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【書評/要約】死んだ山田と教室(金子玲介) 男子校のおバカな高校ライフがさく裂。しかし、苦くて切ない。生・死・孤独を問う、切り口が斬新な青春小説

【書評/要約】死んだ山田と教室(金子玲介) 明るくて、くだらない。しかし、ほろ苦くて、切ない。「生と死」「孤独」を問う、切り口が斬新な青春小説
死んだ山田と教室あらすじ感想
  • 明るくて、くだらない。しかし、青春は苦くて、切ない。
    男子高校生の友情、葛藤、成長を鮮やかに描く青春小説。様々な賞を受賞した高評価作品
  • 男子校のおバカスクールライフがさく裂。下ネタワードもさく裂。十代男子のくだらない会話が実にリアルで面白い
  • ラスト1行までおちゃらけているのにも関わらず、読者に「生きること」「死ぬこと」「孤独」についてなど、哲学的な問いを投げかける。切り口が斬新。ブログ管理人にとっては初めてなタイプの小説で斬新!

★★★★★ Audible聴き放題対象本

目次

『死んだ山田と教室』ってどんな本?

150名の書店員さんからコメント

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2024年刊行の金子玲介(かねこれいすけ)さんの小説『死んだ山田と教室』は、2024年に数々の賞を受賞した作品です。直近では、【本屋大賞2025】にノミネートされています。

【第65回メフィスト賞】
【本の雑誌が選ぶ2024年度上半期ベスト10第1位】
【第11回山中賞受賞】
【未来屋小説大賞第2位】
【王様のブランチBOOK大賞2024受賞】

小説の表紙の金髪の男の子が「死んだ山田」。

山田に役しているのは俳優・菅生新樹(すごうあらき)さん、俳優・菅田将暉(すだまさき)さんの弟さんです。よく似てますね。

さて、小説の舞台は、埼玉の名門男子高校・二年E組。小説は、夏休みがまもなく終わる8月29日、飲酒運転の車に轢かれてあっけなくなくなってしまった山田の死を嘆き、戸惑う同窓生の嘆きから始まります。

山田のいない新学期が始まり、教室の真ん中にポツンと空いた山田の席。担任が席替えを提案したタイミングで、クラスメートに山田の声が聞こえてくる。教室のスピーカーに山田が憑依し、声だけの存在として復活。本作は、そんな、「声だけの存在となった山田」とクラスメイトが教室で繰り広げる青春ストーリーです。

男子高校生が死亡するところから始まるも、男子校のおバカスクールライフがさく裂。女子がいない男子高校が舞台なだけに、下ネタワードもさく裂。この、十代男子のくだらなさが実にリアルで面白い。

明るくて、くだらない。しかし、青春は苦くて、とても切ない。

次第に明らかになる山田の過去。山田の死から時間が経つにつれ、変わっていく友人たちとの関係が、なんとも苦く切ない。そして迎えるクライマックス、山田の死の真相が明らかになり、そして、叫ぶ——。

男子高校生の友情、葛藤、成長が鮮やかに描かれます。そして、読者に「生きること」「死ぬこと」「孤独」について哲学的な問いを投げかけます。

最後一行までおちゃらけている。それなのに、深い問いがあり、しかも熱い。こんな切り口で高校生ライフ・生き方を描いた小説に出会ったのは初めてで、とても新鮮でした。

死んだ山田と教室:あらすじ ※寸止めネタバレ

夏休みが終わる直前、山田が死んだ。飲酒運転の車に轢かれたらしい。山田は勉強が出来て、面白くて、誰にでも優しい、二年E組の人気者だった。二学期初日の教室。悲しみに沈むクラスを元気づけようと担任の花浦が席替えを提案したタイミングで教室のスピーカーから山田の声が聞こえてきたーー。

教室は騒然となった。山田の魂はどうやらスピーカーに憑依してしまったらしい。〈俺、二年E組が大好きなんで〉。声だけになった山田と、二Eの仲間たちの不思議な日々がはじまったーー。
ーーAmazon紹介文

明るく人気者の山田

2学期が始まり、山田の事故死で重苦しい空気に包まれた教室。そこにいるだけでクラスを明るくしてくれる唯一無二の存在であった山田の死に沈む生徒を励まそうと、担任は人生について語ったり、席替え提案したりしますが、生徒の心は簡単に癒えるはずもありません。

そんな中、突如、教室のスピーカーから、山田の声が聞こえてきて、山田とクラスメイトの不思議な日々が始まります。そして、クラスメイトを、笑わせたり、時に励ましたり、クラスメイトの間の絆を深める存在となっていきます。

席替え提案もその一つ。その席替え提案は、山田がクラスメート誰に対しても、分け隔てなく特徴・行動を見て、暖かく接してきたことが伺い知れる、実にクラスメイト思いの「席替え提案」でした。

死者の運命ー次第に忘れ去られる

山田にも、「人気者・山田」とは異なる、暗い過去がありました。実は、中学までは、周囲と打ち解けられず、軽んじられる存在だったのです。通学はしていても、一日も誰ともしゃべらずとぼとぼと下校する孤独、そして、生きづらさに悩み、そんな自分を変えたくて、そんな中で試行錯誤し築かれたのが「高校生で人気者となった山田」でした。

しかし、時間は残酷です。クラスメイトは3年に進級。山田の教室を去っていきます。時折、在校中は教室を訪れてくれる元クラスメイトはいても、卒業すれば、山田の元を訪れる元クラスメイトは途絶えます。時に「山田に挨拶に行こうや」と誘う友がいても、「だったら、(教室ではなく)墓参りに行くよ」という声が返るばかりです。

受験・大学・社会人と人生が激変する20代。やりたいこと/やらなければならないことがいっぱいで、死んだ友に時間を割く時間などなくなってしまうのも当然です。結果、死んだ山田は再び孤独に襲われます。成仏しきれていない地縛霊のような存在になってしまうのです。

山田の死の真相

二年E組のみんなとずっと馬鹿やってたい。

心からそう願い、スピーカーとして蘇った山田。しかし、時間の経過は残酷でした。

早くこの世から消え去りたい。けれど、自分という存在が消えてしまうのは怖い。

成仏できない地縛霊となって教室に存在し続ける山田は、孤独の中で苦しみ続けます。誰も訪れない教室で、孤独をかみしめ続けます。しゃべり方を忘れるくらいに。

そんな山田の元に再び戻ってきたのが、山田と出身中学が同じ二年E組の同窓生であり、同じく、中学時代に孤独を抱えていた和久津(わくつ)でした。中学生の山田と和久津は、「孤独」という点で同士であり、支え合う友として、深いところでつながっていました。そして、彼は、卒業5年後、教育実習生として、そしてさらに時を経て、非常勤講師として山田のいる学校に戻ってくるのです。

なぜ、和久津は弁護士になって人を救うという夢を捨てまで、山田の元に戻ってきたのかー
そして、山田は、なぜ、成仏できなかったのかー

「山田の死の真実」を語り合うことで、互いに今まで伏せられていた真実を確認しあった二人。そして、山田は和久津に最後のお願いをするのです。

ラストのクライマックス、熱くて好きです。むちゃくちゃ、シリアスなことを語り合っているにも関わらず、ノリは「おバカ高校生当時のまま」。青春時代を共に過ごした同士は、年齢を重ねても、語らえば、いつでも当時に戻れる。このノリがとてもいいです。

死んだ山田と教室:感想

死んだ山田と教室:感想

山田はちゃんと死ぬべきだった

「あのさ、」川上が意を決したように「山田のことが好きなのは大前提で聞いて欲しいんだけど、」信号が青になる。川上は進まない。和久津も進めない。「山田はちゃんと死ぬべきだったと思う

上記引用は、本作を読むうえで大事だと思った山田のクラスメイトの会話です。山田が死んでさほど時間が経っていないある日、川上は、和久津に対して「山田はスピーカーにならず、成仏しなくちゃいけなかった」と述べるのです。

青春期は、人生の中でも特に変化が激しく、時間が怒涛のように過ぎていく時期です。高校生から大学生、そして社会人へと進むにつれ、環境は大きく変わり、新しい人間関係や責任が次々と生まれていきます。

受験、就職、恋愛、結婚――。生きている者は、前へ進まざるを得ません。友の死の悲しみは確かに深く、胸を締めつけられます。しかし、日々の忙しさや環境の変化は、その悲しみを徐々に覆い隠してしまうのは必然です。

忘れ去られる恐怖

人は誰しも「自分が忘れられることへの恐怖」を持っています。

人から「周囲に軽んじられ、忘れ去られ、相手にされない孤独」は恐怖そのもの。そんな息苦しさの中に生きる人は、時に、自殺という誤った選択をしてしまうほどです。一方、寿命をまっとうして死に至ったとしても、死ぬと生きている間に築いた関係や思い出が、時とともに薄れ、ついには誰の記憶にも残らなくなることは、人に虚しさや寂しさを抱かせます。

だからこそ、人は、「自分が生きた証」を残したいと願ってしまう。

それは名声や業績のような大きなものでなくてもいい。家族や友人の記憶の中に、温かい思い出として、自分の言葉や行動が何かの形で生き続けることを願います。きっとそのことが、「自分という存在の意味」を保証してくれるように思えてしまうからでしょう。死んだ山田は、その思いが強すぎたのかなと思わずにはいられません。

しかし、どんなに親しかった人の記憶でも、薄れてしまうことは避けられません。であるなら、忘れられないことに執着するよりも、「今、この瞬間をどう生きるか」を大切にして、生きることが大切だと思うのです。

相手の人生を劇的に変えられるようなアドバイスなどできなくとも、ある瞬間、誰かを楽しませたり、プラスの気分に変えられればそれでいいんじゃないか。そうすれば、「自分が生きた意味」は確かにあったと言えるのではないかと。

本当に恐れるべきは、「忘れられること」ではなく、「誰の心にも何も残せないこと」。そう考えると、山田の存在は十分に意味を持っていたと思うのです。川上の「山田はちゃんと死ぬべきだった」という言葉ー。本書を読み終え、その言葉の重みを改めて噛みしめました。

最後に

今回は、金子玲介さんの小説『死んだ山田と教室』のあらすじ・感想を紹介しました。

冒頭でも述べましたが、高校生たちの友情、葛藤、成長が鮮やかです。おちゃらけたストーリーなのに、哲学的で、「生きること」「死ぬこと」「孤独」について、考えさせられました。

あらすじを読んでいても、このギャップは味わえません。是非、実際に読んで、この小説が持つ斬新な物語の切り口を味わってみて下さい。

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