- 感情に対する認識を改めるきっかけとなる一冊
感情は単なる反応として雑に扱うことなかれ。自分の感情を細かく認知する(感情の解像度を高める)ことで、アウトプットの質は上がる! - 人の感情に深い洞察のある3名が、感情が私たちの意思決定や行動にどのような影響を与えるかを討論し、感情との向き合い方を提案。なるほど!な気づき多し!
- 感情を理解し管理するためには、「認知・受容・選択」のサイクルを回すことが重要。感情と向き合い、より豊かな人生につなげる方法をわかりやすく解説。1冊を通じ、「感情の持つ圧倒的な力」が再認識できる
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Kindle Unlimited読み放題対象本
『感情は、すぐに脳をジャックする』ってどんな本?

『感情は、すぐに脳をジャックする』は、感情に対する認識を改めるきっかけとなる一冊です。感情を単なる反応として扱うのではなく、意識的に捉え、整理し、活用することで、自己を理解し、よりよい選択で、日々・人生を幸せにすることを教えてくれます。
本の編集者・コルク代表の佐渡島庸平さん、予防医学の研究者の石川善樹さん、漫画家のの3人が羽賀翔一さんという、人の感情に深い洞察のある3名が、感情が私たちの意思決定や行動にどのような影響を与えるかを討論し、感情との向き合い方を提案しています。
私たちは、意外と感情に「鈍感」です。波として押し寄せる「感情の波」に無自覚であり、また、「表面的な感情」の裏にある本当の思いなどに気づいているとは言えません。しかし、感情の認知が間違っていたり、認知が歪んでいると、その後の選択(アウトプット)も歪んでしまいます。
感情を細かく認知することで、感情のコントロールはもちろん、アウトプットの質は上がる!
3人の対話の中には、「確かに!」「なるほど!」が満載。
「感情の持つ圧倒的な力」を改めて認識し、人生をより豊かにすることにつなげられる、学びの多い1冊です。
感情を知ることは、自分を知ること

本書の根底にあるのは、「感情を知ることは、自分を知ること」という考えです。私たちは日々さまざまな感情を抱いていますが、それを十分に認識しているとは言えません。
「感情の解像度」を上げる
自分の感情なんてわかってるよ、と思われた方もいるかもしれません。しかし、「5分前にどんな感情を抱いていたか?」という質問にあなたは答えられるでしょうか?多くの人はこたえられない(覚えていない・思い出せない)でしょう。このように、私たちは、感情に対して「鈍感」で「無自覚」です。ほとんどの感情は、本人も「無自覚」のうちに消えていきます。
感情のひとつひとつを認知し、解像度をどれだけ高められるか──
例えば、嫌なことがあったときにすべてを「最悪」とひとくくりにするのではなく、どのような感情が湧いたのか細かく認識することで、適切な対応が可能になります。つまり、「感情の解像度」を上げることが、より良いアウトプットや意思決定につながるのです。
感情のジャックされる脳
本書のタイトルにもあるように、感情は瞬時に脳を「ジャック(乗っ取り)」ます。私たちは大半の感情に無自覚である一方で、怒りや悲しみが強く沸き上がったとき、それがすべての時間と空間を支配してしまう感覚に陥ります。
このことに対し、著者らは「感情の乗っ取り自体を拒否することは難しいが、今、自分が感情に乗っ取られていることを認識できるようになれば、一つの感情にとらわれ続けることは回避できる」「特定の感情を否定せず、感情に善悪や優劣をつけずに受け入れることが大事だ」と説きます。
すべての感情には意味があり、ポジティブなものだけでなくネガティブな感情も含めて、自分の行動や意思決定に影響を与えています。大切なのは、感情の存在を受け入れ、そこからどのように行動するかを考えることです。
感情は他人に引き起こされるのではない。自分の解釈次第
「〇〇してあげたのに相手が喜んでくれなくて悶々とした」など、私たちは、感情は他者の存在・言動によって引き起こされていると思いがちです。しかし、他者との関わりを「きっかけ」にして、自分の価値観や概念に紐づいた感情が変化を起こしているに過ぎません。つまり、感情は、自分自身の解釈によって生まれるものです。
人は物事を論理的な判断で決めていると思っていますが、実際の判断・選択の多くは本能的なものであり、理由を後から加えているにすぎません。このことは、自己の感情を正しく認知し、コントロールできるようになれば、世界の見え方は変わり、幸福な選択ができることを意味しています。
「心の知能指数(EQ)」が高い人とは、これができる人です。逆に、EQが低い人は、内面の混乱が思考や仕事のパフォーマンスに悪影響を与え、人生がつらくなります。
「感情の解像度」を上げる

感情は、「点」ではなく、いくつもの感情がつながっている「波」です。この「感情の波」を意識すると、感情管理がしやすくなります。また、これまで退屈だと感じていた出来事も、鮮やかになり、人生の豊かさも増します。
感情認知には「語彙力」が大事
自己の感情とうまく付き合うには、「感情をうまくコントロールする」よりも、「表層的な感情の先にある本質を理解し、正しく認知する」ことが大事です。
ここで大切になるのが語彙力です。人は概念を通して世界を知覚します。概念にないことは知覚できません。この概念の元になるのが「語彙力(言葉)」です。
「ウケる」「ヤバい」「エモい」といった便利な言葉を使えば、様々な感情を少ないワードで表現できます。しかし、このような貧相な感情表現だけでは、自分の繊細な感情(ニュアンスの差)を知覚できません。これは、思考の広さ・深さにも影響を与えます。
例えば、「悲しみ」ひとつとっても表現は様々あります。これらを使い分けられる人/使い分けられない人では、悲しみに対する認知・選択、そして、他人との感情の共有に差が生まれ、人生の豊かさも異なってきます。
感情は抑えればいいというものではありません。感情を語らい共感し合うためにも語彙が必要であり、その行為が心の安心感へとつながります。
カテゴリ | 語彙 | 意味 |
---|---|---|
一般的な悲しみ | 悲しい(かなしい) | 一般的な悲しみの感情 |
哀しい(かなしい) | しみじみとした哀愁を含む悲しみ | |
切ない(せつない) | 胸が締めつけられるような悲しみや苦しさ | |
深い悲しみ | 悲嘆(ひたん) | 深く嘆き悲しむこと |
慟哭(どうこく) | 声を上げて激しく泣くこと | |
嘆息(たんそく) | 深くため息をつき、嘆くこと | |
喪失の悲しみ | 哀悼(あいとう) | 故人を悼み、悲しむこと |
惜別(せきべつ) | 別れを惜しむ悲しみ | |
哀傷(あいしょう) | 亡くなった人を悲しみ悼む気持ち | |
後悔や無念の悲しみ | 悔恨(かいこん) | 過去の出来事を悔やんで悲しむこと |
痛恨(つうこん) | 非常に強い後悔の念を伴う悲しみ | |
無念(むねん) | 望みが叶わず、悔しく悲しい気持ち | |
孤独や寂しさを伴う悲しみ | 寂寥(せきりょう) | もの寂しく、心が満たされない悲しみ |
虚無感(きょむかん) | 何もかもむなしく感じる深い悲しみ | |
空虚(くうきょ) | 心が空っぽになったような喪失感 | |
文学的・詩的な表現 | 憂い(うれい) | しっとりとした悲しみや心配 |
物の哀れ(もののあわれ) | 人生の無常やはかなさに対するしみじみとした悲しみ | |
愁い(うれい) | しずかに沈むような悲しみ |
感情という曖昧な概念を視覚的に体系化した「感情の輪」

感情は、概念も定義もあいまいで、実態もない。しかし、私たちの活動に多大な影響を与えます。
人間の基本的な感情とそれらの関係を知るために役立つのが、心理学者ロバート・プルチックが提唱した「感情の輪」です。このモデルでは、感情を ❶8の基本感情、❷感情の強弱、❸❶が組み合わさって生まれる複合感情でとらえます。
8つの基本感情 | 基本感情を360度で表現 ・喜び↔ 悲しみ ・信頼 ↔ 嫌悪 ・恐れ ↔怒り ・驚き↔ 予測(期待) |
---|---|
感情の強弱 | 感情の表現を、中心の内⇒外で表現。内側ほど強い感情を示す 例)喜び→ より強いと 歓喜、弱いと 平穏 恐れ→ より強いと 恐怖、弱いと 不安 |
複合感情 | 複雑な感情を隣り合う基本感情の組み合わせで表現 例)喜び + 信頼 → 愛 驚き + 恐れ → 畏怖 |
感情には明確な境界線がなく、ふわっとしています。だからこそ、このようなモデルを、自分のセンサーを磨くために活用し、自身の感情と向き合う意識を持ち続けることが大切と著者は指摘します。
資本主義下で「感情」より「お金」が優先に
私たちは「自分の感情」が一番大切なものだと理解しながらも、日常生活の中では必ずしも優先して行動していません。「イヤイヤ仕事」はその典型。仕事には何よりも優先しなければならないと思わせてしまう強力な感情抑制力が働きます。
太古の人類は、動物と同じく感情優先で動いていましたが、文明が発達し、資本主義社会下で生きる中で、「感情」よりも「お金」を優先するようになりました。資本主義社会では、効率の良さ、高い生産性、合理性が重視され、感情は持ち込まないほうが良いとされることも暫しです。また、自身の感情の波を捕らえるために大切な「時間」も奪われました。
しかし、一方で、物質的な「モノ消費」から、体験に価値を置く「コト消費」へと消費行動が移行しています。これは、感情が動く瞬間に対価を払うことに高い価値を見出す、本来の姿に回帰しているとも言えます。
ひとつ感情に長くとらわれない
私たちの脳はすぐに感情にハックされますが、ネガティブ、ポジティブに関わらず、「ひとつ感情に長くとらわれない」ことが大事です
ネガティブな感情:私たちは、すぐにネガティブ感情にとらわれます。しかし、ネガティブ感情を持ち続けるとろくなことがありません。ここで大事なのは「許す力」。子どものようにケンカしても、5分後にはけろっと笑顔で笑う、「一瞬で感情をリセットする力」は大きな武器です。
ポジティブな感情:ポジティブにもとらわれることには注意が必要です。一つの感情に固執すると、見え方や情報の受け止め方といったインプットに偏りが起こる可能性があるからです。異なる感情で違った見方をした方が、世の中も多角的に見通せます。
【実践】自分を「メタ認知」する

では、具体的にどのように自己をメタ認知したらよいのでしょうか?
感情を理解し、行動につなげる3サイクル
メタ認知とは、自分自身の認知活動(考え方や学び方)を客観的に理解し、制御する能力のことです。簡単に言うと、「自分が今どう考えているのか」を意識する力です。
本書では、感情の認知し行動する【認知/受容/選択】の3サイクルを提案しています。
認知 | 自分は今、何を感じているのか? それはどんな感情か? この問いからすべては始まる。 表層的な感情の自覚はもちろん、それを掘り下げて分解していくことで、奥に隠れている別の感情や自分の価値観を認知することが大事。 |
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受容 | 掘り下げた感情や解釈を自分自身が納得して受け入れる。 「すべての感情には意味と価値がある」と考えることで、内なる自分に素直になれる。 |
選択 | では、自分はどうしていきたいのか?を模索・追求する。 アクションというよりは「感情のどの部分に注目するか」 という糸口から、選択肢を導き出す。 感情のどの部分に注目するかで自分が求める【選択】が見えてくる。 「絶対解」ではなく「納得解」を探る姿勢が大切。 |
最も大事なのは【認知】
最も大事なのは【認知】。日常の中で見過ごしがちな無自覚の感情やバイアス、クセを理解し、いかにして自分をメタ認知するステップです。例えば、あなたの表面的な「怒り」の感情の裏には、それに紐づく別の感情や価値観があるかもしれません。ここで、感情の解像度を上げて観察することが大事です。
「自分が記憶している感情」と、「実際の出来事で感じ取れる感情」のズレを前提とすることの重要性も強調されています。このズレを認識し、分析することがメタ認知を高める鍵となります。
2つ目のステップ感情を受け入れる【受容】は、自分を変容させる第一歩です。特にネガティブな感情(嫉妬・不安・憎しみなど)は受け入れがたいものだが、それらも含めて認知し、受容することが重要です。
知る・選ぶ・活かす
【認知・受容】の先にあるのがしたうえで、「では、自分はどうしていきたいのか?」を摸索・追求する【選択】です。
ここで、は、「自分は今、何に注意が向いている状態なのか」を把握することが、選択肢につながります。
何に注意が向いているかー。以下の感情の整理は、個人的にはとても参考になりました。これを認識しておくと、その後の選択(問題解決)もしやすくなりそう。ここでも大切なのは「他者に意識を向けるのではなく、自分にできることを探す」ことです。
不安 | 「わからないこと」に対して注意が向く |
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恐怖 | 「手に負えないもの」に注意が向く |
悲しみ | 「無いこと」に注意が向く |
怒り | 「大切なものがおびやかされること」に注意が向く |
喜び | 「獲得したこと」に注意が向く |
安らぎ | 「満たされていること」に注意が向く |
感情を自覚し、意図し、目的に向けて行動する。これで、自分の人生をよりよく導けます。
知る(自覚) | 自分の感情や行動を明確に認識する |
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選ぶ(意図) | 結果を見据えた思考や感情のナビゲートを行う |
活かす(目的) | 共感力を活用し、自らの目的を定めて行動する。 |
最後にー感情の探求は人生を豊かにする
今回は、佐渡島庸平さんの『感情は、すぐに脳をジャックする』からの学びの一部を紹介しました。
本記事では割愛しましたが、4章「感情を語り、思考を深める ネガティブ感情編」では、「恥」「罪」「悲しみ」「絶望」「怒り」、5章「感情を語り、思考を深める ポジティブ感情編」では、「誇り」「安心」「感謝」といった感情についても議論が行われており、示唆に富んでいます。
これらの感情を深く観察することは、あなたが大切にしている価値観を見つめ直す機会となるはずです。
感情を単なる反応として扱うのではなく、意識的に捉え、整理し、活用することで、より良い自己理解&選択を可能にし、人生も良くする!「感情の持つ力」を再認識した価値ある1冊でした!
感情を雑に扱わないように、生きたいと思います。