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【書評/あらすじ】小説『8番出口』(川村元気)—— 無限ループする地下通路を舞台に、現代人・現代社会の暗部を描き出す。8/28コミック発売、8/29映画公開!

【書評/あらすじ】小説『8番出口』(川村元気)—— 無限ループする地下通路を舞台に、現代人・現代社会の暗部を描き出す。8/28コミック発売、8/29映画公開!
8番出口」要約・感想
  • ゲーム発の小説化、映画公開を控えた注目作
    2023年発売のインディーゲーム『8番出口』を原案に、映画監督・小説家として数々のヒットを生み出してきた川村元気が自ら小説化。
  • 無限ループする地下通路が“現代の縮図”に
    地下通路の無限ループに囚われた主人公。異変を見逃さず進むか、引き返すか。選択を繰り返すうちに焦燥・疑念・絶望が、読者をも精神的ループへと誘う。現代社会の閉塞感や人生の選択を象徴的に描き出す。
  • 小説でしか味わえない“心の迷宮”
    映画やゲームでは表現しきれない、主人公の疲弊・焦燥・猜疑心といった心理描写が小説の大きな魅力。

★★★★☆ Audible聴き放題対象本

目次

『8番出口』ってどんな本?

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2023年に話題を呼んだインディーゲーム『8番出口
実写映画化に先駆けて、映画監督・小説家である川村元気さんが自ら筆を執ったのが、小説版『8番出口』です。

物語は、無限に続く地下通路のループという悪夢に囚われた一人の男から始まります。
脱出の条件は、以下のシンプルなルールに従うこと:

  • 異変を見逃さないこと
  • 異変を見逃さないこと
  • 異変を見つけたら、すぐに引き返すこと
  • 異変が見つからなかったら、引き返さないこと
  • 8番出口から外に出ること

一見単純なルールですが、繰り返される選択とループは、主人公の精神を徐々に蝕みます。焦燥、猜疑心、怒り――その心理はじっとりと肌にまとわりつくような描写で展開され、読者もまた、地下通路に閉じ込められたような圧迫感を味わうことになります。

原作ゲームは“3D間違い探し”として人気を博しましたが、小説版では主人公の内面に深く踏み込み、より濃密な心理サスペンスとして再構築されています。

告白』『億男』『怪物』数々のヒット映画を手がけてきた川村元気さんは、映画プロデューサーとして、そして小説家として、物語の両輪を自在に操るストーリーテラーです。本作もまた、単なる商業作品にとどまらず、現代社会の空気や人間の本質を映し出すテーマ性が巧みに織り込まれています。

「8番出口」とは何か。何を象徴しているのか――。その問いを胸に、読んでいただきたい一冊です。

メディアミックスで広がる「ループ」

この作品の魅力は、ゲーム、小説、映画、コミックと多面的に展開される点にもあります。

原作ゲーム『8番出口』
発売は2023年。無限に続く地下通路での3D間違い探しゲーム。Switch、PS4/PS5、Xbox、PC(Steam) 他、様々なプラットフォームに対応しています。
間違えれば「0番出口」に戻される、出口を探す“間違い探しゲーム”ですが、 小説では、0番出口に何度も引き戻される主人公が追い詰められていく様が描かれます。

映画版『8番出口』
映画版は2025年8月29日公開。主演は二宮和也さん、小松菜奈さん。カンヌ映画祭でも上映され、すでに世界的評価を獲得しています。

コミック版『8番出口』
2025年8月28日発売!映画に先んじての発売です。

読了後に迫る問い——“出口”とは何か

小説版『8番出口』は、出口のない通路を進む主人公と共に、読者も追い詰められていくような錯覚を味わう作品です。そして、終盤に差し迫ったとき、“出口”が象徴するものが何か― が見えてきます。

※ネタバレを含むので、知りたくない方は読まないでください。

物語のスタート:地下鉄から始まる“見ないふり”

物語は、東京の地下鉄内から始まります。
車内では、赤ん坊に大声で怒鳴る男がいて、周囲の乗客はその異様な光景に目をそらす。主人公もまた、“見ないふり”をする。その直後、主人公のスマホに元カノから「妊娠」を告げられる衝撃の電話がー。しかし、通話は途中で途切れ、主人公は地下通路に迷い込んでしまうのです。

物語終盤、読者は、本作は冒頭から「見て見ぬふり」がテーマとして繰り返されていることに気づかされます。

見ないふり、責任からの逃避、その代償として現れる“出口のない通路”。
この構造は、満員電車に揺られ続ける私たち、会社を辞めたいのに辞められない私たち自身の姿と重なります。「見て見ぬふりをしてしまう」自分自身の人生が主人公と重なり、心がざわつきます。

現代人・現代社会の「暗部」を描く

本作は、物理的な出口を探す物語でありながら、実は、以下を暗に描き出します。

  • 現代人の出口のない人生
  • 「人生の選択」に重圧を感じ、現実を見て見ぬふりする弱い人の心
  • 現代社会の閉塞感・無関心さ

本作の主な登場人物は、主人公を含めて4人(主人公、元カノ、通路で出会う少年、無言でただ通路を歩き続ける男)いますが、彼らもこの物語を構成する大事な「象徴」です。是非、彼らが象徴するものが何か、考えながら読んでみてほしいです。

Audibleで味わう“体感型小説”

私はAudibleで本作を体験しましたが、イヤホン越しに繰り返される「異変を見逃すな」という言葉は、まるで自分自身に課されたルールのように響きます。また、倍速で聴くと主人公の焦りが強調され、息苦しさと没入感が一層増しました。

地下鉄や通勤路で聴けば、現実と物語の境界がさらに曖昧になり、いろいろ考えさせられるかもしれません。

満員電車から抜け出したいのに、今日も同じプラットフォームに立つ自分。会社を辞めたいと思いながらも出社する自分。そんな自分に「無限の地獄ループ」と感じているなら、「出口」を探す必要があるのかもしれません。

最後にー川村作品らしい読後感

川村元気さんの『8番出口』は、世界的ヒットを記録したインディーゲームを原案に、現代人の心理と社会の歪みを鋭く描き出す心理サスペンス

人間の普遍的な問い――「出口とは何か」「違和感(異変)にどう対処し、生き抜くか」――を、現代社会に生きる私たちの物語として見事に翻訳する力。
無機質な地下通路という脱出ゲームに、深い物語性を見出す――そんな川村元気さんならではの視点が光る一作でした。

ぜひ、そのストーリーテリングの妙を味わってみてください。
そして、「あなたの人生の出口とは何か」「どんな異変に気づき、どう向き合うか」についても、静かに考えてみてほしい作品です。

私自身も、現代社会を生き抜くために、「異変」「違和感」ーー 心のざわつきを大切に生きようと思いました。

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