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【書評/あらすじ】平場の月(朝倉かすみ)——リアルで切ない… 50代の恋と別れが“静かに胸を打つ”名作【山本周五郎賞を受賞/2025年11月映画公開】

【書評/あらすじ】平場の月(朝倉かすみ)——リアルで切ない... 50代の恋と別れが“静かに胸を打つ”名作【山本周五郎賞を受賞/2025年11月映画公開】
平場の月」要約・感想
  • 50代の男女が再会し、静かに始まる切ない物語
    離婚、病、死別、介護、孤独――中年期に押し寄せる現実を真正面から描きながらも、その中に確かに存在する“優しさ”をすくい上げた、大人の恋愛小説。
  • 人は人によって救われる
    出世や成功とは無縁の二人の人生に築かれた「無駄話の会=互助会」。小さな関わりが、病や困難に押しつぶされそうな心を支え、寄り添う力となっていく。
  • 人を思うこと、愛すること、生きること――
    どんな年齢になっても、誰かを想う気持ちは尊いものだと、この物語は静かに教えてる。映画化で注目を集める今こそ手に取りたい、大人の心に深く染み渡る一冊。

★★★★☆ Kindle Unlimited読み放題対象本

目次

『平場の月』ってどんな本?

【12/1まで】 Kindle Unlimited 最初の3か月99円 ※「30日間無料」よりお得

50歳を過ぎて、ふたたび誰かを想う気持ちが芽生えることもある——

朝倉かすみさんの『平場の月』は、人生の後半に訪れる恋と別れを、静かでありながら胸に深く響く筆致で描いた大人の恋愛小説です。第32回山本周五郎賞を受賞し、直木賞候補にもなった話題作で、50代の男女が“互いの傷を抱えながら愛し合う”姿が切なくも力強く心に迫ります。

離婚、死別、病、介護、孤独——。
半世紀も生きれば、誰もが人生の道に立ちはだかる壁にぶつかり、時に歩みを狂わされます。
けれど、どこにでもある「平場=特別ではない日常」の中で、人はなお誰かを思い、誰かに救われながら生きていくのです。

月明かりのように静かで淡い光が、平凡な人生の片隅にひっそりと宿る「愛」を照らし出す。
『平場の月』はそんな物語であり、読者に「生きること」「愛すること」の意味を、静かに、しかし確かに問いかけてきます。

2025年11月14日には映画が公開。
監督は『花束みたいな恋をした』の土井裕泰、脚本は『ある男』の向井康介、主演は堺雅人と井川遥。
二人の繊細な心の揺れを、ただ眺めているだけで胸が締め付けられるPVも必見です。👇

『平場の月』 あらすじ(ネタバレあり)

主人公・青砥健将は50歳。妻子と別れ、母の介護を経て、地元で独り暮らしをする男性です。
仕事は印刷会社の再就職。
派手さも、輝きもない日々の中で、時には寂しさとアルコールでごまかしながら生きた時期もありました。

そんなある日、病院の売店で中学時代の初恋相手・須藤葉子と再会します。
彼女は夫を亡くし、破産を経験し、今はパートで生計を立てている——まさに「人生の痛みを知る」女性でした。

二人は「無駄話の会=互助会」を結成し、毎週会い、近況を話し、時に笑い、時に過去を語り合うようになります。
LINEのやり取りが増え、会うたびに距離は少しずつ縮まり、やがて恋へ。二人は自然に、互いを必要とする関係になります。

しかし、須藤に大腸がんが見つかります。
手術、抗がん剤治療、苦しい副作用で苦しむ須藤——そのすべてを、青砥はただ黙って支えます。

青砥は結婚を申し込みますが、須藤は「一年間会わないこと」を条件に断ります。
その裏にある本当の理由——自分の命が長くないという事実——を、青砥が知るのは一年後。
同級生から「すでに亡くなった」と告げられたとき、彼は初めてその愛の形を理解するのです。

感動点・切ない点(深掘り)

人生50年の“現実”と向き合う物語

出世や成功だけが人生ではありません。
むしろ、離婚、介護、病、貧困、家族の死、孤独といった“誰にでも起こり得る”現実のほうが、多くの人生を占めています。

青砥と須藤はまさにその象徴。
華やかではない、傷だらけの人生を歩んできた二人だからこそ、互いの存在が沁みるように胸に届くのではないでしょうか。

人は、結局、人に救われる

人生の傷を抱えた2人の人生を通じて、本書が語り掛けてくるのは、「人生は成功だけが価値ではない」ということ。

互助会という名の、ささやかな集い。
ささいな雑談でさえ、孤独や病を抱えた二人には大きな救いになります。

たとえ、成功などしていなくとも、人は人との関わりの中で救われる。
そして、病や死が避けられない現実が目の前にあっても、寄り添う愛に救われる。

この物語は、そんな、「誰かと心のつながり」をやさしく照らし出します。

タイトル「平場の月」が示すもの

「平場の月」が照らすのは、スポットライトの下で輝く“成功者の人生”ではありません。
そこにある人間関係は、華やかで目を引く一方で、しばしば打算や利害に満ちています。光(金)が消えれば縁も途切れる――そんな脆さを抱えています。

それに比べて、月明かりは静かで控えめです。
しかし、夜の灯台が道標となるように、孤独な航海者に寄り添う光となります。
目立たないけれど、確かにそこにある――そんな光は、私たちの「普通の人生」に寄り添ってくれるものです。

思い返せば、人は孤独や不安に直面したとき、あるいは人生の節目に立ったときに、ふと月を見上げたくなるものですよね。夜道で見上げた月に「誰かも同じ月を見ている」と感じた瞬間、安心やつながりが心に広がります。

『平場の月』は、そんな月の光に似た心情を描いた物語のように感じられます。
50代の男女が互いに寄り添い、支え合う時間は、月の光のように静かで淡く、切なさを伴いながらも、確かな温もりを放っていました。華やかな成功の人間関係が表面的な輝きに過ぎないのに対し、平凡な日常の中で交わされる関係には、揺るぎない絆がある――そう教えてくれる作品なのだと思います。

しかし、本書のラストシーンを読み終え寂しく感じるのは、どれほど深い心のつながりがあっても、病は人を蝕み、やがて死へと至るという現実です。『平場の月』は、その残酷さも淡々と描いています。けれどそのことが、だからこそ人と人が寄り添う時間が尊いのだと教えてくれているようです。

この物語を読み終えたとき、私たちは「人生の成功」よりも、「誰かと心を通わせる瞬間」こそが生きる意味なのだと気づかされます。病や死を前にしても消えないもの――それが、人と人とのつながりの光なのだと思います。

まとめ

平場の月』は、中年期の孤独、病、そして別れという現実を真正面から描きながらも、その中に確かに存在する“優しさ”を再認識させてくれる物語でした。

派手さはないのに、読んだ後、胸の奥がじんわり温かい。
人生の折り返し地点を過ぎた人ほど、深く刺さる一冊。人生の陰影が、そのまま美しく見えてきます。

こんな方におすすめ

  • 静かで切ない、でも温かい物語が好きな方
  • 50歳前後、人生に少し疲れていると感じる方
  • 病や介護などの現実を経験し、「愛とは何か」を考えたことのある方

12/1まで/解約はいつでもOK

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