- “生殖器”が語り手──前代未聞の視点で、人間社会を冷徹に見つめる
語り手はまさかの「生殖器」。この異色の視点を通して、人間社会の矛盾・複雑さが浮き彫りに。 - 現代社会の生きづらさ
主人公が感じてる、マジョリティとの“ズレ”。では、なぜ、そのズレを表に出さず、普通を装うのかー。
現代社会の生きづらさを、新しい視点で斬る。 - “しっくりくる生き方”とは──
社会が求める「正解」や「成長」を追いかけるのではなく、自分の感覚・価値観で“しっくり”くる生き方を見つけるのが大事ではないかと、暗に問いかける。他人の正解ではなく、自分自身の価値観で生きることの尊さを築かせる
★★★★☆ Kindle Unlimited読み放題対象本
『生殖記』ってどんな本?

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SNS、就活、ジェンダー、家族――
朝井リョウさんは、これまで現代を生きる若者たちのリアルな葛藤を描いてきた作家です。
彼の作品にはいつも、「これって本当に当たり前?」と問いかけてくるような視点があります。
そんな朝井さんが放った『生殖記』は、前作『正欲』以上に挑戦的。読者の価値観を根底から揺さぶる一冊です。
物語の語り手はなんと、主人公・達家尚成の“生殖器”。
ヒトは二度目だが、オス個体となるのは初めて。
そんな彼の中にある“生殖本能”が、彼の人生を語っていくという前代未聞の構成。まさに、“生殖記”なのです。
最初は、独特な視点をもつ語り手の話に「えっ?」と戸惑うかもしれません。
でも読み進めるうちに、この奇抜な設定が、物語のテーマにじわじわと効いてきます。
語り手である“生殖本能”は、尚成の行動や思考を冷静に観察しながら、人間社会の矛盾や違和感を次々とあぶり出していきます。そして、尚成自身が、尚成らしい「しっくりくる生き方とは何か?」を模索していく様を分析するのです。
『生殖記』を読み終えた時、読者に残るのは、読了の爽快感ではなく、“問い”。
「自分にとっての“しっくりくる生き方”とは」「普通って?」「なぜ、現代社会はひどく生きづらいのか」――そんな問いが、心・脳を揺さぶります。
現代社会に「しっくりこない感覚」を抱えている人、あるいは“普通”とされる生き方に疑問を持っている人にとって、本作は共感とともに、思考の刺激を与えてくれる一冊になるはずです。
あらすじ・登場人物:生殖本能から見た人間社会
物語の主人公は、家電メーカーの総務部に勤める33歳の男性・達家尚成。
彼は独身寮に暮らし、同僚とともに何となく日々を過す一般的な会社員。
しかし、出世にも恋愛・結婚にも積極的ではなく、いわゆる“普通”のレールから少し外れた場所にいます。彼は「自分はマジョリティの価値観から外れている」と自覚しつつも、それを声高に主張するわけでもなく、むしろ、「普通」を装い、波風を立てずに日々をやり過ごしています。
そんな彼を語るのが、子孫を残すことを役目とする“彼の生殖器”。そんな”本能”が、尚成の内面や社会とのズレを、時に皮肉を交えながら語っていきます。
この語り口は、まるで人間を“外から眺めている”ような視点を読者に与え、普段は当たり前だと思っている社会の仕組みや価値観を、改めて見つめ直すきっかけとなります。
登場人物と語り手の役割
- 達家尚成
主人公。社会的な「正解」から距離を置き、「しっくりくる生き方」を探している。 - 同僚たち
成功を目指す“マジョリティ”の象徴。彼らの存在が尚成の抱える違和感・ズレを浮き彫りにする。 - 語り手(尚成の生殖器)
生殖本能の視点から、尚成の生き方と社会の価値観を分析。観察者であり、時に批評者。
時に皮肉を込めて、社会の仕組みまでをも語る。
テーマ1:「しっくりくる生き方」とは何か?
本作の大きなテーマのひとつが、「しっくりくる生き方とは何か?」という問いです。
この“しっくり”とは、自分の価値観や感覚に無理なく馴染み、自然体でいられること。心身ともに穏やかで、「今日も悪くなかったな」と思えるような日々のことです。
しかし、現代社会では、「充実した人生=成功・成長・達成があること」が「正解」とされがちで、それがない生き方は “ダメ” と見なされる傾向があります。でも本作は、そんな当たり前のように信じられている価値観に対して、「それって本当に、あなた自身が“しっくりくる”と思える生き方なの?」と静かに問いかけてくるのです。
あなたは、社会が押し付けてくる「成功・成長のあるの生き方」に、無意識に毒され、無理を重ね、ストレスや違和感を抱えていませんか?
テーマ2:「マジョリティ」と「マイノリティ」のあいだで揺れる私たち
人は誰しも、「みんなと同じでいたい」という安心感と、「自分らしく生きたい」という思いがあります。
けれど、自分らしさを大切にしようとすると、いつの間にか“少数派”になってしまうこともある。
尚成もまさにその狭間で、自分にとっての“しっくり”を探しています。
社会や集団の中で、マジョリティはルールや価値観を形成する力を持っているため、その中にいる方がラクになことが多々あります。でも、何だか居心地が悪い。しかも、そこにいることで、知らず知らずのうちにマイノリティ(少数派)をバカにしたり、排除している自分に気づかされることもあります。
生殖器は、“生殖本能=子孫繁栄”という視点から、人間社会のマジョリティとマイノリティの関係を冷静に見つめています。
本来、種の繁栄には「多様性」が欠かせません。もし多様性がなければ、たったひとつのウイルスで種全体が絶滅してしまう可能性だってある。それなのに、人間社会はこれまで、戦争まで起こしてマイノリティを排除してきた歴史があり、そこには大きな矛盾があります。生殖本能的感覚からは意味不明な行為です。
LGBTQ+問題についても、多様性が進んだ今でも、軽んじられたり、排除される構図がなくなったとは言えません。
LGBTQ+の人がカミングアウトできない理由には、社会の不寛容さや、拒絶されることへの恐怖、関係性が変わってしまう不安があるからですし、「子どもを持たない人」が罪悪感を抱いてしまうのも、「親になるのが当たり前」という空気が根強く残っているからです。さらに、産めるのに持たない選択をした人には、「少子化に貢献していない」「責任を放棄している」といった偏見が向けられることもあります。
尚成も、自らをマジョリティの“外側”に位置づけていて、そこにある疎外感や違和感が、物語の大きなテーマとして描かれています。
テーマ3:資本主義と「成長し続けなければならない社会」への違和感
現代社会、特に資本主義社会では、、「成長しない/前進しない=価値がない」とされがちです。
でも、生物学的には「拡大」や「前進」は必ずしも必要ではなく、むしろ環境とのバランスのほうが大切です。
拡大しすぎは、むしろリスクとなり、自然と調整力が働くのが自然の摂理です。
語り手である生殖本能は、尚成の迷いや葛藤を冷静に分析し、「成長・発展神話」にも問いを投げかけます。
尚成は、「会社は飯を食う場所」と割り切り、「将来の家族を養う」という言葉に距離を置きます。
それは、社会が当然とする“成長型の価値観”に対する静かな抵抗なのかもしれません。
📚「生殖」と「人類の未来」については、ディストピア小説『世界99』も読んでみてほしいです。
草食系と呼ばれる層が現れ久しいですが、本作では、それが加速した未来=異性と交わりたいという欲求がなくなり(むしろ、キモいと感じる人も)、子どもは体外受精で生むのが当たり前になる未来が描かれています。非常に多くを考えさせられる「おぞましくも、読む価値大な作品」です。
✍️ まとめ:人間とは何かを問う“異形の文学”
『生殖記』は、朝井リョウさんの挑戦的な構成と深いテーマに多くを考えさせられる作品でした。
読み終えたあと改めて思うのは、「私にとって ‘しっくりくる人生’ とは何か」ということ――。
私は大きな成功も、人に認められるようなことも持ち合わせていませんが、「悪くない」と思える人生がおれている方ではないかと思います。それは、会社を辞め、人と比べない生活をしている点が大きいです。
今後の人生においても、「悪くない」とご機嫌に暮らせる日々を模索し生きたいと思います。
- 自分の「好き」や「心地よさ」に敏感になる
- 体の声を聞く習慣を持つ
- 「普通」や「正解」に縛られない
- 小さな納得を積み重ねる
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