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GEN 『源氏物語』秘録(井沢元彦) 十七帖しかない源氏物語現る。”光源氏の違った人生”が見えてくる、歴史ミステリー小説

GEN 『源氏物語』秘録(井沢元彦) 十七帖しかない源氏物語は原型か?違った"光源氏の人生"が見えてくる、歴史ミステリー小説
GEN 『源氏物語』秘録あらすじ感想
  • 国文学者・折口信夫のもとに、貴宮多鶴子から一通の手紙が届くことからストーリーが始まる、『源氏物語』にまつわる歴史ミステリー小説
  • 貴宮家に伝わる『源氏物語』は十七帖しかないという。これは、『源氏物語』の原型といわれる『原・源氏物語』なのか?もし、紫式部は『原・源氏物語』で、光源氏のどんな人生を描いたのかー
  • 『源氏物語』の平安時代だけでなく、「南北朝時代」、「大東亜戦争から太平洋戦争開戦までの戦前昭和」の3つの時代をクロスさせて歴史を描く意欲作。歴史への知的好奇心が揺さぶられる

★★★★☆ Kindle Unlimited読み放題対象本

目次

『GEN 『源氏物語』秘録』ってどんな本?

Kindle Unlimited対象本

大河ドラマ『光る君へ』で脚光が集まる『源氏物語』。実は、『源氏物語』には、現在も解き明かされていない謎が複数あります。

そんな『源氏物語』の謎に迫る意欲作が、井沢元彦さんの小説GEN 『源氏物語』秘録』です。

物語は、国文学者・折口信夫のもとに、貴宮多鶴子から一通の手紙が届くことで始まります。その謎を解くために奔走するのは、折口信夫を師とする学生・角川源義。実はこの人物にも、大きな謎が隠されており、それは最後の最後にわかります(とは言っても、『源氏物語』の謎とは関係はないのですが…)

本作は、様々な歴史を1冊に盛り込んだ意欲的な歴史小説で、国学者の折口信夫、民俗学者・柳田國男も登場。さらに、平安時代の後の時代である「南朝時代の覇権争い」や、「大東亜戦争から太平洋戦争開戦に至る日本」のなど、様々な時代の歴史が登場します。

内容が盛りだくさんであるが故、『源氏物語』の謎に関するお話の影が薄くなってしまっている点、および、読了後にモヤッと感があるのは残念(未だ解き明かされない歴史ミステリーなのだから、モヤッと感が残るのは致し方ない)ですが、一方で、壮大な歴史ミステリーに知的好奇心が揺さぶられます。

歴史って面白いなぁ… そう思わせてくれる1冊です。

こんな方におすすめ
  • 歴史ミステリーが好きな方
  • 『源氏物語』に興味のある方
  • 平安時代、南北朝時代、太平洋戦争開戦に至る戦前昭和の時代の歴史に興味のある方

本小説を読むに当たって、『源氏物語』の詳細を知っている必要はありません。ただし、源氏物語のあらすじは押さえておくのがベターです。あらすじは以下にて紹介しています。

GEN 『源氏物語』秘録:あらすじ

GEN 『源氏物語』秘録:あらすじ

源氏物語』は世界最古の物語文学。三部構成五十四帖、約4000ページからなる大長編小説です。この長編には、現在も解き明かされていない謎が複数存在します。

物語は、国文学者・折口信夫のもとに、歴史ある貴宮家の女当主・貴宮多鶴子から一通の手紙が届くことで始まります。その手紙には興味深い内容が。「貴宮家に代々伝わる『源氏物語』は十七帖しかない」と言うのです。

折口を師とする学生・角川源義は友と一緒に、貴宮家に向かうのですが、「やはり、当家の源氏物語は見せられない」と拒絶されます。さらに、その後、同行したと友と女当主が心中死、さらには別の殺人事件が発生するなど不可解な事件が立て続けに発生。源義はその死に疑問をもち、彼らの行動を、『源氏物語』の謎と共に追い始めるのです。

GEN 『源氏物語』秘録:『源氏物語』の謎とは

紫式部日記:道長の策略

ここからは、『GEN 『源氏物語』秘録』で描かれる、歴史ミステリーに迫っていきます。※一部ネタバレ含む

源氏物語:多作者論

現代でも明らかになっていない『源氏物語』の謎の一つは「一帖から順に描かれたわけではない疑惑」です。

  • 書かれるべき内容が書かれていない
  • 登場人物が別々の帖で初登場のように描かれている
  • 登場人物が突然何の伏線もなく出てくるのに次の巻ではまったく出現しない

といった具合で、つじつまが合わない部分が存在することが疑惑の発端です。

本作が望むのはこの謎です。『源氏物語』の原型かもしれない、貴宮家の十七帖の『源氏物語』」を軸に、以下の論が展開されます。

  • 『源氏物語』は、最初は五十四帖ではない
  • 光源氏の死後を描いた第三部「宇治十帖」を別にした四十四帖(一部・二部)も当初から成立したのではない
  • ある原型に、後世の人間が作ったものが挿入されていった

つまり、『源氏物語』は、紫式部が一人で一帖から順に創作したものではなく、後期で挿入された『源氏物語:多作者論』が展開されるのです。

これは『源氏物語』の原型?十七帖の『原・源氏物語』

貴宮家に受け継がれてきた十七帖の『源氏物語』は以下のようなものでした。()内の数字は五十四帖版の「巻数」とその簡単な内容です。

  • 桐壺  (1)光源氏の出生の事情
  • 若紫  (5)将来の妻となる紫の上に初めて会う
  • 紅葉賀(7)藤壺が光源氏との不倫の子を産む
  • 花 宴  (8) 朧月夜 内侍 と出会う
  • 葵   (9) 六条御息所 の生霊に取り 憑かれ、正妻の 葵 の上が死ぬ  紫の上と結婚する
  • 賢木  (10)藤壺が光源氏との縁を断つため出家する
  • 花散里(11)亡き父・桐壺帝を偲ぶ
  • 須磨  (12)光源氏、失脚をおそれ、自ら須磨に退去する
  • 明石  (13)光源氏、明石の君と結ばれる。都に召還され、政界に返り咲く
  • 澪標  (14)光源氏と藤壺の間の不義の子である東宮が即位して、冷泉帝となる
  • 絵合  (17)六条御息所の遺児、光源氏の後押しで冷泉帝に嫁ぐ
  • 松風 (18)明石の君、京に住むことになる
  • 薄雲 (19)冷泉帝、自分が光源氏の息子であることを知る
  • 朝顔 (20)光源氏、朝顔の姫君に懸想するが、ことならず
  • 少女  (21)光源氏の長男・夕霧、内大臣の娘 雲居 雁 と恋仲になる
  • 梅枝  (32)光源氏の娘、明石の姫君の東宮への入内が間近になる
  • 藤裏葉(33)内大臣、夕霧と雲居雁の結婚を許す。明石の姫君が入内し、光源氏異例の准太上天皇(上皇) に

この流れて見えてくるのは…わかりますか?五十四帖十七帖の『源氏物語』では、光源氏の人生が大きく異なります。五十四帖版は、以下にあらすじをまとめてあるので、見比べてみてください。

そして、是非、十七帖の『源氏物語』が意味するところは、本作を読んで確認してみてください。全く異なる『源氏物語』が見えてきます。

貴宮家:後醍醐天皇の 末裔!?

本作には、複数の時代の歴史が織り込まれていると先に説明しましたが、その一つが、南北朝時代。後醍醐天皇の時代のお話です。ここについては、歴史ある貴宮家が絡んでいます。そして、ここに殺人事件が絡んできます。

この内容については割愛しますが、ミステリー小説のオモシロさと、歴史ミステリーの面白さが味わえます。

折口信夫の生きた時代時代:太平洋戦争開戦に突っ込む日本の歴史

もう一つ、本作に盛り込まれている歴史が、「大東亜戦争から太平洋戦争開戦に至る日本」です。ここには、ミステリーを探る登場人物として、折口信夫などを登場人物に設定しています。

この通り、平安時代、南北朝時代、昭和の3つの時代がストーリーの中で絡み合います。どれも壮大なテーマを扱うため、ちょっと、話が散漫になりがちなところがあります。謎の真相を深く知りたい人には消化不足感があるかもしれません。

私も、歴史に明るいわけではないので、なぜ、この3つの時代を1冊で描いたか、井沢さんの思いが読み解けてはいません。が、確かに、舞台設定上で国学者・民俗学者も登場して歴史ある旧家の古文書(源氏物語)の謎を迫るというストーリーで3つの時代は結びついています。

いずれにせよ、個人的には、歴史に興味を持つという点では、大いに、知的好奇心を揺さぶってくれました。

【参考】源氏物語の謎を解く歴史ミステリー:千年の黙

別の視点から『源氏物語』の謎に迫る面白い小説もあります。

それが、森谷明子さんの『千年の黙 異本源氏物語』。デビュー作にして、第13回鮎川哲也賞を受賞した作品です。

こちらの作品は全3編ですが、2つの編で、源氏物語の謎に迫ります。

  • 2編「かかやく日の宮」
    明確に描かれていない「光源氏と藤壺の禁断の関係」を描いた「幻の一帖」があったのではないかー の謎に迫る
  • 3編「雲隠」
    タイトルだけで本文がない「雲隠」という帖の謎を追う

どちらの編も面白い!特に、3編「雲隠」は、紫式部の心を代弁したようなお話で、益々、源氏物語や紫式部が好きになります。

最後に

今回は、『GEN 『源氏物語』秘録』のあらすじと、『源氏物語』の謎について、その一部を紹介しました。

繰り返しになりますが、歴史ミステリーの面白さを味わえる一冊です。是非、是非、本書を手に取り読んでみてください。

『源氏物語』を読んでみたい方は、以下の記事もご参考に。現代語訳、マンガなど、おすすめ本を紹介しています。

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