- 操り人形の姫から、7代の天皇を見守る国母へ!藤原彰子の波乱の人生を描く歴史小説
- 藤原一族の「望月の栄華」の影の立役者!権力欲の塊のような人達に囲まれながら自我を貫いた彰子の聡明さ」と「器」があってこそ!
- はじめて知る歴史が面白い!一条天皇への愛、紫式部との絆、国を思う想い。歴史小説の醍醐味が味わえる
★★★★☆
Audible聴き放題対象本
『月と日の后』ってどんな本?
望月の…で有名な、平安時代中期に権威を振るった藤原道長。
その娘にして、時の帝・一条天皇の后となった彰子。
NHK大河ドラマ『光る君へ』では、彰子を見上愛さんが演じています。
『月と日の后』は、お人形のように大事に育てられた彰子の、”国母”としての知られざる人生に焦点を当てた歴史小説です。
わずか12歳で入内。31歳で国母となり、32歳の若さで夫を失う。
二人の皇子を産み育て、その二人を共に天皇にする願いは叶うも、その二人の帝には先立たれる。
しかし、それでも、父・藤原道長の政治の道具となることに背き、正しい国を作ろうと、合計7代の天皇を見守り、導き、”望月の栄華”を成し遂げた人生は、まさに波乱の生涯。
藤原道長、そして、国母にして道長の姉・藤原詮子の道具として、一条天皇に嫁いだころは、「世の中」はもちろん、「自分の身の上の意味」も十分には知らないお嬢さまですが、成長と共に、国母として、正しい国を作ろうと尽力します。その気高いお心には、「こんな立派な人物だったのか!」と、いたく感動します!
本作は、歴史小説家・冲方丁さんの作品ですが、著者の小説『はなとゆめ』は、清少納言と中宮定子の関係を描いた作品で、その続編といってもおかしくない作品です。一条天皇が愛した定子亡き後、一条天童がどのように彰子を愛するようになり、また、宮中・政治が変わっていったかを「流れ」で知ることができます。
はじめて知る歴史。歴史上の人物として、誰もが知る偉人としてクローズアップはされなくても、国のために尽力した人がいることを、改めて気づかされ新鮮であり、感動しました!
NHK大河ドラマ『光る君へ』ど視聴者の方なら、2作を合わせて読むと、ドラマがますます面白くなること、間違いありません!
- NHK大河ドラマ『光る君へ』の視聴者
- 平安時代に興味がある方
- 偉人の伝記小説が好きな方
『月と日の后』(上)の構成・読みどころ・あらすじ
『月と日の后』は、上巻・下巻の長編歴史小説です。まずは、上巻から、読みどころを解説します。
『月と日の后』上巻:読みどころ
- 父・藤永道長に言われるがままに12歳で入内したころの彰子の動揺・不安
- 政治のことなどまるでわからない彰子
- 次第に巻き込まれる権力闘争。道長と詮子の野望
- 次第に知る、藤原一族から課された重責の重さ「一条天皇から寵愛を受け、男子を生み、帝にせよ!」
- 一条天皇の寵愛を一心に受ける定子が24歳で病死
- 対立関係にあった定子亡き後に残された、2歳の遺児・敦康親王を胸に抱く彰子。敦康に自らを重ね合わせ、「この子は私が守る」と決意
【感動】政敵の子を育てる!守る!と決意する彰子
『月と日の后』上巻の読みどころはいろいろありますが、一つは、彰子(見上愛)が政敵・定子(高畑充希)亡き後に残された、2歳の遺児・敦康親王(高橋誠)を預かり・育てることを決めたことです。敦康親王を我が子と変わりなく愛情をもって育て、帝に導きます。
実際の彰子が、敦康親王のことをどう思っていたかはわかりません。しかし、さすが、歴史小説家・冲方丁さん。彼の構成力でとてもドラマチックに描かれます。
父の操り人形となり入内した後、内裏生活に虚しさを感じていた彰子は、幼き2歳の敦康親王に自分を重ね、敦康親王に自分と同じような虚しさを感させずに育てたいと思います。そして、そのためにも、「なぜ、自分、そして、敦康親王が、ここにいるのか、その因果を知らなくてはならない」と考えるのです。
高貴な身分で生まれたことの意味を探り、どう生きるかを考えるー
ここの件を通じて、読者も、平安時代のどろどろの権力闘争・社会背景をストーリーを通じて学べます。
【怖すぎ】詮子に募った妬み・つらみ
政治のことなど、知らずに嫁いだ彰子は、周りで何が起きているのかさっぱりわかりませんでした。漢詩も知らないので、周囲の男性たちが何を話して言えるかもわかりません。
誰に相談したらいいのだろうー そう思って教えを請うたのが、父の姉にして一条天皇の母である藤原詮子(吉田羊)です。
いや~。この藤原詮子の話が怖すぎ😱。強烈。是非、この部分は、ストーリーで読んでほしい。
詮子は国母ですが、全く自分のには生きられなかった人です。NHK大河ドラマでも描かれましたが、父・兼家(段田安則)の政治の道具となり、第64代 円融天皇(坂東巳之助)に入内。後の第66代・一条天皇を授かるも、天皇の正式な妻である中宮や皇后ではありません(地位は女御)。さらに、円融天皇は権勢を振るう兼家を警戒。さらには、兼家が円融天皇を毒殺する謀を知り、怒り狂い、詮子を遠ざけます。
さらに、我が子である後の一条天皇(塩野瑛久)に定子が入内してからは、一条天皇の心はすっかり定子に奪われ、詮子との間にも確執がが生じます。
愛される妻にも、愛される母にもなれなかった… そのため、詮子の心は恨み・つらみなどでひどくゆがんでいます。
自分のプライドを保つためには、弟・道長(柄本佑)を推して時の権力者とし、道長が最高権力者となった後も「一族繁栄」のために画策し続けざるを得なかったことでしょう。これもあって、詮子がゆくゆくは国母となる彰子に語った言葉は、ものすごくダークな気持ちが渦巻いていて怖すぎるのです…
『月と日の后』(下)の構成・読みどころ
『月と日の后』下巻:読みどころ
権力欲の塊のような人達に囲まれながら自我を貫いた彰子。道長から政敵の子を守り続けたメンタルも半端ない。結果、成長した彰子は「聡明さ」と「器」を携えていきます。
- 彰子への出仕を頑なに拒否していた厄介な女房・紫式部の心を彰子はいかに奪ったか(絆を深めたか)
- 一条天皇との愛はどのように深まったか、彰子はどれほど一条天皇を敬愛したか
- 一条天皇の突然の死
- 過熱する、権力争い
- 勢力均衡が崩れることでさらに激化する、一族内での足の引っ張り合い、頻発する火災や疫病… 怨念うずまく宮中
- 時の権力者で父・藤原道長に 唯一反旗を翻し、国を正しく導こうと尽力する彰子
- 七代の天皇を見守る存在に。87歳で死去
『光る君へ』35話では、中宮彰子は『源氏物語』の「若菜」に自分を重ねて、「この子は、その後どうなるのであろうか」と、幼い頃より入内し内裏で生きる自分を重ねます。そして、まひろに「光る君の妻になるのが良い」と進言します。
この部分、『源氏物語のあらすじ』を知っている人から見ると、なんとも心憎い演出!「若菜」は後の「紫の上」。光源氏の最愛の女性になる人になります。
また、ドラマの中で、彰子が直球で一条天皇に「お上、お慕いもうしております」と伝えたシーンは胸熱でした😭
本小説にも、一条天皇への愛がつづられています。そして、その思いを胸に、立派な国母に成長していくのです。
【感想】彰子と紫式部の出会いと、その後の結びつき
『月と日の后』下巻の読みどころもたくさんあります。しかし、NHK 大河ドラマ『光る君へ』を面白く見るという観点からは、「彰子と紫式部の出会いと、その後の結びつき」は見逃せません。
普通の人なら、高貴な方の女房に「才女として抜擢」されると言えば、喜んで仕えると思いますが、紫式部(吉高由里子)の場合は、頑なに出仕を拒む。しかも、漢詩を学ぼうとしても、漢字を一文字すら書こうとしない。とにかく、紫式部は自分の才能をひた隠しにしようとします。
紫式部がどれほど厄介だったかは、上記記事で参照いただくとして、彰子が紫式部の頑なな気持ちをほぐす一計が素晴らしい! 彰子も才女!この件をきっかけに、彰子と紫式部の間に強い主従の絆が築かれていきます。
主従関係については、定子と清少納言の関係を描いた小説『はなとゆめ』と読み比べてほしい!
2つの主従関係は、その人物の性格から気質が全く異なります。トップ(定子・彰子)、重責役(清少納言・紫式部)が異なると、その組織(定子サロン・彰子サロン)の雰囲気も変わることも見えて、とても面白い。
さらに、『枕草子』『源氏物語』の価値も、単に国語で学ぶ教材ではない、素晴らしい文学であると見方が変わります。なぜ、『枕草子』は華やかなサロンの様子しか描かれていないのかー、この辺の清少納言の気持ちを考えて読むと、千年前を生きた人の気持ちが忍ばれます。
【尊敬】彰子は、いかにして尊敬される「国母」となったのか
本作後半では、彰子が代々の天皇を見守り、導く様が描かれます。
では、なぜ、頼りなき姫が、これほどまでの人物になれたのかー。このキーとなるのが、一条天皇です。
紫式部を女房に抜擢したきっかけも、国を守るために政治に当たる一条天皇を、そばで助けられる存在になりたかったからです。そのためには、漢詩の知識が必要。そして、一条天皇に教養を授けたのが、年上の后・定子でした。
彰子の身の上に立てば、一条天皇に愛される存在になるためにも、そして、敦康親王、そして、我が子をを立派な帝にするためにも、教養を高めたいと必死になっただろうことは想像に難くありません。このように考えると、定子と彰子は単なる対立関係ではなく、彰子にとって、亡き定子は「目指すべきよき先輩」であったのではないか。そう思えてしまうのです。
【感動】なぜ、彰子は道長に背いたのか
権力闘争に明け暮れる父・藤原道長の目指す「国造り」。それが、一条天皇亡き後の彰子が目指す「国造り」と乖離していきます。藤原道長の目指す「国造り」は「藤原家の繁栄」であり、「世のため」ではないのですから。
一族内での足の引っ張り合い、頻発する火災・疫病…. 。やれ「呪詛で殺せ!」「呪詛で病気を治せ!」、「火をつけ、貶めろ!」「罠にはめろ!」などと考えている輩たちに政治を任せてはいけない。事実、“朝廷の和”を念頭に仁政を心がけた一条天皇さえ、権力者の意には苦労が絶えませんでした。
こんな醜き勢力争いを嫌った彰子は、87歳の生涯を終えるまで、様々な苦労を乗り越え、一条天皇の後に続く帝たちを見守ります。
- 妻として:夫・一条天皇、政敵の子でありながら愛した敦康親王の死を乗り越え、
- 母として:後一条天皇、後朱雀天皇の死を乗り越え、
- 祖母として:後冷泉天皇、後三条天皇のとして存在感を示し、
- 国母として:60年近く政治を見守る
藤原氏を外戚としない(藤原氏の女を生母としない)天皇が登場するのは、33歳で即位した第71代・後三条天皇。幼年ではない天皇の即位も久しぶりながら、藤原氏を外戚としない天皇誕生は170年ぶりのことです。
後三条天皇が善政を施すに当たっての言葉、そして、彰子の死の間際の言葉は、胸熱です。後の天皇が参考にする政治を支えた彰子、凄い人です。
最後に
今回は、冲方丁さんの小説『月と日の后』を紹介しました。読了して、タイトル「月と日の后」に込められた意味も、わかったように思います。是非、この点も考察してみてください。
本小説で学んだのは、「はじめて知る歴史」は面白いということ!はじめての事実に胸躍ります。一条天皇への愛、紫式部との絆、国を思う想い。歴史小説の本当の面白さ・醍醐味を味わうことができました。『光る君へ』と並行して読むと、歴史もよくわかって、面白く読めると思います。
しかし、まぁ、この時代のどの小説・本を読んでも出てくるのが、右大臣・藤原実資(ふじわらさねすけ)です。大河ドラマでは秋山竜次さんが演じています。彼の書いた日記『小右記』は恐るべし!今年は平安時代の読み物をいろいろと呼んでいますが、「実資、また出てきた!」と楽しみながら読んでいます。
是非、本書を手に取り読んでみてください。