- 「月」で日常が一変する恐怖を描く、3つの作品集。美しくも残酷。悲しく切ない
- 本屋大賞ノミネート、吉川英治文学新人賞&日本SF大賞 をW受賞するなど、完成度の高い作品
- リアルとアンリアルが絶妙に重なり合い、自分がダークな月の世界に迷い込んだ錯覚に陥いる。読了後は、月を見る目が変わる!
★★★★★
Audible聴き放題対象本
『残月記』ってどんな本?
ダークファンタジー×愛×ディストピア
小田雅久仁さんの小説『残月記』は「月」をモチーフにした、3つの小説を収めた作品集。
本屋大賞ノミネート、吉川英治文学新人賞&日本SF大賞 をW受賞するなど、完成度の高い作品です。
3つの物語は全て空想の異世界。しかし、リアルとアンリアルが絶妙に重なり合い、自分がダークな月の世界に迷い込んだ錯覚に陥ります。シリアスで恐怖や絶望など暗いテーマを扱いながらも、美しい月が神秘的な世界を描き出す。死現実の社会問題や、人はいかに生きるべきかといった哲学的な要素もあり、読者を考えさせます。
3作品とも、美しくも残酷。そして、悲しく切ない。
小田雅久仁さんの無駄のないしなやかな作風が、ディストピアなダークファンタジーの世界をより際立たせています。私はこの世界観、とても好きです。
今後、月を見る目が変わる1冊です。
- 幻想的な月の世界観に誘われたい方
- 悲しく、切ない小説が好きな方
- ダークファンタジー、ディストピア小説が好きな方
『残月記』あらすじ
そして月がふりかえる:あらすじ
不遇の時代を経て、家族4人で暮す人並みの幸福を手に入れた大学教授の大槻高志。ある日、家族4人で出かけたファミレス。トイレの窓から見えた満月に違和感を感じなからもテーブルに戻ると、レストランにいる人全員が月を見たまま、時間がストップ。
そして、高志は、月が裏返る瞬間を目撃する。間もなく、人々は動き出すも、そこは別世界。元の家族とは他人となった、同姓同名の別人の世界だったー。
自分の存在を証明しようと家に忍び込み、妻に訴えるが…
月景石:あらすじ
澄香が9歳の時に他界した伯母の趣味は石集め。その石の一つ「月景石」について、伯母は、枕の下に月景石をおいて眠ると月に行けるが、悪夢を見るから絶対にしてはいけないと言っていたことを思い出す。そんな「月景石」を手に入れ、手に入れ眠りについた澄香。
夢か現実か一。一体どちらが本当の世界なのか、遺品の石が主人公を月の世界に誘う物語。
残月記:
月昂(げっこう)という不治の感染症が爆発的に広がる、近未来の日本が舞台。月昂症を患ったものは満月になると体能力がアップして暴力的に。逆に、新月には活動が弱まり、死に至ることもあるという恐ろしい病気だ。
自然災害をきっかけに一党独裁国家となっていた日本政府は、満月の夜は犯罪が増加することを問題視し、感染症患者を療養所に送ることを決定する。療養所とは名ばかり。実質的には収容所であり、そこで生涯を遂げることを強制する政策であった。
主人公・冬芽も、月昂症患者として捕らえられるが、そこで、剣道の腕を買われ「剣闘士」にならないかと提案される。政府は秘密裏に、満月に狂暴になった月昂者同士を片方が死ぬまで戦わせるトーナメントイベントを開催。試合で勝った月昂者には高価な薬を提供し、延命を約束。勝利の度に性的サービスを行う女性と過ごす権利を与え、三十戦勝利すれば引退できるという。
冬芽はこの提案を受け入れ、異常な盛り上がりを見せる試合で勝利を重ねる。そして、同じ月昂者の女性・ルカを好きになり、引退後にルカと療養所で過ごすことを願うようになる。
しかし、そんな時、時の権力者より、ある提案を受けることにー。男は残された命をどう生きるのかー 美しも残酷な純愛。
『残月記』感想
どの作品も、美しくも残酷です。そして、多くを考えさせます。
3作品の共通点:人生が裏返る
どの作品も、月をきっかけに、人生が不幸に裏返ってしまう物語が描かれます。1作品目は「同名の別世界」。2作品目は「夢と現実」、3作品目は「難病✕国家権力」で人生が裏返ります。
私たちは新型コロナで世界が激変してしまうことを知りました。日本の場合は、次いつ大型地震が襲ってくるかもしれません。また、明日、事故死してしまう可能性だってあります。
幸福だと思っていた人生も、なんともあっけなく、不幸に裏返る。それは、現実だってありうる。本書を読みながら、このことを改めて実感した次第です。
3作品の共通点:エンディングに含み
3作品とも、最後、含みを持たせたまま、ストーリーが終わります。しかも、ハッピーエンドとは言えない。
彼はこの後、どうなるのだろう?この世界はどうなっていくのだろう?と、読者に最終的な解釈が委ねられる。このことが、ダークファンタジー×愛×ディストピア の世界をより深めていると感じます。
難病✕暴力✕国家の陰謀✕純愛。残酷だが美しい
私がもっとも心奪われたのは、本のタイトルにもなっている『残月記』。
描かれる世界は、感染症✕独裁国家日本 で相当にダークです。トーナメントイベントで繰り広げられる死闘は目をそむけたくなる暴力が繰り広げられるし、そこには、政府の陰謀、さらには政府独裁者の政権争いなども絡んできます。
しかし、その一方で、ストーリーの根底にあるのは、不治の病を患った男女の純愛。このギャップが、なんとも残酷で、切なくて美しいのです。
物語は、終盤に向けて、全く想像だにしなかった展開を見せます。そこでは、月昂者のもう一つの優れた能力「創造性」がキーとなり物語が進行。独裁政権に人生を奪われても、それでも、愛する女性・ルカを思い抗う冬芽の姿が描かれます。
これにより、物語は、ますます、純愛度を高めていきます。そして、最後に冬芽は「一つの世界」を作り上げる。
その世界はどんなものか、是非、本書を手に取って読んでみてほしい。
最後に
今回は、小田雅久仁さんのダークファンタジー・ディストピア小説『残月記』のあらすじ、感想を紹介しました。
どの作品も、本当にダークながら美しく切ない。物語のオープニングとエンディングで、読者は別の世界に連れていかれるはずです。いい小説に巡り合えたことに感謝!
さらに、文章が無駄なくしなやか。他の作品も読んでみたくなりました。