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【書評/要約】対馬の海に沈む(窪田新之助) 真実はミステリーより残酷で、心をえぐる。22億円横領事件の裏に隠された「組織」と「私たち」の病巣

【書評/要約】対馬の海に沈む(窪田新之助) 真実はミステリーより残酷で、心をえぐる。22億円横領事件の裏に隠された「組織」と「私たち」の病巣
対馬の海に沈む」要約・感想
  • 離島で“神様”と呼ばれた男の転落劇
    2019年、長崎県対馬で起きたJA営業マンが22億円横領の末に車ごと海へ。単なる個人の犯罪なのか?
  • 組織ぐるみの黙認と共犯関係
    なぜ巨額不正が長期間見過ごされたのか?JAという巨大組織と島社会が築いた沈黙の構造。個人の不正を許した“共犯の輪”に、著者が鋭く切り込む。
  • 実名ルポが突きつける人間の業と社会の闇
    異常なノルマ強要、隠蔽体質、忖度と黙認—— 取材者の執念があぶり出す、現代日本が抱える構造的病理と人間の弱さ。

★★★★★ Audible聴き放題対象本



目次

『対馬の海に沈む』ってどんな本?

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2019年、国境の島・長崎県対馬で、一人の男が車ごと海に沈み、命を絶った。
その名は、西山義治。JA(農業協同組合)に勤める44歳の営業マン。
全国でも屈指の成績を誇り、“神様” “天皇”とまで崇められた伝説の営業職員だった。

だが、その死には、22億円にものぼる巨額横領の疑惑がつきまとう。
なぜ、これほどまでの不正が長期間見逃されてきたのか? そして、彼は“単独犯”だったのか?

元・日本農業新聞記者の窪田新之助氏は、その疑問を胸に、長期にわたる執念の取材を開始する。
行き着いた先にあったのは、閉鎖的な地域社会、巨大組織の隠蔽体質、そして、欲望と孤独に突き動かされる人間の「業」だった。

本書『対馬の海に沈む』は、第22回開高健ノンフィクション賞を受賞した傑作。
「事実は小説よりも奇なり」を体現する一冊で、その構成力と筆致は、まさに一級の社会派ミステリーを思わせる

読み始めたら最後。私は、本作に引き込まれ、真実を知りたくて、むさぼるように1冊を読み終えた。
その先に待っているのは、フィクションでは到底描けない、「真の衝撃」と、読後に尾を引く「どんよりとした切なさ・哀しさ」だ。しかし、それが、人間、そして、組織を「見つめ直す力」となるはずだ。

価値ある1冊に出会えたことに感謝したい。

怪物と化した「日本一の営業マン」が作り上げた王国

西山は、なぜこれほどまでの巨額を横領できたのか?

西山は、人口わずか3万人の離島で、年収4000万円を超える実績を上げ、JA内で圧倒的な権力を握った。
だがその裏では、架空契約・虚偽申請を駆使し、共済金を不正に流用。地元経済さえ潤すほどの“還元”を行っていた。

まるで『ワンピース』のルフィのように、自分だけの「一味」を築き上げ、仲間には惜しみなく利益を分配し、職場の中に小さな王国を作り上げていたという。

従う者には富と名誉、逆らう者には冷遇・排斥という鉄の掟で支配された「王国」
だが、そんな大国が、永遠に続くはずがなかった。

なぜ不正は見逃され続けたのか?

なぜ、巨大なJA組織の中で、これほどまでの不正が長期間見過ごされてきたのか?
西山の横領は、彼ひとりの問題では終わらない。著者は、JAという巨大組織と“共犯関係”に切り込んでいく。

組織ルールの狂気 と 人の苦しみ・弱さ

異常なまでのノルマの強要、隠蔽体質、そして、金と名誉に囚われ、不正に加担しながらも口を閉ざす人々の姿――。

著者の徹底した取材は、驚くべき事実を次々と浮き彫りにする。
本部が課す過剰な数字目標が、職員たちの心を蝕み、不正への“黙認”を日常化させていく。

この黙認は職員にとどまらない。組織そのものにも伝播していくのだ。

地方社会という「ムラ」の残酷さ——誰も声をあげられなかった理由

この物語は、単なる地方の事件ではない。
対馬という小さな島で起きた出来事を通じて、日本社会全体に潜む「ムラ社会」の恐ろしさ、そして巨大組織が課す「ルール」、特に「ノルマ」によって起こる様々な組織問題をも克明に描き出す。

ノルマは、行き過ぎれば個人の精神を破壊し、不正を生み、ついには組織そのものをも崩壊させる。 西山は、このノルマの恐怖から逃れたい職員や、中央組織からの特別報酬に目が眩んだ組織をも巻き込み、不正を助長する環境を作り上げていく。そして、その魔の手は、やがて地域社会にも深く広がっていくのだ。

組織のルール・システムが、「人間を、家族を、地域社会を、狂わせていく恐ろしさ」は、まさに現代社会の縮図。

本書は、一人の営業マンの破滅の物語でありながら、「私たちの人間の弱さ」や「組織という構造がが抱える深刻な問題」をも浮き彫りにする。

不正を知りながらも、恩恵にあずかり続けた人々。
不正の実態を調べ上げ、組織上部に訴えるも、沈黙を強いられ、左遷されていく良心ある上司。
西山の死後、手のひらを返すように彼を切り捨てた「西山軍団」。

読み進めるうちに、私たち読者はこう問われる—— 「もし自分がその場にいたら、正義を貫けただろうか?」と。

人は、「金」「組織」「不安」「ストレス」に極めて弱い。そんなことを、改めて思い知らされた。

「ジャーナリズムの原点」がここにある ー圧倒的なリアリティと覚悟

圧倒的なリアリティ

本書の最大の魅力は圧倒的なリアリティ。
著者は、裁判資料や調査結果だけでなく、関係者たちの生々しい証言を徹底的に掘り下げる。

取材拒否をする者、苦悩しながら真実を語り始める者。
方言で語られる言葉、そしてその反応の一つ一つまでが詳細に描写され、まるであなた自身が彼らと向き合っているかのような、鳥肌が立つほどの没入感が迫る。
そして、この徹底した取材姿勢が、物語を決定づける元上司・小宮厚實氏との出会いをもたらす。

小宮氏が西山の不正に気づいたのは、2012年に彼が上対馬支店に赴任した頃。彼は、西山の死の7年前には不正に気づき、組織に入念な不正の実態を訴え、その結果左遷された過去を持つ。しかし、それでもなお、西山やその家族を心配し続けた数少ない存在だった。

窪田氏が小宮氏の思いを受け継いだかのように、まとめ上げた終章には、記者としてこの事実を伝えなければならないという「揺るぎない覚悟」が宿る。そして、次のような真実を突きつけてくる。

どんなに腐敗した世の中にも、不正を正そうとする良心あるものがが存在しうること、
不正を働いた男にも彼なりの信念や、神とあがめられる立場だからこその孤独があったこと、
そして、不正はどこかで行き詰まり、綻びが生じたら最後、一気に破綻に追い込まれることー を。

「実名報道」が暴く、剥き出しの真実

本作は“実名”でまとめられている。そこに、「真実」を明らかにしたいという著者の強い信念を感じずにはいられない。

実名であるからこそ、関係者一人ひとりの “ざらついた生の声” が胸に迫る。
この「ざらつき感」は、単なる事件ミステリーを読んだだけでは、そうそう感じられるものではない。
「実名ルポ」の力を、まざまざと見せつけられた。

最後に:ノンフィクションの“真の衝撃”を、是非、あなたも

人間の欲望と孤独、組織の論理と崩壊、そして「沈黙」と「共犯」という名の闇――。

窪田新之助氏の『対馬の海に沈む』は、多くのことを感じ、そして、考えさせられる1冊となった。
本書を読む2か月前、対馬を訪れ、その地がいかなる”土地柄”であるかを見てきたことも大きい。

読み終えたあとに心に残るのは、重さ・息苦しさ、そして、人間という生き物に対する切なさ・哀れさ。
けれども、それは、自分事であり、 “現実に目を向ける力” へと変わる。

確かに、本作に描かれているのは、小さな離島の閉鎖的な「ムラ社会」で起きた不正かもしれない。
しかし、同じような「闇」は、集団に属し、共存しなければ生きられない私たち人間社会のどこにでも、程度の差こそあれ存在している。

真実は、ミステリーより残酷で、心を抉る—— この一冊が、その言葉の真の意味を教えてくれる。
是非とも手に取って読んで頂きたい。

合わせて薦めたいのが、以下の本。

こちらは、狡猾な犯罪集団が、いかに人を騙すかー、その手口は、巧妙化する犯罪の手口、そして、騙される側の隙・落ち度を知る上で参考になるはずだ。

上記2冊は、Audibleなら読み放題対象。まだ試したことがない方は、是非キャンペーンを利用して読んでみてほしい。

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