- 赤染衛門はなぜ、『栄花物語』を描いたのかー 藤原政権の栄華と、その陰にある数々の涙を描く歴史小説。
- 宮中で巻き起こる政争・愛憎劇がおぞましい…. ラストに向けての怒涛の展開。涙なしでは読めない
- 著者の澤田瞳子さんは、同時代を描く作品を複数執筆。登場人物たちの知識も豊富で、彼らを見つめる目も深い。次どうなるのーと、ドキドキしながら、歴史を垣間見れる
★★★★☆
『月ぞ流るる』ってどんな本?
大河ドラマ『光る君へ』で、番組初期のころから登場する赤染衛門(あかぞめえもん)。
ドラマでは、源倫子の女房であり、さらに一条天皇の中宮となる娘の藤原彰子に従え、学問を指南指南する人物として描かれています。
文学史からみる赤染衛門は、歴史物語『栄花物語』(えいかものがたり)の作者。全40巻(正編30巻・続編40巻)、887年~1092年までの200年間を記した物語風の歴史書です。主要な登場人物は、藤原道長、中宮・彰子をはじめとする藤原家、そして、同時代の天皇一族の人々です。一家三后を実現し、摂関政治の頂点に君臨した道長の時代を中心に、栄華を極めた平安宮廷の姿が描かれています。
さて、澤田瞳子さんの歴史小説『月ぞ流るる』は、なぜ、赤染衛門(朝児(あさこ))が、『栄花物語』を描くに行ったったかーをドラマチックに描いた作品です。
物語の始まりは、長年連れ添った夫を亡くした56歳の朝児。文章博士の夫・大江匡衡(おおえのまさひら)の菩提を弔いながら、余生を静かに過ごそうとしていました。そんな朝児を、権僧正の慶円が訊ねる。頼賢(らいけん)という暴れん坊の弟子に和漢の手ほどきをしてほしいと託されます。
聞けば頼賢は、今上帝·三条天皇の女御・綏子(やすこ)と源頼定(よりさだ)との密通による不義の子だという。そんな、不遇な幼少期を送った頼賢の望みは、優しかった育ての親女御・原子の不可解な死因の解明と復讐でした。
朝児は、頼賢のため、そして、己のため、道長の娘にして、三条天皇の中宮である妍子(けんし)の女房として再び宮仕えを始めるのです。そこで、朝児が見たこととはー。
本作で描かれる藤原道長は、腹黒く強欲。三条天皇が、病に侵され、目も見えず、耳も聞こえない三条天皇に、しつこく退位を迫ります。道長の栄華の陰には、様々な人の、数々の涙がありました…
だが、書き続けなければ、朝児は胸の中で己に言い聞かせた。
決して、道長を貶めるためではない。
この世で何が起きて何が起きなかったか。
その晴れがましき栄華と、その陰にある数々の涙をー。
ラストに向けての怒涛の展開。涙なしでは読めません。
澤田瞳子さんは、平安時代の歴史小説を複数執筆されています。その分、登場人物たちを見つめる目も深い。舞台背景はメロドラマ顔負けの愛憎劇、そして、経済小説に見るような覇権争うが政争が繰り広げられます。そして、ミステリー要素も。
えっ、次どうなるのーと、ドキドキしながら、歴史を垣間見ることができます。
- 「光る君へ」の舞台をより深く理解したい方
- 平安時代をより深く知りたい方
月ぞ流るる:あらすじ・感想
紫式部が生きた平安中期を描く、豪華絢爛宮中絵巻。
日本初の女性による女性のための歴史物語『栄花物語』の作者である朝児(赤染衛門)からみた宮廷はどんな姿をしていたのか?
宮中きっての和歌の名手と言われる朝児(あさこ)は夫を亡くしたばかり。五十も半ばを過ぎて夫の菩提を弔いながら余生を過ごそうとしていたが、ひょんなことから三条天皇の中宮妍子の女房として再び宮仕えをすることになる。
宮中では政権を掌握した藤原道長と、あくまで親政を目指す三条天皇との間には緊張が入っていた。道長の娘の妍子が、将来天皇となるべき男児を出産することが、二人の関係に調和をもたらす道だった。しかし、女児が生まれたことで、道長は三条天皇の排除を推し進めていくことになる。
朝児は、目の前で繰り広げられるきらびやかながらも残酷な政争に心を痛める。
なぜ人は栄華を目指すのか。いま自身が目にしていることを歴史として書き記すことが自らの役目ではないのか。
そこで描かれるのは歴史の勝者ばかりではない。悲しみと苦しみのなかで敗れ去った者の姿を描かねばならない。その思いの中で朝児は筆を取る。
ーーAmazon解説
政争・愛憎が渦巻く、宮中物語
再び宮仕えすることになった朝児が見たのは、華やか宮中の陰で巻き起こる、政争と愛憎劇。以下を目の当たりにします。
- 血がつながっていても、親子は別の人間であるという現実
- 三条天皇に退位を迫るほど、藤原道長がなぜ、権力者を目指したのか
- 中宮・妍子と三条天皇の愛憎劇
朝児は心を痛めながらも、ことの成り行きをしっかりと見つめます。そして、今、目にしていることを歴史として書き記すことが自らの役目ではないのかーと思い至るのです。
歴史とは、美しくも、残酷。そして、欲深い欲とは、実に恐ろしい…. そう思わずにいられません。
愛憎だけでないミステリー性
本書は、宮中の政争・愛憎を描いていますが、「頼賢が原子の死の真相を追う」点に、ミステリー性もあります。頼賢・朝児に、夫の後任である文章博士の菅原宣義(のぶよし)が、真相を追う様子は、えっ、この先どうなるの!とワクワクしながら読み進めることができます。
もちろん、たどり着いた真実も、意外。面白いです。
登場人物・人間相関図
本書は主人公・朝児と、朝児から学びをえる見習の僧・頼賢が準主役で話が進みます。平安時代の歴史小説を読むときに大事なのは、人間相関図。この理解失くして、物語を面白く読むことはできません。
本作は比較的、登場人物がシンプルです。大河ドラマ『光る君へ』を見ている人なら、理解もしやすいでしょう。
個人的には、歴史をふまえて、もう少し、広い人物相関図を知っている方が面白く読めると感じました。そこで、参考まで、もう少し広い藤原家・天皇家の系図を掲載しておきます。
最後に
今回は、澤田瞳子さんの『月ぞ流るる』のあらすじと感想を紹介しました。
歴史小説は、その時代背景を知れば知るほど面白い。一年かけて、様々な平安時代小説を読んできて、そのことを実感しています。「つまらない」と思うのは、「大体は知らないから」この事実に腹落ちしました。
本作のもう少し後の時代を描く澤田瞳子さんの歴史小説『満つる月の如し』も面白い!道長の子・藤原頼通よって建造された、京都・宇治の平等院鳳凰堂に出かける方は必読!ご本尊の見方が大きく変わります!
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