- 無名の陶芸家が作った美しい壺が人々を巡るー
13話からなる短編連作小説。壺は様々な人の手に渡り、彼らの生活・人生に様々な影響を与える - 各話に人生ドラマ。壺の不変かつ静かな美しさとは対照的に、人々の揺れ動く心、虚栄心、家族の力学、世間の力学などが次々と描かれる
- ユーモラス、かつ、シニカル。どの話にも、「人/社会の醜さ」を忍ばせ描かれる。人の手を巡るのが「美しい壺」である点も本作を読み解くポイント!
★★★★★
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『青い壺』ってどんな本?
2024年12月の『100分de名著』は『有吉佐和子スペシャル』。
名著を取り扱うこの番組で取り上げられたのは、有吉の代表作「華岡青洲の妻」「恍惚の人」「青い壺」。私は、この機会に、「華岡青洲の妻」「青い壺」を読みました。どちらも面白かったですが、特に気に入ったのが「青い壺」です。
「青い壺」は1976年から雑誌に連載された,13話からなる短編連作小説です。
無名の陶芸家が生み出した青磁の美しい壺。
その美しい青い壺が、十余年の時を経て、人々の手を渡り歩く。
壺は国内にとどまらず、海外にも飛び出す。
しかし、不思議な縁で、再び陶芸家の前に現れるー
「青い壺」が巡った先々に人間ドラマ。そして、壺自身もその価値を大きく変えながらー
青い壺は様々な人の手に渡り、彼らの生活・人生に、喜怒哀楽、様々な影響を与えていきます。13話それぞれに人生ドラマ。壺の不変かつ静かな美しさとは対照的に、人々の揺れ動く心、虚栄心、家族の力学、世間の力学などが次々と描かれます。
有吉佐和子は、市井の人々の生き様を実にユーモラス、かつ、シニカルに描きます。壺を見る目(扱い方)が、その人々の人生や思考ににシンクロしている点が実に面白い。「女性の低い目線」が鋭く光る、味のある作品です。
読者は、「次は、壺はどのような経緯で次の人の手に渡るのだろう」「その人は、どんな生活者なのだろう」「ツボを通じて、どんな感情を抱くのであろう」と、先が知りたくてページをめくる手が止まらなくなります。
この作品、あらすじを読んでも面白くない。実際に読んでこそ、面白さがわかる作品です。この書評をきっかけに、一人でも多くの方が本作を楽しまれることを望みます。
『青い壺』:あらすじ・感想
様々な人の、様々な人生を切り取る
物語のスタートは、無名の陶芸家・省造が、たまたまの偶然で生み出した「青い壺」。この壺はデパートでの販売を機に、性別も年齢も、職業も貧富の差も異なる人たちの人の手を渡り歩いていきます。
定年退職の夫が世話になった副社長への贈り物として、
ある時は、遺産争いに立ち会い、
ガラクタ同然で買われ、
修道女へ心のこもった感謝の贈り物として贈られ、
スペインに渡ったうえで、再び、日本に戻り、
高価な骨董品として評され、
そして、再び、時を経て、省造の目の前に現れるー
人生には、幸福な瞬間もあれば、不幸も襲う。たとえ、幸せであっても小さな諍いもある。そんな人々の人生を、有吉佐和子は壺を軸に切り取り描きます。
壺は、十余年の時を経ても、何も変わらず美しい姿であり続けている。それに対し、人間の気持ちは何とも儚く移り変わる。その対比が見事です。
壺の評価・価値
「美」を愛で楽しむための壺。価値ある「美術品」としての壺。
人は美しいものが好きです。しかし、一方で、美しさに感動を覚えない人もいれば、美しさを「お金」に結びつける人もいます。有吉佐和子は「青い壺」を通じて、ここに渦巻く人の思い・欲も描き出します。
美しい壺に、花をいけ、生活の潤いとする人もいます。素敵な壺を感謝の気持ちにと思って、心を込めて贈っても、相手がそれを嬉しく思ってくれるとは限りません。また、壺の美よりも、資産価値を大事に考える人もいます。
人の手を渡る対象物を「美しい壺」と設定したことで、人間の心がいろいろ見えてきます。
女性の低い目線から鋭く家族・社会を突く
13話で描かれる人々は、職業、暮らしぶり、価値観が実に多様です。有吉佐和子は、どのエピソードにも、「人/社会の醜さ」を忍ばせ描いています。
- 不満、愚痴、意見の食い違い、いさかい
- 家族内の力学
- 世間の力学
- 周囲より裕福・立派でありたいと思う虚栄心 等
温かいエピソードの中にも「人生の生きづらさ」「不満」を忍ばせています。それは、家庭内のパワーバランスだったり、周囲の人とのかかわりであったり、ポリシーの違いだったり、欲深さだったり… 各話の主題は何か、読了後に考えてみると面白いかもしれません。
作家:有吉佐和子と主な作品
有吉佐和子は、戦後日本文学を代表する女性作家。鋭い社会批評と独特のユーモアを持つ作品で知られています。
社会派の長編小説から時代小説、風刺の効いたエッセイまで、作品は多岐にわたります。特に、人間関係や社会制度の中での矛盾や葛藤を巧みに描く点で高く評価されています。現代でも高く支持され、本屋さんで特集が組まれていることを見かけます。
2024年12月放送、『100分de名著 有吉佐和子スペシャル』でも、特集が組まれ、3冊の本が紹介されています。ホームページでは、以下のように紹介されています。
「個と家の相克」「埋もれてしまった女たちの人生」「老いの深刻さと尊厳」……戦後の文壇が長らく直視してこなかった問題に挑み、それらの問題が引き起こす悲喜劇を真っ向から描き続けた作家・有吉佐和子(1931-1984)。
今年、没後40年を迎える。市井の人々の低い視線から、社会に渦巻く問題に対して時にユーモアたっぷりに、時にシリアスに切り込んでいく作品群は、今も多くの人たちに読み継がれています。
有吉の代表作「華岡青洲の妻」「恍惚の人」「青い壺」といった作品を通して、「家族とは?」「老いとは?」そして「人間とは?」…といった奥深いテーマをあらためて見つめなおします。
私は『華岡青洲の妻』も合わせて読んでみましたが、実に、女性の目から、生活に密着した社会の問題を切り取るのが実にウマイ女流作家さんだと、ファンになりました。『恍惚の人』も、いつか読んでみたいと思います。
最後に
今回は、有吉佐和子の『青い壺』のあらすじと感想を紹介しました。
本作はあらすじだけ知って面白い作品ではありません。ストーリーのテンポの良さ、ユーモラスさ、シニカルさは読んでこそわかります。実に味のある作品です。是非、多くの人に読んでみてもらいたいと思います。
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