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【書評/感想】スター(朝井リョウ) ――SNS時代の“評価と承認”をえぐる社会派小説。あまりに他人事でないリアル “現代の歪み” が、胸を刺す

【書評/感想】スター(朝井リョウ) ――SNS時代の“評価と承認”をえぐる社会派小説。あまりに他人事でないリアル "現代の歪み" が、胸をえぐる
スター」要約・感想
  • 評価が価値を決める時代の怖さを描く社会派小説
    一貫して「時代の空気」を描いてきた朝井リョウが本作で切り取るのは、評価と承認に支配された世界。私たちにとって、あまりにも他人事ではないリアルが胸に刺さる。
  • 評価はどんな仕組みで回り、どのように社会を歪めていくのか
    評価にさらされ続けることで、作り手だけでなく、受け手の価値観や感性までもが、知らぬ間に侵食されていく怖さ。『スター』はその構造を、容赦なくえぐり出す。
  • 評価と承認で回る世界の中で、自分の感性をどう守るか
    物語はやがて、「スターとは何か」から「評価とは何か」、そして「自分とは何か」へと思考を導いていく。読み終えた後も問いが残り続ける、深く鋭い一冊。

★★★★★ Kindle Unlimited読み放題対象本

目次

『スター』ってどんな本?

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朝井リョウさんは、一貫して「時代の空気」を書いてきた作家です。
桐島、部活やめるってよ』では、高校を舞台に言葉にされない“空気”が人を縛る構造を、
何者』では、就活を舞台に、承認欲求と自己演出の地獄を、
正欲』では、性の多様性を軸に社会の“普通”という概念を揺さぶりました。

なぜそれが当たり前になっているのか―
個人の物語を語りながら、その背後にある社会のルールを浮かび上がらせる。
それが朝井リョウという作家です。

『スター』で彼が描くのは、「評価」と「承認」が世界を支配する時代の構造です。
誰が注目され、誰が忘れられ、どんな表現が生き残り、どんな声が消えていくのか。
その仕組みは偶然や才能だけではなく、私たち自身の“見る目”と“消費の仕方”によって作られています。

『スター』は、スターの物語ではありません。
スターが生まれ、消費され、更新され続ける社会そのものを描いた、朝井リョウの最も現代的で、最も残酷な小説です。

小説『スター』:感想・考察

『スター』が描いているのは、「誰が評価されるべきか」ではなく、
「評価というものが、どんな仕組みで回ってしまっているか」です。

そして最終的には、
「スターとは何か」→「評価とは何か」→「自分とは何か」
という問いへと読者を導きます。

いつの間にか変化させられてしまう“感性”

”どんな世界にも、数値や技術を都合よく歪める「悪い遺伝子」が存在する”

これは、作中に登場する眼科医の言葉です。
本来、人を救うはずの医療が、利益と結びついた瞬間に別の顔を持つ現実。
この比喩は、そのまま創作の世界にも当てはまります。

再生数、フォロワー、話題性、トレンド。
それらは本来、価値を測るための指標にすぎません。
しかしいつの間にか、それ自体が目的になってしまう。

一番怖いのは、 数字・評価・注目度といった外側の指標に触れ続けた結果、
知らぬ間に自分の価値観が侵食されてしまうこと。

恐怖は「悪い人がいる」ことではありません。
知らないうちに、自分の感性・価値観が別物に置き換わっていく——
この静かな“浸食”こそが恐怖なのです。

待てない時代

“待つ。ただそれだけのことが、俺たちはどんどん下手になっている”

本作が鋭く描くのは、“待てない時代”に生きる私たちの姿です。
創作の現場だけでなく、この時代に生きる全員に突き刺さります。

すぐ結果がほしい。
すぐ評価されたい。認められたい。

だから、

  • 作り手は、いつの間にか作品の細部よりも「話題になるか」を気にするようになり、
  • 受け手は、作品を味わい「自分の感性」を磨く前に、次の刺激を探してしまう。

そして、世界には、「ファスト消費できるもの」ばかりが増えていく

そして最後に—— 自分を待てなくなる

まだ「何者」でもない自分を信じられなくなる。
だから人は、中身ではなく「見え方」で勝負し始める。

『スター』が描いているのは、才能の競争ではなく、“待てない心”の感染です。
SNSの通知に追われ、数字に心を揺らされる現代人の胸に、痛いほど突き刺さります。

変わり続ける世界で、変わらない自分をどう育てるか

他人の言葉ではなく、自分の時間で積み上げた感性を信じろ

何もかもが急速に変わっていく時代、
信じられる「自分」(価値観・感性)を持ち続けることは極めて大事です。

これは、 「変わり続ける世界の中で、変わらない自分をどう育てるか」 という問いでもあります。
この言葉は、あらゆる“選択”に迷う人間に向けられた普遍的なメッセージとして響きます。

細分化する価値観――手放しで喜ばしいことか?

誰にとってもスターなわけじゃないけど、誰かにとっての小さな星

小説後半で描かれるのは、「スター」の定義が壊れた世界です。

かつてスターとは、誰もが知っている大きな星でした。
しかし今は違います。
誰かにとってのスター。それで十分な時代です。

オンラインサロン、ファンクラブ、界隈、コミュニティ。
現代社会では、世界は無数の小さな空間に分割され、それぞれの中で、別々の星が輝きます。

そこでは、技術の高さや完成度 よりも、その人の物語が好きかといった“共感性”が価値になります。

価値観に上下はなくなり、
どんな欲求にも対応する“場”が生まれ、
無名の人が誰かにとってのスターになれる。

これは一見、優しい世界です。
しかし、同時に、
「何が本当に良いのか」を誰も決められなくなる世界
でもあります。

万人が認める「完成度の高い作品」が生まれにくくなるのでは―― そんな不安もよぎります。

それでも、越境するものがある

素晴らしいものは、自然と越境していく

この小説が絶望だけで終わらないのは、この言葉があるからです。

細分化された空間の中で生まれた作品でも、本当に強いものは、意図しない誰かの心にまで届いてしまう。

だから作り手に問われるのは、
これは「バズるかどうか」ではなく、
「どこに届いても恥ずかしくないか」という姿勢・倫理。

作品は、現代社会の複雑さを悲観するのではなく、 その中で“自分の感性を信じること”の大切さを語りかけてきます。

最後に—この作品が描くのは、現代の“価値の揺らぎ”と“自分の軸”

『スター』は、SNS時代を生きる私たちにとって避けて通れないテーマを、鋭く、そして誠実に描いた小説でした。

評価と承認で回る世界の中で、自分の感性をどう守るか——。
この小説は、その問いを登場人物の人生と痛みを通して、読者の心に直接叩きつけてきます。

世界が細分化し、誰もが小さな星になれる時代に、
それでも「越境できる表現」を模索し続けることは、大きな課題です。

多くを考えさせる作品です。心が辛く感じるシーンもあるかもしれません。しかし、読んでおくべき1冊です。

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