- 人は皆、出会ったものでできている
内気な新大学生・暖平(だんぺい)が、ひょんなことから落語研究会に入部。仲間たちとの交流や落語を通じて自己成長していく姿を描く自己啓発小説 - 喜多川泰さんの小説は、主人公の迷い・悩み・苦悩を通じて、読者に多くの気づきを与える。シンプルな言葉でありながら、深い意味を持つフレーズが、読者の心に響く。
- 読了後、これまでネガティブにとらえていた事象を、ポジティブにとらえられるようになる。ストーリーを通じて、読者の心に自然に「前向きな炎」が灯る
★★★★☆
Kindle Unlimited読み放題対象本
『おあとがよろしいようで』ってどんな本?
自己啓発小説『おあとがよろしいようで』は、内気な新大学生・暖平(だんぺい)が、ひょんなことから落語研究会に入部し、仲間たちとの交流や落語を通じて自己成長していく物語です。
喜多川泰さんは、読者の人生観や価値観に影響を与える自己啓発小説を多く執筆している作家さん。どの小説も、ストーリーに学びや気づきがあり、読者の心に自然に「前向きな炎」を灯してくれます。
✅ 人生哲学を優しく語るストーリー
仕事や人生に迷う主人公が、出会いや旅を通じて成長し、新たな価値観を得るという構成。
読者が自身の経験と照らし合わせながら、気づき・学びが得られる。
✅ 心に響くメッセージ
シンプルな言葉でありながら、深い意味を持つフレーズ(セリフ)が読者の心に響く。読後にポジティブな気持ちに。
特に、人生の進むべきレールがなくなる大学生、仕事や人生に悩む20~40代のビジネスパーソンに響く内容。
✅ ビジネス書・自己啓発書が苦手な方でも読みやすい
論理的すぎる説明は心に響きにくい。登場人物の気持ちがこもった「話言葉」だからこそ、読者の心に響く。
過去、複数の喜多川泰作品を読んできましたが、本作も期待を裏切らず、「心に響く言葉」に巡り合うことができました。
特に本作は、新しい出会い・出来事が多い「春」🌸におすすめしたい小説。自己肯定感が低い方、人と交わることが苦手な方、新しい挑戦をすることを躊躇してしまいがちな方におすすめな1冊です。
おあとがよろしいようで:本作を通じて学べること

もともと自信がなく、家庭環境に不満を抱えた主人公・暖平。新大学生となったものの、友達を作るために、無理に自分から話しかけて友達をつくりたいとは思わない性格の持ち主です。これから始まる大学生活も、自ら充実させようとする気概もありません。
しかし、ひょんなことから、ひとりの男性・碧に声をかけられます。そして、落語研究会に入部し、落研の仲間との交流を通じて、大事なことを学んでいきます。暖平は次のようなことを学んでいきます。
- 自己受容
落研の仲間たちとの交流を通じて、自分を見つめ直し、自己を受け入れることの大切さを学ぶ。 - 情熱と影響力
もともと、「好き」を持たず、情熱のない暖平。しかし、落研部長が熱心に落語に取り組む姿勢の姿に、「好きなこと」「夢中になれること」の大切さに気づく。 - 尊敬・絆
部長が落語に熱心に取り組む理由を知り、深い感銘を受けた暖平。尊敬の念を持つと同時に、絆を深める。 - 視点の転換(リフレーミング)
落研での活動を通じ、暖平は、これまでネガティブにとらえていた事象を、ポジティブにとらえられるようになる。不満に感じてきた家庭環境を新たな視点で捉え直し、過去を受け入れると同時に、誇り思う。父の仕事姿勢も、顧客視点に立ったものであったことに気づく。 - 準備の重要性
落研の先輩からは、「勉強を楽しむために予習をする」という教訓を得る。これを通じ、「人生を楽しむためにも、しっかりとした準備が必要である」と気づく
おあとがよろしいようで:心に響く言葉

喜多川泰さんの自己啓発小説には、心に響く言葉が随所に散らばっています。
本作の中から、私が記憶にとどめておきたいと感じた言葉をピックアップして紹介します。
苦手を都合よく解釈し、自分を繕っていないかー
「そこまでして友達って必要かね?」
と 拗ねた見方をすることで、自分を落ち着かせることが昔からの癖になっている。
そんな自分の性格を嫌悪し、嫌悪し続けることに疲れ、それが自分だと開き直り、「一人でいるのが好きだ」と決めることでなんとか自分を嫌いにならずにすむ場所に止まっていられる。そんな自分ともう何年も付き合ってきた。
「自分にしかできない何か」って何だ?
小中高と暖平が育ってきた過程において、 「自分らしさを大切に」 「自分にしかできない何かを」 「あなたにしかない才能を開花させて」 「個性を大切に」という言葉と何度も出会ってきた。
(略)
でも、じゃあ自分らしさや個性はどうやって磨くのか、育てるのか、誰も教えてくれなかった。
だから自分で考えるしかなかった。 「個性的」という言葉は「人とは違う」という意味で使われる。(略)
だから、人とは違うことをすることで個性が磨かれるのではないかと何となく思っていた。
だが、いざ人とは違うことをやるとなると、それはそれで難しい。
どれもこれもどこかで誰かがやってきたことばかりになってしまう。(略)
「自分にしかできない何かって何だ」 「自分らしさって何だ」
そのことばかり考えて何もできない日々は、そのうち暖平自身の心を無気力にしていった。
この気持ちがわかる方、多いのではないでしょうか。特に学生から20代、自分の学力で目指せる偏差値の高い大学に受かった後、向かうべき場所を失い、この問題にぶち当たる気がします。そして、答えが出せず、無気力化していくー 私もそんな一人だったかもしれません。
朝井リョウさんの小説『何者』で描かれる「若者の息苦しさ」を思い出します。『何者』も読んでおくべき小説です。
個性とは「どうしても違ってしまうこと」
そんな暖平の心に、碧はたった一言で、光を与えてくれた。
あの人みたいになりたいと、まるごとその人の真似をしようとしても、どうしても同じものにはならない。そうやって生まれる違いのことを「個性」という。これほどまでに、ハッキリと、しかも納得のできる言葉で「個性の磨き方」を教えてくれる人に暖平は出会ったことがなかった。
養老孟子さんのバカの壁シリーズ『自分の壁』にも、同じような指摘があったと記憶しています。養老さんは「自分探しなんて、バカなことはするな」と忠告します。その理由は、是非、『自分の壁』で。ためになるはずです。
人は皆、出会ったものでできている
「お前の脳」はお前が生まれてから今日までずっと、真っ白い頭蓋骨という部屋の中に閉じ込められている。外の世界を見たことはおろか、触れたことも一度もない。ただ真っ暗な空間に閉じ込められていて、生命維持に必要な養分だけが供給されている。
お前の脳はお前の目というたった一つの窓から見えた景色と、壁の外の音だけを頼りに、『世界とは』『自分とは』を判断して、その世界で自分が生きていくためにはどうするのがいいのかの決定を下し、ああしろ、こうしろってお前に命令を出している。(略)
俺たちは、何を見るか、何を聞くか、何を感じるか、何を経験するかによって、世界に対する認識が変わる。余計なお世話かもしれないけど、あの瞬間、俺はお前に違う世界を見せてやりたいと思ったんだよ。(略)
入学時のお前と、今のお前が違うのは、お前がお前の脳に見せた世界がそれまでと違うからだよ。
脳に見せる世界が激変すれば、世界に対する認識も激変します。
結果、その世界の中で幸せに生きるためにはどうすればいいか、脳が下す判断もまったく違うものになります。
じっとしていては世界は広がりません。
「人間が自分で生み出すものは、何ひとつない――ひとつの意見でさえも、ひとつの考えでさえも、生み出すことは、できない」。そう語っているのが米文学の巨匠 マーク・トウェインの『人間とは何か』です。
鋭い洞察で「人間の真理」を明らかにする名著。考え方・生き方を変えてくれる本です。合わせて読んでほしいです。
人との出会いが人生を豊かにする
出会って、お互いに磨き合って、成長して、別れる。
そこに新しい命の誕生があって、そこからまたそれぞれの人生が始まる。暖平は人と出会うことの素晴らしさを感じていた。
最後に
今回は、喜多川泰さんの自己啓発小説『おあとがよろしいようで』のあらすじ、学び、素敵な言葉たちを紹介しました。
ストーリーを読み終えるころには、「心に何か新しいことをはじめたい」「チャレンジしたい」「自分を変えたい」といった炎がともるはずです。是非、本書を手に取り読んでみてください。
