながりが与えてくれるものを感じることだ。そのつながりと一緒になって絵を描くことだ。(略)そのためには、まず、心を自然にしないと。

力を抜いて、自然体になって、そして、人を含めた自然とつながって生きていく。

湖山先生の言葉は、水墨画の技法のことだけを言っているわけではありません。水墨画を通じて、「よりよい人生」を教えます。しかも、その言葉は、いつも、とにかくやさしい。墨が紙にすっと染みこむように、心に浸透してきます。

映画『線は、僕を描く』:感想

画像:映画『僕は線を描く』

一瞬一瞬が勝負な「水墨画の世界」

私は、美術館に行くのが結構好きですが、正直、日本画、特に白黒の線でしかない「水墨画」に面白さを感じられず苦手でした。なんだか、線だけでは迫力がなく、弱々しいと思っていたのです。

しかし、映画を見て、濃淡の見せる絵のすばらしさ、そして、絵師がひと筆、ひと筆が真剣勝負で挑む絵の世界に、完全に魅了されました。

線の絵画「水墨画」。瞬間で描かれる「線」。書き直しは許されない。やさしい線、迷いのある線は、全て、墨の濃淡となって表れてしまう。だからこそ、絵師の技量がそのまま、線に現れる。

このこと非常に印象的に教えてくれたのが、「湖山先生の巨大キャンパスに描く水墨画実演」と、同じく、「湖峰の巨大キャンパスに描く水墨画実演」のシーン。画家が魂を込めるかのように紙と対峙する姿、そして、筆に画家の魂が乗り移ったかのように、筆が動き、線が描がかれていいく様は圧巻でした。

『僕は描く』ではなく、『線は、僕を描く』

映画を見て、より本作のタイトルが、『僕は描く』ではなく、『線は、僕を描く』がよく理解できたように思います。

感情・思い・生きてきた歴史ー。筆で描いた線は、描いた人のすべて、表してしまうのですね。ホントに、筆は、心を掬い取る不思議な道具だと感じました。

才能やセンスなんて、絵を楽しんでいるかどうかに比べればどうということもない(略)絵にとっていちばんたいせつなのは生き生きと描くことだよ。そのとき、その瞬間をありのままに受け入れて楽しむこと。水墨画では少なくともそうだ。筆っていう心を掬いとる不思議な道具で描くからね。

目の前の花をできるだけ忠実に描こうとする千瑛と、楽しみながら湖峰の作品から受ける印象の違いが印象的でした。

最後に

今回は、砥上裕將さんの原作小説『線は、僕を描く』と、小泉徳宏監督の『線は、僕を描く』を二つとも味わったうえでの感想を紹介しました。

冒頭でも述べましたが、この作品ほど、原作小説と映画両者が互いに作品の価値を高め合うタイトルに出会ったのは、はじめてです。

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文字が描き出す心理描写のすばらしさと、そして、映像のすばらしさ、両者を味わうためにも、是非、2作品を同時に味わってほしいと思います。ストーリーの違いも味わってほしい。尺を短くしつつ、感動的に仕上げる技にも、感動しました!

また、原作キャラクターは人によって、風貌が違ったり、年齢が結構違ったりするのですが、そんな違いを味わうのも面白いです。

とにかく、おすすめです!『線は、僕を描く』はプライム会員なら追加料金なしで見れます!

監督:小泉徳宏, プロデュース:北島直明, 出演:横浜流星, 出演:清原果耶, 出演:細田佳央太, 出演:河合優実, 出演:矢島健一, 出演:夙川アトム, 出演:井上想良, 出演:富田靖子, 出演:江口洋介, 出演:三浦友和
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