- 『変身』はカフカの代表作。最初の一文から読者を引き込む強烈なインパクトを与える作品
- 人生や人間の存在が本質的に無意味で不合理であるという哲学的視点を表現した「不条理文学」
- 多くのことを読者に問います。絶対に読むべき1冊
★★★★★
Audible聴き放題対象本
カフカの『変身』ってどんな本? 不条理文学最高峰作品
朝、目をさますと巨大な虫に変っている自分を発見した男―― グレーゴル・ザムザ。第一次大戦後のドイツの精神的危機を投影した世紀の傑作。
ある朝、気がかりな夢から目をさますと、自分が一匹の巨大な虫に変わっているのを発見する男グレーゴル・ザムザ。なぜ、こんな異常な事態になってしまったのか……。謎は究明されぬまま、ふだんと変わらない、ありふれた日常がすぎていく。事実のみを冷静につたえる、まるでレポートのような文体が読者に与えた衝撃は、様ざまな解釈を呼び起こした。海外文学最高傑作のひとつ。
Amazon本の解説文
『変身』は、20世紀を代表する作家といわれるカフカの代表作。戦後、フランスの実存主義者たちを中心に注目を集め、アルベール・カミュの『異邦人』などとならんで「不条理文学」と呼ばれています。
不条理文学とは、人生や人間の存在が本質的に無意味で不合理であるという哲学的視点を表現した文学ジャンルです。20世紀初頭から中頃にかけて特に発展。第二次世界大戦後の文学にも大きな影響を与え、特に戦後の社会不安や絶望感を反映した作品が多く生み出されました。
文学の主題は、以下の通り、なんとも悲観的です。
- 人生の無意味さ
- 人間の努力が無価値であるという感覚
- 社会の非合理性
- 運命の不確実性 など
私は、カフカの『変身』をはじめて読んだ時の衝撃が忘れられません。「不条理とはこういうことをいうのか・・・」と、人の心など、簡単に変わってしまう、たとえ、それが家族で会ったとしても…と、しばらく放心してしまいました。
本作は、多くのことを読者に問います。世の中は、いつの時代も不条理です。絶対に読むべき1冊です。
作家フランツ・カフカは、2024年6月3日で没後100年を迎えます。異常な事態に直面した人間を淡々と描き、人間存在の不条理を浮き彫りにする文学を味わってみてはいかがでしょうか。
カフカの『変身』:読むべき理由
フランツ・カフカの『変身』は、文学史上非常に重要な作品です。短い小説であっという間に読めますが、読者に実にさまざまなレベルで読者に深い影響を与えます。私が考える読むべき理由をいくつか挙げます。
- 文学的価値、不条理文学の最高峰
-
『変身』は20世紀文学の傑作です。多くの作家や批評家に影響を与えました。この作品を読めば、「不条理」というものが深く理解できます。
- 孤独と疎外感、アイデンティティの喪失
-
作品の中心テーマである疎外感や孤立感は、現代社会においても多くの人々に共感される普遍的なテーマです。
主人公グレゴール・ザムザが巨大な虫に変身するという異常事態で、家族との関係が徐々に悪化し、社会からも孤立していく彼の姿は、人間が持つ根源的な孤独感を象徴しています。カフカは、変身という極端な状況を通じて、人々がしばしば感じる孤独を強調しています。
また、疎外感も半端ありません。人でなくなることは、自己のアイデンティティ・存在価値の喪失に直結します。不気味な虫に変身したことで、無価値どころか、周囲が「有害」と判定します。その時の、周囲の態度の変化にはおぞましい。 罪を犯すなど、人として扱われない事態になったとき、周囲はどう反応するかを、本作は、マザマザト教えてくれます。
- 社会問題・生き方を考えるきっかけに
-
変身前のグレゴールは、彼が家族のために尽力してきました。しかし、虫に変身してしまったことで、手のひら返しの非道な報いを受けます。報いとも言えます。世の中、頑張っても、報われないことがある現実をまざまざと見せつけられます。
家族関係、社会との関係など、作品の中を通じて、社会問題や生き方を考えさせられます。
- 心理描写の凄さ
-
カフカの文体は簡潔で淡々としています。しかしながら、登場人物の心の内を語る心理描写は読者の心を強く打ちます。特にグレゴールの変身後の家族の反応・心理変化は、衝撃的です。
- ラストの悲劇が半端ない
-
物語の終わりに向かって、グレゴールの状況はますます絶望的になり、最終的に彼は死を迎えます。
ラストはあまりに悲劇的で不条理です。このラストを通じて、現代社会にも通じる「世界の冷酷さ」を垣間見させてくれ舞う。読者は、人の儚さ、人生の無常を、これでもかと言うほど味わうことになります。
- なぜ?という探求心が生まれる
-
なぜ、カフカはこれほどまで絶望的な小説を書いたのかー。その手掛かりとなるカフカの生きた時代背景や、彼自身の生涯はどのようなものであったのか、といった興味をくすぐられます。この本をきっかけに、歴史背景を探求すれば、自然と教養もついていきます。
絶望名人カフカの肖像:なぜ、これほど絶望的なのか?
ここからは、カフカの『変身』をより深く読むために、カフカについて紹介します。
生前、作家として認められなかったカフカ
カフカは、現代では世界的ベストセラー作家として知られていますが、、生前、作家として評価されることはありませんでした。評価されたのはカフカの死後です。
生前のカフカは「成功」とは無縁。幼少期のトラウマが災いして、全てにおいて、ネガティブ思考。嫌々サラリーマン生活を続け、生涯独身・虚弱体質・不眠症… 挙句の果てには、ストレスから若くして病気になりました。とにかく、ストレスまみれの人生を(自ら選択して)生きた人です。
カフカが絶望したのは「自分」
カフカはたくさんの日記・手紙・ノートを残しましたが、それらは、自分自身や自分の環境に対する「愚痴・弱音・絶望の言葉」で満ちています。
愚痴の対象は将来、仕事、容姿、病気、家族など。「世界が……」「国が……」「体制が…」といった愚痴はありません。ある意味、自分に関することしか、関心ありませんでした。
あまりにも自分に対する絶望が凄すぎて、「なにも、そこまで自分を卑下しなくとも…」と思ってしまうほどです。
カフカの絶望の元凶は「父」
カフカは、なぜ、これほどまでに、絶望的なモノの考えをするのでしょう?大きな影響を与えているのが「心身ともに逞しい父の存在」です。
カフカの父は貧しい家庭に育ちましたが、たくましい体と精神で商売を起こし、成功させた「強靭な人」です。しかし、小さい時に勉強をさせてもらえなかったため、勉強に対して強いコンプレックスも持っていました。
「成功体験」と「強いコンプレックス」が同居した人の負の側面に「攻撃的で独善的な性格」がありますが、カフカの父はそういう人でした。結果、子どものカフカに、強く自立することを求めながらも、一方で、支配するようなところがありました。
・自分に罪はなくても、罰がやってくる(理由なく怒られる)
・罰を受けたせいで、理由のわからない罪悪感に苛まれ続ける
理由もなく理不尽に怒られて育ったため、生涯自己肯定感低く、生きざるを得ませんでした。もし、あなたが親として子供に強く当たっている場合は、すぐにやめましょう。
絶望するが故、「人間の本質」を見出した
こんな絶望名人が、後世に残る名作を生み出したのは、絶望の中で、「自分を見つめ続けた」からです。そして、絶望から、時代を超えて共通する「人間の本質」を見出し、それを、何度も何度も推敲を重ねて「変身」は生み出されました。
「自分を見つめ続けること」「本質を考え続けること」の大切さを教えられます。
代表的な不条理文学
私は、面白いかどうかは別として、深く考えさせられる小説が好きです。「不条理文学」はまさに、深く考えさせられる(深く考えざるを得ない)小説ジャンルです。
カフカの不条理文学作品
カフカの不条理文学の筆頭は目覚めたら虫になっていた『変身』ですが、以下の作品も有名です。
どちらの作品も、不条理にも、全く訳の分からない事態に巻き込まれてしまう主人公の姿が描かれます。
タイトル | あらすじ・内容 |
---|---|
審判 | 30歳の誕生日の朝、主人公ヨーゼフ・Kは目を覚ますと不審な様子を感じとる。なぜか、自分が全く身に覚えのない罪で、罪状も知らされないまま裁判を受けなければならないことを知る。裁判のない日は普通に生活が可能。Kも全くの無罪となると思っていたが… 未完成の作品(ただし、読者は最初から最後まで読んでも完成した作品として楽しめる) |
城 | ある村に派遣されたKは、村には測量士の仕事がないことを知る 仕事をしようと城に近づこうとしても、村の住民がそうさせない。結果、測量士の仕事ができずに、立場が危うくなってしまう… カフカの最晩年に書かれた長編作品。カフカ没後に発表された長編三部作のうちの一作 |
2024年カフカ没後100年、新本がいろいろ発刊
2024年はカフカ没後100年ということもあり、短編を集めた文庫新刊や関連書も刊行されています。
『決定版カフカ短編集』は全集から短編を厳選して収録した本です。父親との対立を描く「判決」、特別な拷問機械についての士官の告白「流刑地にて」など15編が収められています。
『カフカ断片集』には、ノートなどに書き残された、短く未完成な小説のかけらたちがが納められています。
『あなたの迷宮のなかへ』はカフカの恋人として知られるミレナを語り手に、カフカとのとおびただしい数の手紙をやり取りを小説に下作品。別作品で手紙の一部を読んだことがあるのですが、とても、愛する女性への手紙とは思えないほどの絶望で、驚きました。
『哲学者カフカ入門講義』は、仲正昌樹・金沢大教授のカフカ講義です。カフカ作品を〈「公/私」の境界線が重要な意味を持っている〉と読み直しています。「誰もが意識せずとも、私的な顔と、表に見せる公の顔を使い分けている。ネットの発達で情報が漏れ続ける現代では、プライベートな空間を保つことは難しく、カフカは、公の顔と私的な顔を完全に分離することの限界を予言していたのではないか」と解説しています。
ちょっと、平野啓一郎さんの以下の作品を思い出しました。
【おすすめ】不条理文学 作家&作品
代表的な不条理文学の作家と作品を紹介しておきます。
作家 | 代表作 |
---|---|
フランツ・カフカ | 変身、審判、城 |
アルベール・カミュ | 異邦人、ペスト、シーシュポスの神話 |
ジャン=ポール・サルトル | 嘔吐、存在と無 |
サミュエル・ベケット | ゴドーを待ちながら、名づけえぬもの |
ミラン・クンデラ | 存在の耐えられない軽さ |
最後に
今回は、カフカの『変身』を紹介しました。
人生で絶対に読むべき小説です。衝撃を受ける作品を、是非、堪能してみてください。