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【書評/感想】火のないところに煙は(芦沢央) この怪奇現象は架空か実話か?モキュメンタリーで虚実を惑わす連作ホラーミステリー

【書評/感想】火のないところに煙は(芦沢央) この怪奇現象は架空か実話か?モキュメンタリーで虚実を惑わす連作ホラーミステリー
火のないところに煙は」要約・感想
  • この怪奇現象は、架空なのか?それとも本当に起こったことなのか?モキュメンタリーで読者を「虚実の境界を曖昧な世界」へ導く連作ホラーミステリー
  • 恐怖と謎が絡み合う。その先にある真実とは?読み終えたとき、怪異はもはや、他人事ではなくなる
  • 文学書受賞こそ逃すも、様々な賞にノミネートされた実績。ページをめくる手が止まらなくなる面白さを体感せよ!

★★★★★

目次

『火のないところに煙は』ってどんな本?

この怪奇現象は、架空なのか?それとも本当に起こったことなのか?

芦沢央あしざわ ようさんの小説『火のないところに煙はは、作家の〈私〉の元に持ち込まれた5つの怪奇現象が、最終章で〈私〉の解釈によりつながる連作ホラーミステリー小説

本作は、架空の出来事や人物をドキュメンタリースタイルで描く「モキュメンタリー」。ドキュメンタリーのようなリアリスティックな手法でフィクションを描くことで、視聴者は、最初の数ページで「これは本当に起こったことかもしれない」と、独特の緊張感に包まれます。また、このリアリティとフィクションの曖昧さが、作品に深みを与えており、読者はあっという間に作者の作り出した世界に惹きこまれていきます。

文学書受賞こそ逃していますが、様々な賞にノミネートされた実績のあるミステリーホラー作品です。

高い構成力で作り出される「虚実の境界を曖昧な世界」。ページをめくる手が止まらなくなる面白さを、是非、味わってみてください。

こんな方におすすめ
  • 怖いけど、先が知りたい、ホラーミステリーが好きな方
  • 斬新なストーリーテリングの世界に惹きこまれてみたい方
  • 独立した話が最後につながっていく連作小説が好きな方

火のないところに煙は:あらすじ・ネタバレ

『火のないところに煙は』:あらすじ

この恐怖、一生モノ。
2019年本屋大賞ノミネート!
静岡書店大賞受賞!
山本周五郎賞ノミネート!
週刊文春ミステリーベスト10国内部門第5位!
このミステリーがすごい!国内編第10位!
ミステリが読みたい!国内篇第7位!
ミステリ×実話怪談の奇跡的融合で絶賛を浴びた注目作がついに文庫化。

「神楽坂を舞台に怪談を書きませんか」突然の依頼に、作家の〈私〉は驚愕する。忘れたいと封印し続けていた痛ましい喪失は、まさにその土地で起こったのだ。私は迷いながらも、真実を知るために過去の体験を執筆するが……。

謎と恐怖が絡み合い、驚愕の結末を更新しながら、直視できない真相へと疾走する。読み終えたとき、怪異はもはや、他人事ではない――。
Amazon 本紹介

小説は5つの怪奇現象+最終話で構成

小説は、〈私〉の元に持ち込まれた5つの怪奇現象と、最終話で構成されています。

第一話 染み 《小説新潮》二〇一六年八月号
第二話 お祓いを頼む女 《小説新潮》二〇一七年二月号
第三話 妄言 《小説新潮》二〇一七年八月号
第四話 助けてって言ったのに 《小説新潮》二〇一八年一月号
第五話 誰かの怪異 《小説新潮》二〇一八年二月号
最終話 禁忌 

あれ?これは実話??

各話のタイトルの後に、「《小説新潮》二〇●●年▲月号」とあることで、読者は、それぞれの話(怪奇現象)が、実話かと混乱させられます。

ちなみに、《小説新潮》は夏になると毎年「怪談特集」を組みます。「小説新潮 2024年 08 月号 」の特集も「新しい恐怖のつくりかた」です。

ホラーにミステリーをプラス

ストーリーの中核は「怪奇現象」です。超常現象、心霊現象などとも言われますが、現代の科学でも論理的に説明ができず、解決策もわかりません。

故、怪奇現象に見舞われた多くの人は、怪奇な現象を、
・自分の過去の過ちに対する「呪い」
・成仏できない霊の「祟り」
と考え、霊感のある人、あるいは、祈祷師にすがり、「お祓い」で霊魂を鎮めようとします。

NHK大河ドラマ『光る君へ』の舞台である平安時代では、藤原道長をはじめ、政治の中心にいる高貴で学もある人たちが、「怨霊」を恐れて、安倍晴明など陰陽師を頼ります。また、ある人は、恨みのある人物を蹴落とすために「祷署」に明け暮れています。

本作は現代のお話ですが、各話で、「お祓い」にすがろうとする人たちが登場。ここに、〈私〉の知人・オカルトライターの榊 桔平が登場し、怪奇現象を論理的な視点で解き明かしていきます。この「ホラー」✕「謎解きミステリー」で、ストーリーが益々面白くなっています。

なお、怪奇現象⇒謎解きという単純なストーリーで話は進みません。謎を解いた後に、それを超える怪奇現象が起こったり…。ストーリーが複雑化し、読者も「これってどういうこと?」と一緒に考えさせられます。

「怪奇現象」に翻弄される人々がつながる連作

1話目は「恋愛のもつれ」が不幸な別れとなり、それが、怪奇現象、悲惨な事件とつながっていきます。現実にありそうな話であるが故に恐怖が凄い。

各話、怪奇現象の発端が「人の善意」「人を大切に思う気持ち」から始まっていたりするので、一話ごとに、やるせなさが残ります。

家族が祟られているので何とかしてほしいという執拗にお祓いをせがむ主婦を描いた「第二話」
虚言癖の隣人のせいで悲劇に見舞われる夫婦を描いた「第三話」
代々の嫁だけが同じ悪夢に悩まされる「第四話」
お祓いでさらに霊障が激化したアパート住人を描いた「第五話」

どれも、現実にありそうなお話ばかりです。後味の悪さ、そして、各話がどのように連鎖するかを楽しんでください。

火のないところに煙は:感想

火のないところに煙は:感想

小説の中で、ドキッとした言葉

霊との縁を作りたくなければ、寄り添うように語りかけてはいけません。関わりのない死者に対して祈りを 捧げることは、それまで存在しなかった縁を自ら作ってしまうことになります。

人は霊的な現象に遭遇したとき、霊に心を静めてほしいと、心の中でお願いをしてしまいます。しかし、内心で語りかけるだけでも怨霊と縁ができてしまうとしたら…. これは、マイナスの「引き寄せの法則」です。

ネガティブな言葉は控えたい

不安・不満・不幸・恐怖でいっぱいになっていると、自ら、不安・不満・不幸・恐怖を加速させてしまいます。

特に人は「お金の不安」に苛まれがちです。「貧すれば鈍する」は、貧乏や困窮すると、人は知恵や判断力が鈍くなり、正しい行動ができなくなるという意味のことわざです。

人は、生活が苦しくなり、「お金がない」という不安で頭・心が占有されてしまうと、通常ならできる賢明な判断や行動ができなくなってしまいます。また、貧困は人間の品格や道徳にも悪影響を与えます。

「お金がない!」などのネガティブワードは、口に出すこと、頭で考えることもしないようにしたいものです。「私にはお金がある!」と思うようにしましょう。

人が恐怖を感じるとき

人が恐怖を感じるとき―。それは、身の危険を感じるときです。恐怖は自己防衛の感情です。危険でも、論理的に説明できると恐怖は和らぎますが、自分の目で見たり、体験できないことに対してはどうしても恐怖を感じます。

人が「死」が怖いのも、いわゆる「あの世」を体験することができないから。科学が進化した現代社会においても、そして、さらに科学が進化しても、人は心の平安を得るために「宗教」を求めてしまいます。

養老孟司さんの『死の壁』は、死と向き合うための良書。死の恐怖とどう向きあうべきか。生死の境目はどこにあるのか。「死」に関する様々なテーマから、生きるための知恵を教えてくれます。

最後に

今回は、芦沢央さんの小説「火のないところに煙は」のあらすじ感想を紹介しました。

冒頭でも紹介した通り、芦沢さんの筆力・構成力を感じずにいられない、ホラーミステリー小説です。是非、本書の面白さ、そして、最後の結末を、本書で楽しんでみてください。

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