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【書評/要約】逆説の日本史4 ケガレ思想と差別の謎(井沢元彦) 日本の歴史は怨霊・死ケガレなしで語れない。今なお残る日本人思想の謎

【書評/要約】逆説の日本史4 ケガレ思想と差別の謎(井沢元彦) 日本の歴史は怨霊・死ケガレなしで語れない。今なお残る日本人思想の謎
逆説の日本史4 ケガレ思想と差別の謎」要約・感想
  • 『逆説の日本史シリーズ』4巻は、日本の歴史は、平安時代の藤原摂関政治から武士の台頭する院政までを描く巻。この時代の大きな特徴は「死はケガレ」とする「ケガレ思想」
  • 平安時代の政治(藤原摂関政治・院政)はクソ。警察機能はわずか、国防機能に至ってはまるでない。国を守るという意識が皆無。関心があったのは、自分たちの血族の覇権を守ること。
  • この時代の政治は、「ケガレ忌避思想」なしには語れない。そして、この思想は、「軍備強化」をとことん嫌う現代の日本人にも通じている

★★★★★ Kindle Unlimited読み放題対象本

目次

『逆説の日本史4』ってどんな本?

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不浄なもの、穢れたものを嫌う日本人

NHK大河ドラマ『光る君へ』の舞台である平安時代は、特に「穢れ」が忌み嫌われた時代。ドラマでも天皇や藤原道長など権力者たちが、陰陽師の力を頼り、穢れを避けようとする姿が度々描かれます。中でも、「死ケガレ」を忌み嫌い、地震・飢饉などの災害も、怨霊のたたりによるものとして、取り払おうと懸命でした。

このような「ケガレ思想ケガレ忌避思想)」は、日本の精神性の本質。そして、社会に差別階級を生み、そして、社会制度・政治にも大きく影響を及ぼしてきました。

このような、日本のケガレ思想を面白く学べるのが、井沢元彦さんの歴史を井沢さんの独自の観点で紐解くシリーズの4巻目『逆説の日本史4 中世鳴動編/ケガレ思想と差別の謎』です。取り扱うのは、平安時代の藤原摂関政治から、武士の台頭する院政まで。この時代の歴史が、「ケガレ思想」をベースに解説されます。

とにかくこの時代は、政治がクソ。藤原家と天皇家、そして、藤原家内、天皇家内での権力争いが半端ない。藤原摂関政治は稚拙院政はやり方がえげつない。国・民を守らずに、自分たちを守ることに必死な時代です。

「死ケガレ」に近づきたくない彼らは、国の警察組織や、国防組織に全くの無関心と言うか、とにかく、近寄りたくないのです。国家機能としてあるのは、都周囲を守る検非違使ぐらい。その他、国防機能はまるでありません(過去はあったが廃止されている)

全く諸外国からの脅威を守れない国にあなたは住みたいですか?
国のトップが代々にわたって権力争いに明け暮れている国に住みたいですか?

そんな時代が、平安時代です。

「権力」を守りたい。しかし、自分たちの身を守る「武力」をまるで持たない天皇家・貴族連中。するとどうなるか?最初は、武力を持つ、武士たちに警護を任せているうちに、天皇家の血筋を引く武士の総大将が出てきて、摂関家も天皇家も武士にかなわなくなっていくわけですね。

井沢さんは、現代に至るまで「日本の歴史は怨霊(信仰)によって動かされている」と言い切りますが、本書を読むと、なるほど~と思えます。

ここまで読めば、『光る君へ』で、花山天皇が最愛の妻の死に立ち会うこともできず、わんわん泣いていた理由もよくわかりすね。天皇は「死ケガレ」に近づいてはいけないのです。

とにかく、本作は面白い。知的好奇心に突き動かされて、一気読みできるはずです。私は、本作を、推理小説を楽しむように読破しました!

こんな方におすすめ
  • 平安時代、非科学的に見える陰陽師があれほど活躍したかを知りたい方
  • 平安時代の政治の実態を知りたい方
  • 平安時代のダークサイドを知りたい方

逆説の日本史4:取扱い内容

逆説の日本史4:取扱い内容

逆説の日本史4 中世鳴動編/ケガレ思想と差別の謎』の章構成は次の通り。

『古今和歌集』と六歌仙編―”怨霊化”を危険視された政争の敗者
藤原摂関政治の興亡Ⅰ
 良房と天皇家編―平安中期の政治をめぐる血の抗争
藤原摂関政治の興亡Ⅱ
 『源氏物語』と菅原道真編―ライバル一族を主人公にした謎
藤原摂関政治の興亡Ⅲ
 「反逆者」平将門編―初めて武士政権の論理を示した男
院政と崇徳上皇編―法的根拠なき統治システムの功罪
武士はなぜ生まれたのか編―「差別」を生み出したケガレ忌避信仰
平清盛と平氏政権編―「平家滅亡」に見る日本民族の弱点

興味を引くキーワードはありませんか?これらすべてが「ケガレ思想」「死ケガレ」をベースに見ていくと、きれいにつながっていくのです。

一項目でもいいので、「これ知りたい!」と思った内容があれば、その章から読んでみることをおすすめします。私も順番通りには読んでいません。まずは、「藤原摂関政治編」から読み始めましたが、どんどん興味が湧いて、気づけば、1冊読破していました。

学校では歴史の勉強を「権力/覇権」をベースに習います。しかし、「マネー」「宗教」、今回の場合は「ケガレ思想」など、別のテーマから読み解くと、驚くほどその時代背景がわかって、歴史が面白くなることがよくあります。

ケガレ思想とは:いつからある?

ケガレ思想とは:いつからある?

「ケガレ思想」とは、平安時代に端を発する思想ではありません。もっと古くから存在しています。

日本人が「ケガレ」を嫌うようになったのはいつからか?

「穢れの概念」はもともと日本にはなかったと概念です。なぜなら、縄文人が動物を殺し肉を食べる狩猟民族だったからです。この時代、「死」に抵抗を感じていたら生きていくことは不可能だからです。しかし、弥生時代、日本人は稲作によより農耕民族となり、「死」は豊穣の対極にある嫌なものと考えるようになったと考えられます。

農耕は、貧富の差を生み、狩猟民族を文化的に差別し、また、後世の部落差別につながっていったと考えられます。

差別は昭和の時代ぐらいまでは、色濃く残っていました。「部落民」という差別用語がありますが、これは、主に、もともと、狩猟・死体の処理など、「殺生に関わる死ケガレに触れる仕事」をしてきた人たちが多く住んでいた地域です。

『古事記』に見るケガレ思想

日本史に最も初めてケガレが登場するのは、『古事記』。日本を生んだ神「イザナミ/イザナギ」の争いです。

もともとは夫婦。しかし、イザナミが火の神を産んだがために死に、黄泉の国に行ってしまう。イザナキはイザナミを連れ戻そうと赴くも、イザナミは既に穢れた世界の食べ物を食べた穢れた存在。「私を見ないで!」というイザナミの約束を破って、変わり果てたイザナミの姿を見てしまったイザナギは、その醜い姿に驚き、一目散で逃げ出す。恥をかかされたイザナミは怒って「この世の人間を一日で千人殺してやる!」と言い放つ。そして、その言葉に迎え撃って、イザナギは、「それなら私は、一日に千五百人生もう」と言い放って逃げるのです。

これが日本最古の記録としての「ケガレ」と「呪い」古事記』はおもしろおかしいトンデモ本。相当に笑かしてくれます。

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黄泉の国から戻ったイザナギは、穢れを落とす「禊ぎ」を行います。そして生まれたのが、「アマテラス」、「ツクヨミ」、「スサノオ」の三貴神。そして、アマテラスの子孫が「天皇家」なのです。

つまり、『古事記』に記される「死は穢れ」とする宗教観は、天皇家の宗教観につながるのです。

ケガレ思想は、社会的影響力のある力となる

ケガレ概念は単なる概念としてとどまることはありませんでした。社会的影響力(政治)とつながり、そして、社会的慣習の形成(制度、日常慣習)につながり、人の行動に制約を与えていったのです。

井沢さんは、現代政治において、日本には「国防のために武力を増強する案」に闇雲に反対する人が多いのも、ケガレ思想に関わっていると指摘します。戦争は反対です。しかし、国防は必要です。

平安時代のように、「国防機能がまるでない国」なんて、怖くて住みたくありません。

「ケガレ思想」が最も社会に影響を及ぼした平安時代

「ケガレ思想」が最も社会に影響を及ぼした平安時代

ケガレ思想」が政治に最も強く影響を及ぼしたのが平安時代時代です。これは政治に限った話ではありません。一見、平安の雅さを象徴するような「和歌」の世界ですら、「ケガレ思想」と切り離すことはできません。

古今和歌集』と六歌仙編―”怨霊化”を危険視された政争の敗者

  • 六歌仙とは、『古今和歌集』序で論評される六人の歌人。遍照・在原業平・文屋康秀・喜撰・小野小町・大伴黒主 の六人。単純に歌がうまい人が選ばれたわけではない。
  • 日本には「不幸な死に方をした人間は充分に鎮魂しないとタタリがある」という考え方がある
  • 六人の歌人は、彼らは不幸な死に方をした人たち。政治的に失脚したり、その関係者だったりした
  • 怨霊化するのではないかと危険視されたからこそ、権力者たちは彼らを「名人」「美人」と持ち上げ、鎮魂を図った

藤原摂関政治体制

  • 遷都は莫大な費用が掛かる。それでも、遷都をするのは、穢れた都を捨てて、新しく出直すため。嫌なことは「水に流してしまえ」的
  • 桓武天皇は平城京に都を移した。さらに、軍隊も廃止。
  • 平安時代は、特に、政治に人気がない。そもそも、藤原摂関政治が政治体制として、どうしようもないしろもの
  • 平安時代の日本には軍隊にあたるものが存在しない。他国と軍事同盟もない。すなわち「非武装中立」。これでは、国内の治安を保つには不安があるので、警察機構を若干強化した検非違使がつくられた
  • 検非違使は、実質的には軍隊の代わりだが、律令には規定なし。「令外の官」。今で言えば法律の規定はあるがそれが憲法には記載されていない、という状態。現代の日本に被る!?原型は平安時代にあった!?
  • 国の危機管理まるでなし。「有事」の際に被害者となるのは国民。
  • 死ケガレを嫌うため死刑は廃止
  • この状態で、どう、国家の安泰が保てるか?
  • 実は、平安時代、刀伊が攻めてきたが、これを沈めたのは「私兵」。これがいわゆる「武士」の原形に

以下は他の国の国の常識

  • 古代中国であれ中世ヨーロッパであれ、国は 人民を保護すべきものだ という考え方をする。(ただし、身分の差はある)
  • 権力者にとって、庶民は生産の基礎であり大切な労働力。だからこそ、魔もなればならぬ存在!
  • このような考え方は、特に平安中期の日本では、全くなかった

時の権力者は、呪いの対象に

権力の頂点に上り詰めると言うことは、その裏には、敗れ去った人たちがおり、その人たちは勝者を妬みます。妬むだけならいいですが、ひどくなると呪います。それが同じ血族であったとしても… 近い関係であるからこそ、「なんであいつが!」と腹立たしく、権力をわが手に取り戻すべく、呪詛して殺そうと画策します。

大河ドラマ『光る君へ』では、藤原伊周が藤原道長を貶めたり、呪ったりしようと画策する姿が何度も描かれていますよね。関係が近いからこそ妬みはおそましいモノとなるのです。(これは現代社会でも同じ。人間のサガ。10億円所有の超金持ちを妬むことはないけど、同じ部署の同僚の年収が10万円でも上回っていると妬みの対象となる)

藤原道長の日記『御堂関白記』にも、陰陽師や仏にすがる道長を何度も垣間見ることができます。

物語ではありますが、源氏物語』にも、生霊となって光源氏が見初めた女性を殺してしまう高貴な女性が登場します。こわっ!

院政、そして、武士の時代へ

本作では、「藤原摂関政治体制」から「院政」。そして、そこから、「武士」が頂点に就く理由が、「ケガレ思想」と共に、描かれます。

特に、院政のクソっぷりは、読んでいて笑えるレベル... 天皇の血筋の覇権争いも相当に醜い!

武士が登場して、政権をかっさらっていくのは必然だったということが、腹落ちできる内容でした。とにかく、読んで損はありません。ダークサイドな覇権争い、面白すぎます。

最後に

今回は、井沢元彦さんの『逆説の日本史4 ケガレ思想と差別の謎』からの学びを一部紹介しました。

歴史の面白さを、思う存分味わえる一冊です。『光る君へ』ファンの方はもちろん、そうでない方も、歴史を別角度から見る本として、読んでみてください。

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