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【書評/感想】水車小屋のネネ(津村記久子) 小さな親切が人を作る。姉妹の40年を描く、やさしい気持ちになれる賞受賞作

書評/感想】水車小屋のネネ(津村記久子) 小さな親切が人を作る。姉妹の40年を描く、やさしい気持ちになれる賞受賞作
水車小屋のネネあらすじ感想
  • 毒親の元を離れ生きていくことを決めた、18歳の姉と8歳の妹の二人姉妹の40年間を描く長編小説。様々な賞を受賞・ノミネート
  • 水車小屋のしゃべるヨウム・ネネを中心に、姉妹が地元の人々との絆を深めながら歩む40年間はとても温かい。「小さな親切・助け合い」が人を作る
  • 親に恵まれずとも、人とのつながりで人生は温かいモノにできる!やさしいメッセージが詰まった作品

★★★★☆ Audible聴き放題対象本



目次

『水車小屋のネネ』ってどんな本?

著:津村 記久子 / Audible聴き放題対象本

Audible聴き放題対象本

水車小屋のネネ』は、津村記久子さんの長編小説。数々の賞を受賞したハートフル小説です。

  • 2024年「本屋大賞」第2位
  • 「第59回「谷崎潤一郎賞」受賞
  • 「本の雑誌」が選ぶ2023年上半期ベスト 第1位
  • 「キノベス!2024」第3位

物語の主人公は、身勝手な母親と決別し、知らない土地で強く生きていくことを決めた二人の姉妹。18歳の理佐と8歳ののです。理沙が働き始めたのは、古い水車小屋のあるお蕎麦屋さん。そこで出会ったのが、蕎麦の実を挽く石臼の番をする愛らしいしゃべるヨウムのネネ

物語は、姉妹が地元の人々との絆を深めながら歩む40年間を描きます。

愛らしいネネ、そして、地元の人たちとの触れ合いに、こころがほっこり、やさしい気持ちになります。

特に、ご自宅でしゃべる鳥を買っている方はこの小説はドストライク!私も過去に、しゃべるセキセインコを飼い、とてもかわいがっていたので、ネネが愛くるしくて最後まで一気読みしました!

こんな方におすすめ
  • 小鳥をペットにしている方(特に、しゃべるヨウム・オウム・セキセインコなど)
  • 心温まる小説、人とのつながりを描く小説が好きな方
  • 賞を受賞した作品を読みたい方

『水車小屋のネネ』:あらすじ

『水車小屋のネネ』:あらすじ

水車小屋のネネ』に、大きな事件は起こりません。おしゃべりネネとお蕎麦屋さんを通じてつながる、小さな町での人々とのつながりが淡々と描かれます。

毒親を離れた、生活を始めた二人の姉妹

物語のスタートは1981年。姉妹は母親に恵まれませんでした。母親は姉の理沙の短大進学の入学金を使い込み。理沙は進学をあきらめざるをえなくなります。そんなある日、母親の婚約者が妹の律を家から閉め出し、律はその間、公園でぽつんと本を読んで過ごしていることを知ります。この身勝手な母に耐え兼ね、理沙は律を連れて自宅を飛び出します。

家を飛び出した二人には、お金も住む場所もありません。2人で生きていくために、住み込みの仕事をくれたのが水車小屋のあるお蕎麦屋さんのご夫婦。ご夫婦は、お蕎麦屋さんでの仕事とは別に、石臼の番をするヨウムのネネのお世話も任せます。

おしゃべりヨウムのネネ

ヨウムは、鳥類の中でもトップクラスの知能を持つ大型のインコです。大きさは30~35cmぐらい。寿命も長く40~60年と長寿です。3歳児ぐらいの知能を持ち、おしゃべりをします。

水車小屋のネネは、石臼の上の蕎麦の実が減ると「からっぽ!」といって、教えてくれます。そして、ラジオを聴き、お気に入りの曲が流れてくると喜び、クイズやおしゃべりで水車小屋の訪問者を楽しませます。これがとにかくかわいい!純粋で好奇心旺盛な律とのやり取りも相まって、もう、それは愛らしくて、心がほっこりします。

ネネがつなげる、人々のやさしい関係

ネネは、「人間関係の架け橋」的存在。ネネのいる場所はいつも優しさで溢れます。ネネの愛くるしさで、人は自然とやさしさで包まれるのです。そして、ネネをを通じたつながりで、姉妹も週の人から小さな親切を頂いて、成長していくのです。

『水車小屋のネネ』:感想

『水車小屋のネネ』:感想

本作では、姉妹の40年が10年一区切りで描かれます。正直、特別なことは何も起こらない姉妹の日常・人生です。それが、500ページにもわたって淡々と描かれます。しかし、その淡々とした話が読者を優しさで包み込みます。

人生は人とのつながりでいかようにも温かいモノになる!

物語は最初は毒親との関係から始まります。しかし、本作のテーマは毒親から離れ強く生きた姉妹がテーマではありません。親に恵まれずとも、「人とのつながり」で人生はいかようにも温かいモノになることが描かれます。

水車小屋を取り巻くコミュニティの人たちは、姉妹が家を飛び出した事情にずかずか入り込むことなく、ほどよい距離感で、自然に湧き上がる優しさで、姉妹を優しく支えます。

そういえば、窪 美澄さんの直木賞受賞作小説『夜に星を放つ』でもそんな人間関係が描かれていました。

つらいときに支えとなるのは、必ずしも、家族など一番身近な人ではなく、以外と、周囲でそっと寄り添ってくれる人たちー

親友・友だちのように距離が近くなくないからこそ、相手同士、利害関係も考えることなく寄り添える。そんな経験をしたことはないでしょうか。

「ささいな親切」が連鎖する社会に感謝!

誰かを親切にしなきゃ、人生は長く退屈なものですよ。

上記は、本作で登場する律の担任の言葉です。心に染み込む言葉ですね。

私たちは、「ささいな親切」を受け取りながら生きています。そもそも、現代社会では一人で生きていくことはできません。一人で自給自足しようと思ったら、水にも食料にもありつけません。名前も知らない「誰かのおかげ」で生活が成り立っています。

周囲の優しさに守られ育った律は、大人になり「私はもらった良心でできている」と思うようになり、他者を助ける人生を生きます。自分を支えた「ささいな親切」を人にも還元するようになるのです。また、知人で東北大震災の復興援助に向かった研司も、次のように考えます。

自分が元から持っているものは多分何もなくて、そうやって出会った人分けてくれたいい部分で自分は多分生きているって

こちらも素敵な言葉ですね。私もこれまで、いろんな人に多くの親切を頂き生きてきました。日々の小さな親切や幸せに感謝して生きねば!そう思って、本作を読み終えました。

最後に

今回は、津村記久子さんの小説『水車小屋のネネ』を紹介しました。

とてもやさしいハートフルな小説です。私はとてもやさしい気持ちの中、本書を読了しました。

ハラハラ・ドキドキする小説が好きな人にはつまらなく感じてしまうかもしれません。しかし、そう思ったら、今の自分は、少し優しさが足りなくなっているんじゃないかと自分を振り返ってみてはいかがでしょうか。毎日忙しく、いらだつことばかりだと、ハートフル小説の良さに気づけないことがありますから。

著:津村 記久子 / Audible聴き放題対象本
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