- 疲労と疲労感は違う。疲労のメカニズムを知ってこそ、正しく対策ができる
- 疲労は「痛み」と同じで、体の危険を知らせるアラーム。身を守る本能。誤った疲労コントロールは危険
- 新型コロナウイルス後遺症により患者が増大したことで、疲労研究は加速している
★★★★☆
Audible聴き放題対象本
要約『疲労とはなにか』ってどんな本?
疲れた~。日々、日本全国で繰り広げられる疲れたアピール。一生懸命 働くことを「美徳」と考える日本人にとっては見慣れた光景です。しかし、欧米では疲れているのに働くばビジネスマンは、自己管理ができないデキない人物とみくびられてしまうことをご存じでしょうか。
さて、今回紹介のブルーバックス『疲労とはなにか』は、疲労とは何かを科学する本。現代人を悩ます疲労を軽減する知識として、初心者にもわかりやすく、「疲労のメカニズム」と「研究の最前線」「疲労対策法」を紹介した本です。
本書を読んでまず驚いたのは「疲労と疲労感は別」だということ。これを知らないが故に、猛烈ビジネスパーソンの中には、体によくないことを無自覚に行っている方もいます。
著者は、東京慈恵会医科大教授の近藤一博さん。「疲労とうつ病」の関係を世界で初めて解明したドクターで、本書でもその謎がわかりやすく解説されています。
- 毎日健康でありたい方、日々の疲れに悩んでいる方
- 疲労のメカニズムを知りたい方
- 最新の「疲労研究」に興味がある方
疲労を科学する:疲労と疲労感は違う
「疲れた発言」が日常になっている日本人。「過労死」という単語が「KAROSHI」としてそのまま英語になっているほど、疲れた人が多い国です。しかし、私たちはこれほど身近な疲労を理解していません。
疲労は自分自身に対する警報、身を守る本能です。正しい理解が必須です。
疲労の原因・メカニズム
疲労は疲労因子(リン酸化eIF2α)が増殖した状態です。身体を生成するために大切なタンパク質合成因子(eIF2α)が、労働や運動の負荷、精神的な負担、感染症などの肉体的な負担でリン酸化してしまうと疲労因子が生まれます。
すると、人体を構成する材料であるタンパク質の合成が阻害されて、臓器の働きが低下したり、機能障害が起きます。これが、「疲労」です。
「疲労と疲労感」の違い、「生理的疲労と病的疲労」の違い
そもそも、「疲労」と「疲労感」は別の現象です。私たちは、日常生活で、この2つに無自覚です。
項目 | 疲労 | 疲労感 |
---|---|---|
定義 | 心身にかかる負担によって生じる体の障害や機能低下 | 「疲れている」という感覚を示す言葉 |
特徴 | 客観的な生理的現象 ・身体的な疲労(筋肉疲労、体力低下 等) ・精神的な疲労(注意力の低下、精神的ストレス等) | 主観的な感覚で、個人の感じ方に依存 ・身体的な疲労感(筋肉のだるさ、重さ 等) ・精神的な疲労感(気力低下、集中力低下 等) |
測定 | 定性的に測れる(筋力テスト、心拍数、血液検査 他) | 主観的感覚(自己報告、アンケート 他) |
また、「疲労」は、「生理的疲労」と「病的疲労」に大別できます。
疲労の種類 | 特徴 |
---|---|
生理的疲労 | 走って疲れたなど、普通の疲労 基礎疾患がなく、寝るなどの急速で回復可能 |
病的疲労 | 疲労という症状の病気 慢性疲労症候群、うつ病、新型コロナウイルス後遺症 など |
疲労感を減少させる行為が疲労の自覚を妨げる
疲労感を失くそうといろいろ努めても、疲労が低下するとは限りません。逆に、疲労しているのに、疲労感を感じないこともあります。
例えば、1日8時間のデスクワーク VS 楽しみにしていたゴルフ。肉体的には後者の方が疲れるはずですが、逆に「日ごろの疲労が吹き飛んだ!」と感じることがあります。
人は喜びや充実感を得ると、疲労感が薄れる傾向があります。疲労を感じるのは脳であり、喜び・充足感(あるいはその逆)によって、物理的な疲労の程度と主観的な疲労感は一致しないことが多々あるのです。
エナジードリンクの多用の問題
エナジードリンクを飲んで、疲労感軽減・集中力がUPを実感した経験がある方は多いと思います。エナジードリンクに含まれる以下のような成分が、眠気覚ましや疲労に作用するからです。
カフェイン | 脳神経を興奮させて眠気を防ぎ、脂肪燃焼を促進 |
---|---|
アルギニン | 血管を広げて血流を改善し、免疫力を高める作用 |
ビタミンB群 | 糖質や脂質などからエネルギーを効率よく生成 |
問題は、「疲労感」が紛らわされ、「疲労が回復した」と錯覚してしまうこと。実際は肉体は回復していません。成分が切れると、疲れが反動としてやってきます。故、「エナジードリンクは元気(寿命)の前借り」と言われます。
「疲労回復効果がある」と思われていた物質のほとんどは「疲労感を軽減させる物質であり、疲労回復効果はない」点には注意が必要です。 ドラッグストアで無駄な買い物をしないようにしましょう。
「疲労感なき疲労」の正体
動物は無理をしません。肉食の野生動物は、お腹が減っていても、疲労を感じると獲物の追跡を止めます。
しかし、人は違います。無理して働きます。また一方で、意欲、達成感を得る喜びで、疲労を感じない(疲労アラートが発動しない)ことがあります。
例えば、成功している経営者は仕事を頑張れば頑張るほど儲かる。すると、脳内麻薬ドーパミンが出て「疲労感」をかき消します。これは、「疲労感のマスキング」と言われる状態です。これが、「隠れ疲労」「疲労感なき疲労」の正体です。
仕事が楽しくてしょうがない人、責任感が強く真面目な人、完璧主義の方は、「疲労の蓄積」を見過ごしやすいので注意が必要です。「過労死するのは人間だけ」です。仕事が充実していても、過労死しては意味がありません。
疲労研究 最前線
ここからは、疲労研究の最前線についてみていきます。実は、新型コロナ以降、疲労研究が加速しています。理由は、世界中に「新型コロナ後遺症」による疲労・倦怠で苦しむ患者が続出したからです。
どれだけ疲れているかは、唾液中のヘルペスウイルスの数でわかる
疲労感はあくまで感覚でした。では、「疲労」の程度はどのように測定できるのか?
ヒトヘルペスウイルス6(HHV-6)は、人に感染するヘルペスウイルスの一種です。人類のほとんどは、幼い頃にこのウイルスに感染しており、ウィルスと共存しています(通常は、体内で潜伏)。
しかし、宿主である人が疲労してくると、 ヤバイ!と思って、逃げ出そうと口中に出てくる!故、唾液中のヘルペスウイルスの数を測ると、どのぐらい疲労しているかがわかります。(ただ、この測定は、医療機関での測定が必要で、簡単には測定できません🥀)
うつ病は、疲労とウイルスから生じるタンパク質が原因
疲労には、寝て直る「生理的疲労」と、慢性的に疲労を感じる病気「病的疲労」のあることは上述しました。後者の一つが「うつ病」です。
実は、うつ病は、疲労が高じ、ヒトヘルペスウイルス6が再活性化することで、うつ病の原因タンパク質「SITH-1」(シスワン)が発現することが原因です。SITH-1が陽性の人は、12倍もうつ病になりやすいことを、著者らの研究は明らかにしています。
SITH-1は、病的な疲労を起こす脳内炎症の消火機能を阻害します。そして、異常な不安を感じるようになります。
かつては、「うつ病の原因はセロトニン不足」と説明されたこともありますが、これは誤り。最新研究で、過去の健康定説は塗り替わっていくので、最新科学のウォッチは大事だと感じた次第です。
「疲労」は危険を知らせるアラーム、むやみな除去は危険
さて、ここからは、疲労のメカニズムを知り、それをどう日常生活に活かすかー
ここで大事なのは、疲労は「痛み」と同じで、体の危険を知らせるアラーム。薬・サプリなどで無暗に疲労感コントロールをしてはいけないということです。
【疲労】まずは、貯めない
まず、最初に大事だと気づかされたのは、欧米人に習い「疲労がたまるような働き方をしない」ということです。欧米人のように体調管理も仕事と考えて、日常生活に気を払います。だらだら残業はもちろん、作業を見直し、長時間労働はしない。そして、休日はちゃんと休むことで、疲労を貯めないよう心掛けています。日本人もこうあるべきです。
さらに、疲労回復に効果がある「軽い運動」と「疲労回復食品の摂取」を実践すれば、さらに健康的に暮らせます。
【疲労回復策1】「軽い運動」で疲れが取れる
最初の「疲労の原因・メカニズム」で述べた通り、タンパク質合成因子がリン酸化して疲労因子(リン酸化eIF2α)に変化した状態です。よって、リンを剥がしてあげると疲労が回復します。
つまり、リンをはがす働きをする酵素を体内で出せばいい。この酵素を出すのに大事なのが「軽い運動(軽い負荷)」です。疲労因子を失くすために、あえて疲労するというちょっと奇妙な行動が必要になります。
ただ、これには、毎日ジムに通う私には大いに実感があります。なぜなら、ジムに行かない日の方がジムに行った日よりも「疲労を感じる」からです。なるほど納得!
【疲労回復策2】「ビタミン1」を摂取。玄米がおすすめ
著者曰く、疲労回復に効く特効薬となる食品はありません。しかし、ただ1つ決定的にわかっているのは、ビタミンB1が不足してしまうと疲労が回復しないのは確かだということです。
ビタミンB1を多く含む食品には、「玄米(米ぬかに多くの成分あり)」、小麦、豚肉 などがあります。
毎日のお米を玄米に変えるのが最も簡単で費用も押さえられます!最近の炊飯器は玄米も上手に炊けるので、是非、生活にとりいれてみてください!以下は、Amazonで人気の高い玄米です。
最後に
今回は、近藤一博さんの『疲労とはなにか』からの学びを紹介しました。
健康にかかわる知識は、寿命が益々延びる現代ではかつて以上に重要です。若いうちから気を付けるかどうかで、人生の後半戦の幸せも変わってきます。本書にはより多くの学びがあります。是非、本書を手に取り読んでみてください。